00 異世界の神
その日は、酷い土砂降りだった…
大学卒業を間近に控え、未だに内定が貰えず毎日、面接をしていた。冬も近付き、日が暮れるのが早くなって真っ暗な道を傘をさして歩いていた。
「はぁ~…。今日の所もダメっぽいなぁ」
何度も面接を繰り返すうちに、面接の空気みたいなものを覚えた。面接官達の反応を見ればなんとなく駄目だったと分かってしまう。
「俺、将来どうなってんだろ?まさか、このままニート?いやいや、バイトの面接とかなら受かるし、フリーターにはなれる。フリーターになってもって感じはするけど…。公務員とまではいかなくても、安定した収入は欲しいなぁ…」
信号が赤に変わり、横断歩道の手前で立ち止まる。同じように傘を持って、スーツを着た男性や女性達。きっと、仕事帰りだろう。自分もあんな風になれるのか。それともフリーターになって、安いボロアパートにでも住んでいるのか。
そんな事を考えていると、悲鳴が聞こえた。
「何…だ…?」
悲鳴が聞こえた方に顔を向けると、こちらを照らす真っ白なライトが2つ。それが最後の記憶だ。
―――――
目を開けると、こちらを覗き込む少年がいた。
「やぁ起きたかい。藤宮海斗君」
「なんで俺の名前を…。てか、ここどこだ?」
「何があったか思い出せるかい?」
自分の記憶を呼び起こす。確か面接帰りに信号待ちをしていて、悲鳴が聞こえたからそっちを向いたら、なんかライトで照らされて…。まさか…。
「そう。そのまさかさ。君はあの場所で事故に遭って死んだ。君の国で良くある高齢者のブレーキとアクセルの踏み間違いってやつ?」
「いやいや、俺生きてるじゃん?」
「死んでるよ?話しやすいように生前の見た目っぽくしてるだけで。ほら」
そう言って、少年は俺の方を指さした。自分の体を見ようと顔を下に向けると、自分のが足元から透けていくのが分かる。
「う、うわぁぁぁ!?」
「君の体は、僕が魂から情報を引っ張って作ってる幻みたいなものだよ」
「…お前、何なんだよ?」
「君たちの概念で言えば『神様』だね。違う世界のだけど」
これはアレか?盛大なドッキリかなんかか?それともラノベ定番のアレか?
「定番の方だよ。流石だね~。実は僕の世界、魔力が減ってきちゃって危険になってるんだ。で、魔力を使用してないこの世界から譲渡してもらえる事になったんだけど、世界を安定して繋ぐのって難しいんだ。そこで、君に来てもらってこの世界とのパイプの役割をしてもらいたいんだ」
「なんか普通に心読んでる…。でも何で俺なんだ?死ぬ奴なんて日本国内だけでも結構いるだろ?」
「適正が必要でね。僕の世界は魔法があるけど、君の世界には無かっただろ?それでも、魔力に適性がある人間ってのはいるんだ。使えないから意味ないけどね」
「それが…俺?」
「そう。さらに魔法とか異世界とかある程度知識がある人間。君、漫画とかラノベとかよく読むでしょ?そういう事前情報があった方が僕も説明が楽だし、長生きしやすいんだ」
言っている事は分からなくもない。例えばドラゴン。知らない人間からすれば翼の生えたデカいトカゲ程度の認識だろう。だが、ファンタジー物では生物最強みないな位置にいるのだ。知っているのと知らないのでは生き残る確率はかなり違ってくる。
「そういう事さ。僕の世界に転生して貰いたいんだ。もちろん、ある程度なら優遇してあげられるよ。転生特典ってやつだね。流石に世界最強にとか、不老不死とかは無理だけど」
「断った場合は?」
「どうも無いよ?ただ、元の世界で輪廻の輪ってやつに戻るだけ」
それならここで転生した方が絶対に良いんじゃね?色んな異世界物を読んできたし、ネットで調べたりもしたし、知識だけでもそこそこの生活は出来る。それに魔法も使ってみたいし…
「決まったみたいだね。じゃあ特典はどんなのが良いのか話し合おうよ」
こうして、異世界に転生する事になり、神様と転生特典とやらについて語り合った。
この時の俺は、異世界というものに色々な思いを抱き、興奮していた。それがまさかあんな事になるとは、その時の俺は思っていなかった。
高齢者の事故という時事ネタを突っ込んでみた。後悔はしていない。
※高齢者の事故に巻き込まれても、異世界に転生出来る訳ではありません。
運転は自分の体調とも相談しながら、安全運転を心がけましょう。
飲酒運転、ダメ。絶対。