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想いは衝撃より強く 1

中3の新学期。


1~3+オマケくらいの長さ。


 新学期が始まった。


 数学の課題は瑞希のお蔭で無事、全ページ埋める事が出来た。


 なぜだか毎回、美味しいおやつまでついてきて、勉強は疲れたけれどわりといい思いが出来た。

 よくよく考えるとこっちがお世話になっている方なので、本来は私が差し入れしないといけないような気がしてきたのだけど、もう遅い。


 シュークリームを半分食べられ、怒った日もあったな。

 よく考えたら、片方は瑞希のものなんだし、そもそも瑞希が用意してくれたものなんだから、私怒る権利なかったな、と家に帰ってから気づく。


 理不尽に怒り散らしたにも拘らず、次の日にはロールケーキが私を待っていた。

 またもや瑞希は、なぜか自分の分も私にあげるなどと言い出したけれど、今度はちゃんと、食べるのは自分の分だけにしておいた。

 食べ過ぎてばかりいても、太るしね。



 つらつら考えているうちに学校に着いた。

 今日は、気になる発表が私を待っている。



 中学は小学校と違い、毎年クラス替えがある。

 真琴と同じクラスになった事はない。双子は引き離すべき対象らしく、やはり今年も違っていた。


 気になるのはやっぱり、瑞希。


 祈るように張り出された紙を見る。

 お…おおお…


 やったあ! 別だあ!



「別になっちゃったね」

 

 いつの間にか後ろに立っていた亜矢ちゃんが、寂しそうに呟いた。

 亜矢ちゃんはまたもや瑞希と同じクラスだ。

 瑞希が羨ましい……。


「一緒が良かったなあ…」

「そうよね、真紗(ますず)ちゃんが私と同じクラスなら、倉瀬君もいたのにね」


 そっちはこのままで宜しい。


 学校では本当に近寄りたくないのに、瑞希はよく分かっていないようで、気軽に声を掛けてくるから困る。休み時間ごとにトイレに行く生活はもううんざりだ。


 それに同じクラスなんて、瑞希の完璧っぷりを日々見せつけられる訳で…。それに引き換え、どれもこれもぱっとしない自分の駄目っぷりが浮き彫りになり、悲しくなるだけだ。


 数学、あれだけお世話になってる私が言うのも酷い話だけど。


 ごめんね…。


 私は平穏な毎日が過ごしたい。

 クラスの女子とも仲良くしたい。

 違うクラスで、ホッとしたい…。



 新しい教室で、瑞希のいない空間にホクホクしながら机の中に荷物を片付けていると、隣の席の男子に声をかけられた。


「よろしく。俺、速水航太。航太でいいよ!」


 全然知らない人なのに、やけにフレンドリーだ。

 

「よろしく。私、堀浦真紗(ますず)。私も真紗でいいよ!」

「あ~、俺は苗字で呼ぶ事にしとくよ」


 自分は名前で呼んでいいと言ったくせに、私の事は苗字で呼ぶのか。

 変なの! と思ったものの、まあいいやと思い直す。


「堀浦、残念だったね。瑞希とクラス離れて」

「ううん。別に同じクラスになりたかった訳じゃないから…」


 てか、違うクラスでホッとしてる所だから…。


 しかし、航太くんて瑞希の友達なのかな?

 そういえば、たまに一緒に居るのを見かけるような。


「あれ、残念じゃないの?」

「うん。一緒だと面倒だし別でよかったよ」


 意外そうな表情をし、航太くんは目を泳がせた。

 なんだろう。私が瑞希と、仲良くしたがっていると思っているのだろうか。


 私と瑞希の関係に対する周囲の目は、女子と男子とでは少し、認識に差がある様に感じている。


 それはきっと、私が瑞希と離れるようになった直接の原因である沢井さんの一件が、女の子だけの閉鎖空間で起きた出来事だからだと思う。



 何故か瑞希の話題が多いなと思いつつ、その後も航太くんとの会話に気を取られていた私は、この時こちらをちらりと見つめる瞳の存在に気がついてはいなかった。




     ◆ ◇ ◇ ◇




「航太!」


 昼休み。同じクラスの友達をまだ作れていない私が、自分の席で弁当を食べようとすると、瑞希が突然やって来た。

 弁当を抱えている。ここで食べるつもりのようだ。

 航太くんも驚いている。


「なにやってんの、瑞希。ここで食う気? 椅子ないだろ」

「椅子なくてもいいよ、屈んで食べるから。一緒に食べようよ」


 そう言いながら、何故か私の方を向き、ふわりと笑いかけた。


「真紗、航太の隣の席なんだね」


 クラス別れてホッとしてたのに!


 私の気も知らず、瑞希は弁当を広げ出す。相変わらず美味しそうなおかずが並んでいる。

 なあに、あの豚肉のアスパラ巻きとか。あの色目、絶対美味しそうじゃない…。


 私の視線を感じ取ったのか、アスパラ巻きを一つ箸で掴み、瑞希がにんまりと私に笑いかけた。


「欲しいならあげるよ、真紗」


 頬がかっと熱くなった。

 ふと周りを見渡せば、複数の不穏な視線が私に向かっている。


 冗・談・じゃ・ない!!


「いらない! 椅子私の使えばいいよ、出てくから」


 瑞希の顔を見ず、がたりと立ち上がる。

 まだ広げていなかった弁当箱と水筒を抱え、私は安息の地を求め、教室から出ることにした。


 

 亜矢ちゃんの所へ行こうか、と一瞬思いかけたけれど、保田君の存在を思い出し、大人しく中庭に出る。



 綾川さんに、かつて呼び出された場所。

 相変わらず人気のない場所だ。

 あまり良い思い出は無いのだけど、仕方ない。


 はあっ。


 明日からどうしよう。

 早く同じクラスの友達を作り、教室でお喋りしながら、のんびりお弁当食べたかったんだけど…。

 今日みたいに、毎日瑞希が来たら。

 その度にあんな笑顔で話し掛けられ続けたら…。


 友達作れる気がしない!

 てか、またここに呼び出されちゃうじゃんか!


 鬱々としながら味気ない弁当を食べ終え、5分前の予鈴チャイムが鳴る頃ようやく私は立ち上がり、祈るような気持ちで教室へと向かい始めた。




     ◇ ◆ ◇ ◇




 教室に戻ると瑞希は自分のクラスへ帰ったようで、姿はもう見えなかった。

 ホッとして自分の椅子に座る。

 じりじりとした心持ちで5時間目の開始を待っていると、隣から呑気な声が聞こえてきた。


「堀浦も大変だな」


 むかっ。


 他人事のように言うけれど、そもそも瑞希がこっち来たのって、航太くんがいるからだよね?

 つい、棘のある口調で返事をしてしまう。


「ねえ、そんなに瑞希とお昼一緒に食べたいなら、航太くんが向こうのクラス行きなよ」

「やだよ。俺、昼飯はちゃんと椅子に座って食べたいし」


 それ、明日も瑞希来ちゃうって事ー?

 項垂(うなだ)れる私の姿を愉快そうに眺めながら、航太くんが神のような一言を口にした。


「安心しろよ。瑞希には、もう昼食べに来るなって言っといたからさ」

「ほんとっ?」 

「来て欲しく無いんだろ」


 思わず首を縦にぶんぶんと振る。


「理由もなんとなく分かった。あいつ…もてるからなあ…。今日の弁当の、あの態度はちょっとないよな」


 そうなの、分かってるじゃない航太くん。

 瑞希はちっとも分かってないのに…!


 私の気持ちを理解してくれる人がいる、この事実になんだか感動してしまった。


「うんうん、あれは無いよね。視線がきっついよ。そんな訳で私、出来るだけ瑞希には近づきたくないんだ」

「ふーん、可哀想に…」


 そう、結構可哀想なんだよ私。

 呼び出しされるわ、怪文章贈られるわ。

 精神攻撃ばかりだから、マシっちゃマシだけど。



 航太くんの目が、なにやら憐れみを堪えていた事に調子づいた私は、つい瑞希絡みの愚痴をつらつら語ってしまうのだった。




     ◇ ◇ ◆ ◇




 瑞希とクラスが別れたとはいえ、隣のクラスなので、体育の授業だけは一緒だ。


 最も、2クラス合同とはいえ授業内容は女子と男子では別なので、そこまで接点はない。同じグラウンド内にいるという程度だ。逆に亜矢ちゃんとは女子同士、一緒に授業が受けられる。


 中学には更衣室がないから、着替えは、片方のクラスで女子、片方の教室で男子と別れる。

 この時間は、女の子だけの、独特な閉鎖空間。

 ここで起きる出来事を男の子たちは知らない。

 

 だから笹川君も、私が瑞希に振られたと勘違いしたのだろう。


 女子の間では、瑞希が私を振ったという認識はされていない。私が瑞希を諦めたと認識されているようだ。だからこそ、昨日の弁当時にやらかした瑞希の態度はマズイ。


 航太くんが追い払ってくれてよかった。

 今年は、体育の時も亜矢ちゃんという味方がいる。


 なんだか心強い気分で着替えをし、私はグラウンドへと向かった。

 


 今日の授業は、女子はランニングをやらされるようだ。


「走るのやだなあ…」

「真紗ちゃんも? 私も体育は苦手なの」


 苦手と言いつつ亜矢ちゃんは早い。いつの間にか私より半周先を走っていた。

 どーなってんの!

 男子はサッカーのようで、グラウンドの中央で楽しそうにボールを蹴っている。


 気落ちしながらゆるゆると走っていたら、周りの女子達が黄色い声を上げ始めた。なんだろう、とふとその子達の目線の先を辿るとそこには、瑞希の姿があった。

 リフティングをしているのだか、呆れるほど上手い。そしてかっこいい。


 苦々しい気分になり、横を向いて走る。


 瑞希はどうして、なんでも出来るんだろう。

 私はどうして、何やってもダメなんだろう…。


 女の子の黄色い声を浴びる瑞希の姿が、あんまりにも眩しすぎて。

 一緒に課題をした時は、あんなに近くにいた瑞希が、今はとても遠い人のように見える。



 よそ見をして、ぼんやりとしながら走っていたのが良くなかったのか。

 突然頭に衝撃が走った。


 いった……。


 ボールがバウンドする音が聞こえる。どうやら、飛んできたボールに気付かず、まともにぶつかってしまったようだ。

 なんだか頭がぼうっとし、地面にへたり込んでいると、誰かがやってくる足音が聞こえた。


 亜矢ちゃん……?


「真紗! …大丈夫っ?」


 瑞希だ。来なくていい人が来てしまった…。



 目の前が急にくらりとしたかと思うと、私の体はふわりと持ち上がった。



 

 


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