花火の痕跡(後編)
瑞希との、初めてのデート。
隣に並ぶ彼女は、やっぱり可愛い方が嬉しいよね?
そう思って、少しでも素敵な彼女を装ってやろうと思うのだけど、どうにも上手くいかなくて。
ガッカリされていないかな?
なんて不安に思いながら、隣をチラチラ見上げるのだけれど、なぜかいつ見てもふんわりした笑顔のままで。
瑞希の笑顔を見ていたら、なんだか嬉しくなってしまって。
顔が緩んでしまう。
「あ、金魚すくいだ。やろうよ!」
これまたお祭りの定番、金魚すくいを見つけ、瑞希の手を引いた。
金魚すくい、見かけるとつい、やっちゃう!
「どっちが沢山取れるか、勝負しようよ!」
「いいよ、やろうか」
余裕の笑みで瑞希が受けた。
何でも出来る瑞希だけど…これは流石に、フィフティー・フィフティーの勝負ができる筈だよね?
それにしてはやけに自信たっぷりだけど…。
いいや頑張る! 負けるもんかあ!
「ああっ…」
一匹目の金魚を掬おうとして失敗し、早速紙を破ってしまった。
まさかのゼロ匹…。
金魚、追いかけてもすぐ逃げちゃうし、結構難しいよね、捕まえるの。
そんな風に寂しく思いながらチラリと隣を見ると。
何故?
器の中、金魚がうじゃうじゃいるんですけど…。
「瑞希すごいね! 私一匹も捕まえられなかったよ」
「オレの勝ちだね」
得意気に笑いながら、瑞希が器を私に向けた。
笑顔がなんだか眩しすぎて、思わずドキンと胸が鳴る。
「どうしてこんなに取れるの?」
「どうしてって…もしかして真紗、後ろから金魚追いかけてない?」
「追いかけてるよ、だって逃げちゃうんだもん」
「前から捕まえるんだよ。金魚は後ろに移動できないからね…ホラ、こんな感じで」
あっさり金魚が掬われていった。
何でも出来る瑞希は、金魚すくいも私より上手だった。
「やってみる…?」
「みる…!」
今度こそ…今度こそ…
金魚を真正面に捉え、掬い上げる!
「あっ!」
あっさり紙は破れてしまった。えー!
瑞希がクスクスと笑っている。
「真上に上げたら駄目だよ、斜めにして掬わないと」
「それ、先に言って!」
むっとして、他に勝てそうなものがないか、視線を動かす。輪投げにヨーヨー釣り…いつも失敗するやつばかりだ。
うーん。どれもこれも勝てる気がしない…。
肩を落としていたら、目の前に、瑞希の笑顔の様にふわふわの綿菓子がやってきた。
「…食べる?」
「食べる…」
綿菓子っていいよね。ふわふわしてて、甘くって。大好き。
さすが、付き合いが長いせいか、瑞希は私の扱いをよく知っている。こんなもので機嫌が上向く私の意地汚さをよく知っている…!
更にたこ焼きとリンゴ飴を追加され、私はすっかりゴキゲンになってしまうのだった。
◆ ◇ ◇ ◇
「あ、射的」
お腹がいっぱいになり、花火まで後少しの間を少しぶらぶらと歩いていたら、瑞希が足を止めた。
お祭りの定番、射的だ。勿論、私は下手くそだ。的に当たった試しがない。
「瑞希なら上手に撃ちそう。やってみなよ~」
上手い人の射的を見るのは楽しい。瑞希はきっと、射的も上手いに違いない。なんだか見たくなってしまった。
「やった事ないから、上手く出来るかどうか分からないよ?」
「瑞希なら絶対、的に当てるよ! あれ取ってよ~、あの可愛いかんざし!」
タンポポの花をイメージしたような、可愛いかんざしが目に留まった。浴衣に似合いそうなデザインだ。箱に入り、一番奥の棚の上に置かれている。
「あの黄色いやつ?」
「うん!」
「分かった、やってみる」
そう言って、瑞希は射的屋のおじさんからコルクを受け取った。3つしかないコルクをじっと見つめている。
3発で当てなさいとか、割と厳しいよね。
なんだか緊張気味に、瑞希が構えた。
………。
もしかして、外しちゃうかな?
そうだよね、やった事ないって言ってたし。幾ら瑞希が何でも出来るって言ったって、そこまで何もかも上手く出来る訳ないよね?
プレッシャーかけてしまったかなと思い直し、瑞希の肩をつついた。
「やっぱりあれ、取れなくてもいいよ、気にしないで」
「取るよ」
やけに真剣な顔をして、視線は景品に向けられたまま、瑞希は低い声で呟いた。
なんか…マジだ!
瑞希が一発目を撃った。
弾が景品の横手を掠め、少し傾く。
コルクを再びセットし、また構えだした。
頬の横に銃を当て、真剣な眼差しをした瑞希の姿は異様にかっこいい。いつの間にかギャラリーが出来ている。それも女の子の。
二発目。
左上にコルクが当たり、箱がぐらつく。
素早く三発目をセットし、ぐらつく箱の、再び同じ場所にコルクを当てた。勢いに堪え切れず景品が落下する。
背中から黄色い歓声が沸き起こる。
「取れたよ、真紗」
景品を片手に、最高の笑顔で向けられた瑞希の姿はこの上なく素敵で、見慣れた筈の私ですら暫く見惚れて立ち竦んでしまった。
「じっとして」
そう言って、瑞希が私の耳の上にかんざしを挿す。
瑞希の手が髪に触れ、妙にドキドキしてしまう。
「ありがとう…」
嬉しい…。
なんだか幸せな気分になり、ニンマリとしていたのだけれど。
はたと気付く。
今日の私、いいとこないな…。
食べ物に浮かれて、浴衣汚して、景品ねだって。可愛い彼女、どこにも見当たらない…。
一方の瑞希と言えば、どこからどう見ても素敵な彼氏過ぎる。格差を埋めようと意気込んでた筈なのに、更に酷い格差が広がったようだ。
慌てて下を向き、目の端に浮かんだ涙をこっそり手で拭った。
「どうしたの、真紗。目にゴミでも入った…?」
瑞希に見られてしまったようだ。
「うん、砂ぼこりでも入ったのかも…」
そう言って誤魔化そうとしたのだけれど、瑞希の優しい声を聞いて、なんだか余計にぼろぼろと涙が出てしまった。
瑞希が焦り出す。
「泣いてるじゃん! かんざしの挿し方悪かったかな、ごめん痛い?」
「ううん、違うの…」
「オレ、真紗と初めてのデートなのに…普段と変わらなくて、嫌だった?」
「ううん…」
首を振り、なんとか言葉にしてみようと、ぐちゃぐちゃの頭の中を必死で纏める。
「わ、私も、初めてのデートだし、瑞希が喜んでくれるような可愛い彼女になろうって思ったんだけど、う、上手くいかなくて…」
「えっ…?」
「瑞希ってば素敵なんだもん! 私ちっとも素敵じゃないのに…」
さらにぶわりと涙が溢れたその時、瑞希の手が私の背中に回った。
ぎゅっと抱きしめてくれている。
さっきまでの不安じみたものが、急に何処かへ消えたような気がし、涙がすっと止まった。
「そんな事考えなくてもいいのに…。オレ、真紗と一緒に居られたらそれでいいのに」
「瑞希…」
「オレ、いつものように真紗が笑ってくれたら、それが一番嬉しいんだけど。真紗は…?」
見上げると、私の大好きな、ふわりとした笑顔を浮かべた瑞希がいた。
「私も…瑞希の笑顔を見ると嬉しくなっちゃう……」
両手を瑞希の背中に回し、ぎゅっとしがみつく。
ドドド、ド―――――ン。
その瞬間。
私達を照らすように、色鮮やかに花火が打ち上がった。
◇ ◆ ◇ ◇
「花火、始まったね」
「うん…綺麗」
ドン、ヒュルルルルル…
ドドドンッ
打ち上げられた花火はとても綺麗で、こんな綺麗な花火を今年は瑞希と一緒に見る事が出来ているというのがとても嬉しくて、思わず背後に居た瑞希に体を寄せた。
私が近寄った事に反応したのか、瑞希の両腕が私の肩にかかる。
温かい瑞希の腕の中、見上げると花火はどんどん綺麗な姿を散らし続け、なんだか無言で見続ける。花火に見とれているのか、瑞希も無言のままだ。
やがて花火はフィナーレに向かう。もっとこうしていたいのに、散り急ぐように何発も纏めて打ち上がり、そして辺りは静まり返った。
私を抱く腕が緩む。もう帰る時間だ。
瑞希との時間が終わるのが惜しくて。
思わず振り返り、瑞希の首に腕を回した。身長差があるのが恨めしい。下駄なので背伸びもし辛く、思うように近づけない。
「どうしたの?」
瑞希が軽く屈み、漸く目の前に綺麗な顔が現れてくれた。辺りはもう真っ暗だから、きっと誰にも分かるまい。
瑞希の唇めがけて、顔を寄せた。
温かくて、いい匂いがふわりと漂ってきて。
瑞希も少し照れたような顔をして。
その後、お互いにぎゅっと抱きしめ合った。
目を閉じて幸せに浸ろうとして、その前にふと瑞希の身体越しに遠くの風景を見たら、見知った人の影が……
って、えええええええ!!!
「真琴!!」
目をぱっちり開けるとそこには、浴衣姿で呆れた顔をした、我が双子の妹の姿があった。
「そういうの、後で部屋でやりなさいよ」
ひいいいぃ、見られた! よりによってこんなとこ見られた!
最悪な形で、瑞希との事を真琴に知られてしまった…。
瑞希もすっかり動揺している。
「いつから見てたの…?」
「真紗が泣き出した辺りから?」
「それ、全部じゃん!」
わなわなと震える私達を楽しそうに眺めながら、真琴は手を振り、真っ暗闇の中へ消えて行った。
瑞希・180ちょい(中学編は170台)
真紗・150ちょい 設定。
次はまた、バレンタインの続きでも…。




