表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/52

想いは衝撃より強く 3


 一年半ぶりかもしれない。



 うららかな春の昼下がり。私は瑞希と並んで、家に向かっていた。



「もういいから、学校戻りなよ。お昼食べる時間無くなるよ」

「いいよ。心配だし、家まで送るよ」

「……」


 お昼休みは45分しかない。

 うちまでは片道15分弱の道のりなので、往復していたら、瑞希はお弁当を食べる時間が無くなってしまう。

 正直、具合はもうすっかり良い。

 こんな風に荷物を持ってもらう必要も、送り届けて貰う必要も、まるでないのだ。


『あんまり食欲ない…』

 

 瑞希を振り切る為、適当についた嘘が仇になったようだ。

 教室から響くあの声を瑞希には聞かせたくなくて、咄嗟にあんなことを言ってしまった。もっと気の利いたことを言えば良かった…。

 普段、お弁当に目を輝かせている私があんな事言えば、よほど酷いのかと驚いちゃうよね。



『ところでさっきのあれ、堀浦さん、勘違いしてそうじゃない?』

『倉瀬君、優しいから放っておけなかっただけなのにね。自分に気があるとか思い込んでそうだよね』

 

 あの時の声が脳裏に響き渡る。

 

 勘違いなんて私はしない。


 だって私は知っている。クラスの女子にわざわざ言われなくても、瑞希が特別優しいって事くらい知っている。瑞希は昔から、いつだってこうだ。


「こうして真紗(ますず)と一緒に下校するの、久し振りだね」


 ちらりと横を見ると、ふわりと笑って私を見つめる瑞希と目が合った。

 呑気に微笑む姿を見て、なんだか無性に腹が立ってきた。


「瑞希は優しいけどさ。誰にでもこういう事しない方がいいよ。勘違いする子もいるから」


 なんだか、昨日のお弁当の件から今に至るまでのこの流れに苛立ち、思わず棘のある口調で言ってしまう。

 私にだってこういう事しない方がいいんだよ?

 勘違いする子もいるから。

 さっきの教室の中に居た女の子達みたいにね…!


 ふわりとした笑顔が一瞬、真顔になり、瑞希が少し真面目な顔をした。

 綺麗な口を軽く開く。


「オレ、その気のない子にこういう事しないよ?」


 ………。


 うそつき。今、私の隣にいるじゃないか。


 私も一応女の子なんだよ?

 瑞希はそんな事、思って無さそうだけど…。


 春休みの出来事を思い出す。


 シュークリームを食べようとした私に、一口食べていい? なんて気軽に言ってきたよね。

 それ、間接キスになるんじゃない?

 なんて一瞬思ったものの、何とも思って無さそうな瑞希の表情を見ていると、大した事ではない気がしてきて、いいよって差し出したけど。

 よく考えると小さい頃やった事ある気もするし。


 瑞希の中で私は、小さな頃のままで止まっているのかな。

 だから平気で、こういう距離の近い事が出来るんだろうな。


 中学3年生の女の子ではなくて。

 幼なじみの小さな子。


 

 でも残念だけど、周囲はそう、見てくれないんだよね…。



()()()()

「えっ…?」

「足立さん、瑞希くんって呼ぶの?」

「何を突然……」


 びっくりして目をパチパチさせている様子を見て確信した。()()だ。

 

 私は階段で、足を何かに引っかけて転びそうになった。

 あれは、誰かの足だ。

 私は思い出した。あの時、同じクラスの足立さんが、階段の下から上へと登ってきて、丁度私とすれ違ったんだ。


 足立さんは去年も同じクラスだった。

 これはきっと…()()()だ。



 私は、あのひっそりとした中庭の風景を頭に思い浮かべていた。

 



     ◇ ◆ ◇ ◇




 翌日のランチタイム。

 中庭でのんびりと弁当を食べていたら、可愛い声が聞こえてきた。


「瑞希くん?」


 私が手を振ると、怪訝な表情をされた。


 昨日、早々と帰宅した私は、少ない脳みそをフル回転して、足立さんを呼び出す手紙を書いた。


 陰口は、確かに聞いていて辛いけれど、まあいい。心にしか害はない。

 でもでも…物理攻撃はマジ、洒落にならない。

 どうにかして相手の動きを止めたい…!


『お話したいことがあります。明日の昼休み、中庭で待っています』


 宛名に瑞希の名前を拝借すれば、来るんじゃないかなと思っていたら、本当に来た。

 私の字は瑞希と違い汚いので、パソコンで作ってみた。手書きだと確実にばれる。怪しまれるかな、と思いながら作ったのだが、私の期待通り足立さんはやってきてくれた。


「足立さん。ごめんね瑞希じゃなくて。私なんだ、手紙出したの」

「堀浦さん…?」

「足立さんなんでしょ? 昨日、私の足を引っかけたの」

「………」

「そして……以前、私に変なお手紙くれたの」


 新聞のきりばりをして作られた怪文章。

 瑞希くん なんて言葉が入っていて、私の机の中に直接入っていたあのお手紙。

 あれも、去年も同じクラスだった足立さんの仕業かなと思ったんだけど…。


 俯いた足立さんが、顔を上げる。きっと私を睨みつけた。

 保健室の隙間から見えたあの瞳そっくりで、なんだか安心した。


 私に危害を加えようとするのは、すべて足立さんただ1人。だとすれば…この子の怒りを鎮めれば、私はもう安泰!


「それだけじゃないわ、あなたの頭にボールをぶつけたのも私よ!」

「……えっ?」


 あのボール、男子が投げたやつが当たったんじゃあないのか!


「だって悔しかったんだもの。瑞希くん、リフティングしながらあなたの事見てるんだもの!」


 ちょ、ちょ、ちょい待って。

 なに見てんのよ瑞希。私にこうして、とばっちりくるじゃないかあ!


 足立さんは、開き直ったのか、踏ん反り返って語りだした。


「あの手紙だってそうよ。私、ずっと瑞希くんが好きで、やっと勇気を出して告白したのに……好きな子がいるから付き合えない、なんて言うんだもの」

「そ…それでどーして私にあの手紙が来るんだよ…」

「だって瑞希くん、それって堀浦さんの事? って聞いたら、そうだよって言うんだもの!」


 え………?


 瑞希が、私の事…?

 

 一瞬、どきりとしたものの、すぐに頭を振る。

 これはきっと、穏便に振る為の嘘だ。

 足立さんが挙げた名前が、たまたま私だったというだけで。きっと他の誰の名前を聞いても、そうだよ、って言ったに違いない。

 勘違い…私はしない。

 

 しかし瑞希め…。 


 やっぱり、私が睨んだ通り、とんでもない断り方してたな…。

 断るにしても適当な事言うなっての。

 私の名前をダミーに使うんじゃない…!


 なんだか段々、瑞希に腹が立ってきた。


「昨日だってそう。ボールがぶつかって倒れたあなたを、瑞希くんてば保健室まで運んでいくし、そのあと心配そうにお見舞いだって行くし。私ほんとうにあなたが羨ましくて憎くて……」

「いやいやいやいや」


 どこが羨ましいのよ!


 教室の中のあの声、足立さんにも聞かせてやりたい。あんな風に言われて誰が嬉しいものか。

 私は、教室の中で安らかに、お弁当が食べたかった…。

 ボールは痛かったし。あれでいい事って、体育の授業がサボれた事くらいだ。


「その後も瑞希くん、あなたを心配して追いかけていくし。階段で転びそうになったあなたをあんなにかっこ良く助けて、おまけに家まで送るなんて言うし…!」

「足立さん………」


 そんなに羨ましいなら、交代してあげたのに……。

 むしろ追いかけていらなかったし、家まで送っていらなかったんだけど…。

 こんな私をひたすら羨ましいと言う足立さんが、なんだか、不憫に思えてきた。


「足立さん……瑞希の事、本当に好きなんだね」

「堀浦さん……」


 よく見ると、足立さんは結構可愛い顔をしている。

 小柄だし、ストレートボブがとてもよく似合っていて、愛らしい妹みたいな子だ。

 お試しで付き合ってみればいいのに。

 そうすれば私は今頃無事だった。


「私ね、一年の時、瑞希くんに助けて貰ったの」


 さっきまでの勢いはどこへやら、足立さんは急にしおらしく語りだした。


「昨日のあなたみたいに、階段のところで躓いて落ちそうになった私を、後ろから捕まえて支えてくれたの」


 そう言って、足立さんは頬をピンクに染めて語りだす。


 ああやっぱり、その気のない子にこういう事してるんじゃないか。

 ほんとうに瑞希はうそつきだ。


「その日から瑞希くんが好きになってしまって……。でも、瑞希くんはいつもあなたを見ているんだもの……どうして……」


 語りだすうちに恨みが再燃したのか、再び私を睨みだした。


 待って! 待って! それ違うから…!

 恐らく勘違い…!


「あのね、足立さん。落ち着いて…。私と瑞希は、何もない」

「ふん、振られた時はっきり聞いたもの私! そうだよって」

「それ、諦めて貰うためについた適当な嘘だよ! 私の名前を聞いて、そうだよって言っとけば済むだろう的な……きっとそんなのだよ!」


 知らないけど…!

 でもきっと、断る為の常套句ってやつだと私は思う。

 理由をはっきりさせた方が、相手も諦めてくれやすいだろうしね。


「瑞希くん、あなたにはあんなに優しいけど?」

「瑞希は誰にでも優しいって! 私だけじゃないよ、あの時倒れたのがたまたま私ってだけで…あれが足立さんなら、足立さん運んでるよ…!」

「本当かしら……」


 知らないけど…!

 でもきっと、瑞希は優しいから、なにかしら対応はするんじゃないかな。

 想像だけど。


 足立さんの怒りを何とか治めたくて、私は必死で宥めにかかる。


「そもそも私と瑞希、ただの幼なじみってだけで、特にどうこうないってば……だって、ほら よーく私を見てよ。こんな私を、あの瑞希が、好きになると思うの…?」


 そう言って、私はじっと足立さんの顔を見つめた。

 足立さんは私の勢いに飲まれたのか、じっと黙って私の顔を見回した。


「全く思えないわ……」


 でしょうね…!


「……堀浦さん。ううん、真紗さん」

「――――――え?」


「私、あなたの事誤解していたかもしれない」

「と、突然どうしたの? 足立さん…」

「ごめんなさい! 真紗さんは瑞希くんに振り回されているだけなのね。そうよね、瑞希くんが相手にするなら、もっと可愛い子にするわよね」

「そう、そうよ! 私より可愛い子、瑞希の周りにはいっぱいいるもんね!」


 私の顔をじっくり見た途端、納得されるっていうのも、悲しいものがあるんだけど…。

 しかし、足立さんがどうやら治まりそうなので、憂鬱な思いに蓋をする。

 瑞希の周りに、私より可愛い子がいっぱいいるというのはまあ、事実だし。


「真紗さんの事は、幼なじみの可愛い犬みたいな感じで、優しくしているだけなのよね、きっと」


 犬? 犬? 

 酷い事をさらりと言われているような気がしてきたけれど、足立さんが大人しくなるなら何でもいいやと思い、取り敢えず頷いておく。


「そうよ、そんな感じよ。瑞希は私を女の子って思ってないから大丈夫だよ」


 顎を小刻みに上下へと動かし、私は必死で足立さんの味方アピールをする。


「ごめんなさい、私、沢山ひどい事してしまって…」

「いいよ、もう、これから先何もしないならそれで」

「ありがとう…。ねえ、私達お友達になれないかな? 私と瑞希くんの事、協力して欲しいの!」


 ええ?


 足立さんが私の手を取った。

 うろたえたものの、よく考えると私、まだ同じクラスに友達いない!

 ここ数日のクラスのみんなの様子を見ている限り、出来そうな気もしてこない…。


 ………。


 足立さんでも、仲良くしてくれるなら、いいか!


 もう害がないならなんでもいい。

 この子も、これはこれで一緒に居ると楽しいかもしれない。

 なんだか急展開にハイになった私は、勢いよく返事をした。


「私でよければ、よろしくね!」



 私は足立さんと、なぜかにっこり笑って手を取り、教室まで戻るのだった。






 容姿は、散々な言われ方してますが普通です…。

 瑞希の隣に並ぶと落ちて見えるんです。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ