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うららかな春の日

瑞希回。お遊び回です。

くっつけると、瑞希で遊ぶ回。


 春休み。

 

 学年の変わるこの時期は、長期休みだからといって宿題が出る訳でもなく。

 のんびりと過ごせるゆったりとした休みだ。


 但し、一部の生徒を除いて――――。




「はああ~~~~もういやー!!」 


 突然真紗(ますず)が叫び出し、机の上に突っ伏した。

 数学のワークを下敷きにしてはいるものの、紙面は真っ白だから、頬が汚れる事は無さそうだ。

 

「ねえ、どーして瑞希は宿題ないの? どーして私だけ数学やらなくちゃいけないの?」

「どうしてって、それは…」

「知ってる。私が成績悪かったせいだって知ってる…」


 どうやら、この間の学年末テストの結果が芳しくなかったようだ。成績の悪かった生徒のみ、対象の教科の課題が出されている模様だ。


 オレも出来るだけ教えたのだが、やはり取り組むには日数が少なかったのだろう。真紗が来るのをじりじりと待っているうちに3日前となってしまったのだが、これからはもう少し早めに声を掛けた方が良さそうだ。


 しかし、そのおかげで今、真紗がオレの部屋に来ていると考えれば、あの焦れた日々も無駄では無かったようだ。


「まだまだあるよう、もう疲れたよ…」


 相変わらず机の上で不貞腐れている真紗のつむじを眺めていると、ふと頭に触れたくなってしまった。


 …………。


 頭撫でるくらい、いいよね?

 そろりと手を伸ばす。


 ポンポンと軽く叩くか、優しく慰めるように撫でるか、どちらがより自然だろう…などと(やま)しい事を考えていたら、あと少し、という所で不意に真紗が頭を上げた。

 オレの手と真紗の頭に衝撃が走る。


「痛っ!」

「いって…」


「もう…なんで瑞希の手とぶつかるかな…本当についてないな私…」

「ごめん真紗…」


 再び机の上に頬を乗せ、ふて出す真紗の機嫌を取ろうと、立ち上がる。


「ちょっと休憩しようか。甘いもの持ってくるよ!」

「ほんと?」


 真紗の瞳が輝いた。


 前回の、チョコの件のお詫びも兼ねて、今日はシュークリームを用意しておいた。スーパーの安物だけど、真紗は十分喜ぶ筈だ。


 あの時は、なにも真紗の目の前で、1人チョコを食べるつもりなんて無かったんだけど。

 

 航太に情けないなんて言われたからさ。

 

 オレに全く気のない真紗の様子に焦れたのもあり、思い切って、真紗からのバレンタインチョコが欲しい! なんて言ってみたけれど………まるで伝わらなかった。


 結構、攻めたつもりだったんだけどな…。


 心の中で溜息をつきながら部屋の扉を開ける。

 相変わらず机の上に顔を乗せてふてている真紗の目の前に、シュークリームを2つ置く。


「カスタードといちごの2種類用意したから、好きな方取りなよ」


 ………。


 返事がない。おかしい…。

 

 そっと真紗の顔を覗き込むと、寝ていた。


 これ、このまま近寄ると危険なやつだよね!

 前回の反省をオレは活かす。

 触らない、顔見ない、近寄らない。これでいこう。


 オレは、部屋の端に置いてある箒を手に取り、真紗の真後ろに回って、柄の部分で真紗の肩をつつく事にした。


「起きなよ、おやつ持ってきたよ」


 つんつんつん。

 まるで起きる気配がない。余程宿題に疲れたのか…。

 寝られるとほんと困るんだけど。今日はまだ、明るい時間だからマシだけど。


 つんつんつん。

 くすぐったくて起きるかな? なんて思い、横腹の辺りをつついてみる。

 全く起きてこない。


 つつき方が甘いんだろうか…。


「疲れてるの? 眠いなら自分の部屋戻りなよ」


 声のボリュームを上げてみるも、人の気も知らず、相変わらずむにゃむにゃと気持ち良さそうに眠っている。

 なんだか、イラッ、とした。


 箒で、無防備に開いた脇をつつく。こちょこちょしてやれ………。


 つんつんつん…。


 どうやら脇は弱いようだ。つつき始めてさほど時間が経たないうちに、真紗の口から、ひゃひゃひゃ…と不気味な声が聞こえてきた。

 お、効いてる効いてる。

 さっきまでのうっ憤を晴らすべく、更に脇をつつき続ける。


「起きてこないなら、真紗の分もオレ食べちゃうけどいいのー?」

「いやあ…食べる……」


 やっと覚醒したようだ。つつかれた方の腕を上げ、真紗が振り向いた。


 ぐにっ。



 ………えっ?



 慌てて箒から手を離す。

 しまった、つついてはいけないものまでつついてしまった……!


「ご……ごめん、そんなつもりじゃなくて、その……!」

「………」

「真紗…」


 真紗が目をパチパチさせている。

 ど…どうしよう……!

 変な事しないよ、なんて、ついひと月ほど前に言ったばかりなのに―――。



「今、何か素敵なものが見えた…」

「え?」


 焦るオレから勢い良く顔を背け、真紗が歓声をあげた。


「シュークリームじゃん、わーいやったー!」

「う、うん…」

「カスタードにいちご? どっちも美味しそう! どっちにしようかな~♪」

「あ、なんなら両方どうぞ…」

「いいの…?」


 目をキラキラさせ、真紗はオレを見つめてきた。

 長いつきあいだから分かる。

 さっきの事、もはや頭の片隅にもないな…。


「いいよ、お詫びに…」

「お詫び? あー、こないだチョコ分けてくれなかったお詫び?」


 片隅どころか、初めから認識されていないようだ。

 真紗は浮かれた様子で、いちごのシュークリームを手に取った。


 うん、動揺してたのオレだけかあ!

 

 まあいい。無事、いつも通りの雰囲気に戻れそうでホッとする。真紗が顔を輝かせ、シュークリームの袋を開けた。

 まだドキドキしているオレとは違い、全く平静な真紗の様子を見てると、なんだか切ないものが込み上げてくる。


 なんだか、オレばかり動揺してるじゃないか。

 前回のチョコの件といい―――。

 

 あの時、オレのつまんだチョコを奪おうと、真紗が口を開けかぶりついて来たけれど。

 チョコだけじゃなくて、オレの指も口の中に入っちゃったんだけど……。


 真っ赤になり固まるオレに対し、真紗は悔しいくらい普段通りだったな。

 思い出すとまた、頬が赤く染まりそうだ。あの時の感触が忘れられない…。

 

 真紗も少しくらい動揺させてやりたい。


 とっさに沸き起こる衝動に抗えず、行動に移す。

 真紗に少し近寄り、にっと笑ってみせた。


「オレも一口、食べていい?」


 真紗が振り返る。

 精一杯、余裕な表情を作ってみたものの、正直心臓はバクバクと大きな音を立てている。

 真紗の腕がすっと伸びた。

 オレの口元にシュークリームが突き出される。


「いいよー」


 ……。


 え、ほんとにかじっていいの?


 妙にドキドキしながら、端の方を遠慮がちに口に入れる。

 オレが食べ、少し欠けたシュークリームを、躊躇いもなく真紗は口の中に放り込んだ。


「いちご味美味しいねー!」

「そうだね…」


 それ、間接キスっていうと思うんだけど。

 真紗は動揺どころか、全くもって普段通りだ。

 どうなってんだよ…。


 真紗が2個目に手をかけた。

 次こそ、次こそ真紗の頬を真っ赤にしてやりたい…!


「こっちも一口食べるー?」


 意気込んだオレの出鼻をくじくかのように、真紗の方から攻め込んできた。相変わらずなんとも思っていない様子だ。

 益々悔しくなって来て、前回の仕返しをしてやろうと企み、口を大きく開ける。


 シュークリームごと、真紗の指も、ちょこっと口の中に入れてやれ…。


 さすがに今度は、いくら真紗でも、少しは反応があるはず――――!


 がぶっ。

 

 シュークリームにかじりつく。真紗の指先が少し、オレの唇に触れる。


 …………。


 自分でやっといてなんだけど、照れてきた…。

 ちらりと真紗の様子を見る。


 真紗が、目を見開いて呆然としている。

 なんだか小刻みに震えている。あれ、やり過ぎたかな…?



「一口って言ったのに…! なにこのデカい一口…!」

「…えっ?」

「半分以上食べてるじゃん! カスタードの方が本命だったのに… 酷い!」

「ご、ごめん…」


 真紗の指めがけてかじりついていたら、どうやら食べ過ぎてしまったようだ。

 オレの思惑通りに真紗の顔は真っ赤になった。

 意味、違うけど…。

 


「明日も良いもの用意しておくからさ…!」

「絶対だよー!」


 あれ、明日も来てくれるのか。

 今日、わりとオレ、やらかし続けた気がするんだけど。


 こんな真紗だからこそまた来てくれるのか、と思えば、悔しい気持ちが少し、治まっていくような気がした。

 


 焦らずゆっくり攻めようか。



 もうすぐ新学期。

 また、同じクラスになれることを夢見て。






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