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迷宮世界に生きる  作者: panda
第一章 新生活の始まり
7/22

1-2.小さなきっかけ

執務室の机で書きものをしていた玲奈は、ふと顔を上げた。

お昼が近いらしい。

遠くから小鳥のさえずりが聞こえる。

朝降っていた雨はあがっていた。


玲奈はずっと机に向かって、このところの迷宮での戦闘をまとめていた。

属性魔法を付与したフルーの石ゴーレムに対する戦いに関してである。

玲奈は、付与する属性の違いによってゴーレムに与えるダメージが違うのか検証しようと考えた。

このところのフルーは危なげなく一撃でゴーレムを倒せるようになったので、データ収集のためにいろいろ試すことが可能になった。

前日までに火、水、風、土の四属性を付与して戦ってみて記録をつけている。

キリのいいところまで書くと、玲奈は執務室を出て庭を見に行った。


庭では厩舎手前の石畳みとなったあたりでフルーが素振りをしていた。

剣戟けんげきは鋭く、動きにキレがあり、体の軸がぶれることはない。

玲奈はしばらく見ていたが、頃合いを見て近づき話しかけた。


「熱が入っているね、フルー!」


「やあ、マスターか。なんとかかつての感覚が取り戻せそうだ。」


「それはよかった! これからも期待してるよ。」


「ああ、必ずや期待に応えよう!」


「楽しみにしてるよ。ところでそろそろお昼にするからスドン呼んできて。」


「ああ、待っててくれ。」


玲奈は厨房に入り、コンロにケトルをかけ、手早く三人前の食事を用意した。

ダダクラは魔法学園の食堂でアルバイトをしに出かけている。

ギリムはグレイナーの城内で騎士たちがよく利用する食堂を見つけたとのことで、昼食を取りながら彼らの会話を聞いてくるそうだ。


玲奈はフルーとスドンに待っていてもらって、ダダクラを迎えに行った。

学園の食堂でダダクラが帰り支度をしている間、玲奈は料理長に近寄り小声で尋ねた。


「ダダクラの仕事ぶりはどうですか?」


「それがね、レイナちゃんと正反対なの。」


「あぁ、やっぱり。」


「もう少し丁寧か、器用か、もしくは根気があればいいんだけれどね。」


「ご迷惑をおかけします。」


玲奈は料理長に頭を下げて食堂を退出した。



帰ってきたダダクラはそのままお留守番で、掃除をしていてもらう。

玲奈はフルー、スドンとストレッチで体をほぐす。

スドンも毎日やっているうちに慣れてきて、片足を上げて股関節を回す動きをこなしている。

ストレッチがすむと三人でゴーレムの迷宮に向かった。


迷宮までは歩いて十分前後で着く。

大した距離があるわけではないが、玲奈はスドンの歩くスピードの遅さが気になり、速く歩けるように歩行フォーム改造に取り掛かっている。

背筋をピンと伸ばして顔をあげ、大きく手を振り、歩幅を広くとって足首とつま先のスナップを利かせて推進力を出すべく指導していた。

不器用なスドンなのですぐにうまくいくべくもないが、それでも胸を張って手を大きく振って歩いている。


迷宮への道は朝方の雨で馬車のわだちに雨水がたまり、ところどころぬかるんでいた。

スドンは背筋が伸びて視線が上に向くのはいいが、その分足元がお留守になっていた。

そのためぬかるみに踏み入ってしまい、ブーツは泥だらけになった。


「スドン、ブーツが泥だらけだよ。」


玲奈はスドンを止め、ナイフを取り出して背で泥を落としてあげる。

フルーが口をはさむ。


「マスター、スドンは不器用で二つことを同時にできない。焦りすぎた。」


「そっか、焦ってたかあ。」


玲奈は首をかしげてたが、気を取り直してニコッと笑いスドンの背中をたたいた。


「私が足元見てて誘導するから、スドンは背筋ピンとしてタッタッと歩いてね。」


玲奈がスドンの右や左の肩をトントンとたたき、カーブを曲がり水たまりやぬかるみを避けるよう誘導したので、スドンはブーツをこれ以上ぬらすことなく迷宮の入り口にたどり着いた。


「こんにちは!」


玲奈は入り口を守る騎士たちにあいさつして迷宮に入っていく。


土ゴーレムとは戦わず三階まで降りる。

玲奈が自分も含め三人に付与魔法をかける。

光属性を付与する瞬間、かけた対象の体が淡く発光して、近くにいた石ゴーレムがこちらに向き直る。

しかしすぐに発光は消え、光を見失ったゴーレムは歩み去っていく。


近寄ってくる別の石ゴーレムにスドンが歩み寄り、盾をぶつけて戦闘開始だ。


ゴン


鈍い音がしてゴーレムがよろける。

足を送って体勢を立て直したゴーレムはスドンに向き直り、石の拳を振り下ろす。


ガン


スドンは盾を構えて難なくゴーレムの攻撃を受け止める。

その間にゴーレムの後ろに回ったフルーがその背に銅の剣をたたきつける。


ガツッ


激突した剣とゴーレムの背中から火花が飛び散り、ゴーレムは前のめりに倒れて動かなくなった。


「スドンもフルーもナイス! 球を取り出すね。」


玲奈は倒れたゴーレムに駆け寄り、白い球を取り出す前にゴーレムの損傷具合を確認する。

背中のえぐれた部分を観察するが、フルーの剣が通った箇所がえぐれているだけで、一見ほかのダメージは受けていない。

斬りつけた箇所の周辺が焼けただれた火属性や、深く亀裂が入った風属性に比べると光属性は大したことがないように見受けられる。

しかし玲奈がナイフをゴーレムに突き立てると、背中一帯がボロボロと崩れて表層が剥離した。

火属性よりもむしろ深刻なダメージを与えている。


「光属性すごいわ。」


玲奈がぶつぶつ独り言をつぶやくとフルーが微妙な目をしたので、あわてて白い球を掘り出した。


その後ゴーレムを三体倒したところで付与魔法が切れたので小休止した。

玲奈は持ってきたノートを取り出して、ゴーレムの損傷具合について図を交えてメモした。


一息ついたところで、戦闘を再開する。

玲奈は付与魔法をかけつつ、フルーとスドンに光魔法による目つぶしを試してみたいと言う。

光属性を付与して思いついたが、動物の目と違い無機物のゴーレムに瞳孔や網膜があるわけではないので、有効かどうかは玲奈自身も半信半疑てある。

フルーとスドンには、ゴーレムが拳を振り下ろすタイミングで発光させると告げた。


いつもとおりスドンがゴーレムに盾をぶつけて、ゴーレムがスドンに向き直る。

ゴーレムが振り上げた拳をスドンの向けて振り下ろし始めた瞬間、スドンのすぐ後ろにいて手のひらを前に突き出した玲奈が魔力を込めて手のひらを一瞬光らせる。

ゴーレムはスドンに向けてそのまま腕を振り下ろしたものの、玲奈の発した光に反応して体の向きを変えようとしたため動きがちぐはぐとなり、スドンの盾を撃つ拳に力はこもっていなかった。

フルーが後ろから斬りつけ一撃で倒した。


「マスター、効果はあったが危険もあったな。」


「危険だった?」


「今回に関しては危なげないが、スドンは臨機応変な動きはできない。タイミングがずれるとどうなるかわからないぞ。」


「たしかにそうだね。戦法としては有効かもしれないからもう少し研究してみるけど、今日はもうやめとくよ。」


考えてみれば属性を帯びた強い魔力を相手に放射しているのだ。

形を変えた攻撃魔法に等しく、ゴーレムが玲奈を脅威と認識したのも当然であった。



それからゴーレムを二体倒すと、今度は闇属性を付与してみた。


先ほどと同じように、スドンが盾をゴーレムにぶつける。

ゴーレムが向き直り、スドンに拳を振り下ろす。


ガン


背後に回ったフルーが剣で斬りつける。


ゴツッ


重くくぐもった響きを残してゴーレムは前のめりに倒れ伏す。


玲奈が白い球を取り出そうとゴーレムに駆け寄る。

ゴーレムの背中がどれだけ損傷しているか見てみる。

フルーの剣でえぐられた跡がくっきり残っているが、光属性のように周囲にまで広く損傷が及んでいる様子はない。

玲奈はけげんに思いながらも、白い球を掘り出すためナイフをゴーレムに突き立てる。

すると一見なんでもなかったえぐられた奥の部分がボロボロに崩れた。

光属性が表面に広く影響を広げるのに対して、闇属性は深く内部に浸透するようだ。

ゴーレムの肩から上を動かすと、斬った箇所から上下にもげかけた。


「闇属性えげつないなあ。」


玲奈の独り言に今度はフルーもうなずき、真剣に見入っている。


「ねえフルー、この闇属性は硬い金属製ゴーレムにも使えるかも。」


「そうだな、今度戦うときは試してみよう。」


この日はそれから四体の石ゴーレムを闇属性で倒した。

白い球のほかに一つだけ鉄製の球が手に入った。

手のひらに乗せた鈍く光る鉄球をながめて、玲奈は不思議な気持ちになった。

鉄の球は色のムラや曇りもなく均一な輝きを持ち表面も滑らかで、鉄の含有率や真円度も高そうである。


なぜ石でできたゴーレムの中に鉄の球が入っているのか?

この鉄球はどうやって作られたのか?


そもそもゴーレムとは何者なのか?

もし作られたものなら誰がなんの目的で作ったのか?


頭の中に疑問符がいくつも浮かんできた玲奈であったが、今日のところはキリもいいので引き上げることにした。


自宅に戻った玲奈とフルー、スドンは庭で腰を下ろして、念入りにストレッチをした。


まもなくギリムが大きな荷物を持って帰ってきた。


「ギリムお疲れ! 荷物多かったけどバテなかった?」


「俺も鍛えてるんです。マイペースならもうバテねぇですよ。」


「それは上々! お釣りの計算は大丈夫だった?」


「あはは、大丈夫、問題ねぇと露店のヤツらほざいてやがったです。」


「それはジョージョーデスネ。あとで新しい暗算のお勉強法が待ってるから楽しみにね!」


「げえ、そんなあ!」


「お勉強は明日にするから、夕食の準備するわよ。」


夕食はダダクラが焼いた肉とギリムが買ってきた串焼きでボリューム満点だった。


食後、お茶を飲みながら玲奈はギリムの話を聞いた。


「レイナさん、騎士団の連中のことがわかりやしたぜ。」


「ギリムに頼んだ甲斐があった。 さっそく聞かせて!」


「連中の名は、デカい方が鉄盟騎士団、ちっこい方がドミニオ騎士団ってぇんです。小さい方は短期で入れ替わっちまうから街にもロクに出てこねえんで、詳しいことはわからねえ。」


「問題は大きい方だよね。」


「そうです。デカい方は本部が皇都にあって、教皇庁からたんまり援助をもらってやがる。それで代わりに神殿やら礼拝堂の警備であちこち回るって寸法です。」


「なるほどね。」


「神官どもはふんぞりかえってやがるんで、騎士団の若えヤツらがめったに治してもらえねえそうです。」



「えっ、神官は騎士に守ってもらうかわりに騎士のケガを治してるんじゃないの?」


「幹部は別でしょうよ。でも見習いの野郎どもは迷宮や岩山で魔物狩ったときのケガでもなきゃ治してもらえねえ。」


「それはちょっといいこと聞いたかも。」


「レイナさん、悪い顔してるぞ。」


「えへへ、ところで前の住人のことはわかった?」


「ちっとはわかりましたぜ。奴さんはゼロスって名前で中隊長やってて、十年前の戦争でお手柄立てたらしいっすよ。」


「けっこうな名士かもね。」


「だから城内でもこのお屋敷は知られてるんだと。」


「なら堂々としてなきゃね。」


「そういうことです。」


「ところでギリム、そのアタマ?」


玲奈がギリムの両サイド刈り上げた髪を指差す。


「ヘヘッ、騎士の若え連中にはやってやがる。俺もこの方が目立たねえってわけです。」


「目立たないためねぇ。」


「レイナさんだって、髪型いじっておさげにしてるじゃねえか!」


「これは家事をするからしかたないでしょ。私はギリムが髪型に気を回せる余裕ができてよかったと思ってるから。」




夕食後、玲奈は執務室にこもって書きものの続きに没頭した。

記述としては今日の光属性、闇属性の戦闘結果を書くのみである。

ただ考察は、従来言われていた属性間の相性や相克というものが想定していたものと異なる結果となった原因に及んだ。

ゴーレムは土属性のようであるから、相性からすると風属性にはダメージが大きくなるが、水属性はダメージが小さくなるはずである。

しかし実際は風属性では斬撃より深く切り裂かれるものの、ダメージは水属性と大して変わらず、相性という面では中立の火属性とも差は感じられない。

焼けただれたり、ふやけたり、切り裂かれたり、ダメージの様相は各属性の攻撃魔法を受けたあとのようである。

このことは、スケルター教授が言うとおり、属性付与は物理攻撃力に魔法攻撃力を上乗せしたものであるということに合致する。

玲奈は少し考えて、スケルター教授には戦闘結果を淡々と記載したレポートを見せることにして、さほど時間をかけず書き上げた。

一方で手元のノートには今までの考察、つまり属性間の相性や相克というものへの疑問点や、属性の異なる魔物など条件を変えた再検証の必要性を書き込んだ。


さらに玲奈は魔法に関して、今日の戦闘で使った光魔法を振り返る。

玲奈は目つぶしまでいかなくても撹乱になれば思い、四元魔法でダメージを与えず攻撃力のない魔法を放ったが、ゴーレムは攻撃魔法ととらえたようだ。

逆に考えると、ダメージの上乗せができれば四元魔法を攻撃に転用できることになる。

その方法はすぐに思いつかないが、今後の検討課題として銘記した。


今日使った光魔法に関して玲奈は、詠唱せずに発動させてもゴーレムに攻撃魔法と認識されたことを重視した。

この世界の魔法は通常、杖か魔道書を掲げ呪文を詠唱して発動させる。

杖について玲奈は、今までにゴーレムとの戦闘で付与魔法をかけた場合、使用不使用で有意の差がなかったことから使用をやめているが、支障はない。

玲奈が使った光魔法は四元魔法によるもので、いわば生活魔法といってよい。

生活魔法でも本来は属性ごとに段階が分かれて、それぞれ詠唱が必要で効果も決まっている。

光魔法だったら、照明、閃光といった具合である。

しかし玲奈はとくにどの魔法と定めずに発動させた。

魔法名や段階にこだわる必要はなさそうである。

また、本来生活魔法としての光魔法は三百六十度四方に光が広がる性質がある。

しかし今日玲奈が放った光魔法は前方九十度くらいに集束することができた。

発動する者の意思と能力である程度細かくコントロールできるものかもしれない。

玲奈の魔法に関する疑問点は多岐にわたり、考察は深夜に及んだ。




翌朝、玲奈はミーティングの席で告げた。


「今日は午前中、入り会い地に木を伐採しに行くよ。ギリムも来てね! あなたの力が必要だから。」


「俺は構わねえですよ。」


「スドンはオノとナタを用意してね。」


「うん、わかった。」


「朝食がすんだら準備するように!」



朝食後、全員そろってグレイナーの城内に向かう。


「城内の材木商でバクロリーさんって人が入り会い地の世話役やってるから、話をしに行くよ。」


城門を守る騎士たちに玲奈は元気にあいさつして城内に入る。


「ねえギリム、城外では魔物も出るから索敵してて欲しいけど、城内では別のことをやってもらいたいの。」


「どんなことです?」


「暗算の練習よ。」


「げっ!」


「そんないやそうな顔しない! 別にうまくいかなくても夕食のお肉減らさないから。」


「それ聞いて安心しやした。」


「なにやるか説明するとね、二たす三は?」


「へ? やぶからぼうになんです?」


「二たす三は?」


「あっ、五!」


「じゃあ五たす三は?」


「えぇと、八!」


「こういう具合に、ある数に三をたしてその合計にまた三をたしてって暗算していくの。」


「ふぅん。」


「はじめの『ある数』はなんでもいいわよ。それで三ができるようになったら、こんどは七をたしていくの。」


「やり方はわかったけど、いったいこんなことやってどうなるんです?」


「暗算うまくなって、ギリムがお釣りをごまかさせないためだよ。」


「俺はそんなことねええ!」


「冗談よ。でもギリムはすばしっこさが命だから、頭の回転が速くなった方がいいでしょ。」


「関係あるんすか?」


「フルーが剣の素振りしたり、私が魔法で水やりしたりするのと一緒です!」


「ハイハイ、わかりましたよ。」


城壁に沿って話しながら歩いてるうちに、建物や塀が途切れて丸太が山積みになった場所に出た。

日焼けした筋骨隆々の男が丸太の山の間を動き回っている。

玲奈は近寄り声をかけた。


「おはようございます! バクロリーさんですか?」


「いかにも俺がバクロリーだがお前さんは?」


「城外に越してきた魔法学園のレイナと言います。今日は入り会い地での伐採をさせてもらいに伺いました。」


「おお、あんたが例の?」


自宅のことが騎士団以外にも知られているようで、わずかに苦笑いする。


「ええ、『例の』です。さっそくですが、入り会い地で木を切りたいので場所を教えてください。」


「おお、いいぜ。場所はあんたんちの前を奥に進むと十五分くらいで右側に青い布を巻いた木がある。山に入る道がそこなら分かれているから登ってけ。」


玲奈はバクロリーの話を聞きながら、持ってきたノートにメモを取る。


「しばらく登って赤い布が巻いてある木があったら次に赤い布がある木までの間が切っていい範囲だ。切るのは週に二本までだ、いいな!」


「はい、わかりました。」


「これはお願いなんだが、できれば入り会い地に行くついでに木を植えてくれると助かる。」


そう言ってバクロリーは手招きして、敷地の一角に建つ小屋の裏手に案内した。

そこにはまだ一メートルもないような針葉樹の苗が二十本ほど植えられていた。

その中からバクロリーは小ぶりな五、六十センチの苗をふた株掘り出して、根の周りをボロ切れで包んだ。


「すまないが、こいつらを開けた場所に植えて欲しい。」


「お安いご用です。大きく育つといいですね。」


玲奈はがそう言うと、バクロリーはしげしげと玲奈の顔を見つめる。

玲奈が小首をかしげると、ハッとして言い訳めかして話す。


「いや、あんたみたいに苗を気にかけるヤツは見たことなかったんでね。」


ノコギリやナタが散らばる小屋の中をのぞいてなにかを探している。


「植えたら水をやって欲しいんでオケを渡そうと思ったんだが、」


「水やりなら魔法で水出せますよ。」


玲奈は手のひらから水をポタポタしたたらせてみせる。


「さすが魔法学園だぜ!」


バクロリーが破顔する。

玲奈は苗木を一フルーとスドンに一本ずつ持ってもらい、手を振って材木商の敷地を後にした。


しばらくいったところで玲奈は、フルーとスドンから苗木を受け取ってアイテムボックスにしまい、また歩き出した。


「ねえギリム、暗算はちゃんとできてる?」


「あっ、えっ、今やってるところですよ。」


「がんばって! 城外に出たら魔物が出るから探索に切り替えてね。」


城門を出てしばらく進み、自宅方向へ左に折れると登り坂にかかる。

たちまちスドンのスピードが落ちるが、それでも背筋を伸ばして腕を大きく振っている。

坂道でも余裕を保っているギリムは得意げだ。

自宅が近づくと一旦平坦になり、そのまま通り過ぎて奥へと進む。

しばらくまばらな林の中を進むと、右側に青い布を目の高さに巻きつけた木があった。

見るとその木の裏手から山側に別の道が伸びていた。

バクロリーが言っていたとおりなので、こちらに道をとる。

しばらくはゆるやかな登りだが、左にカーブすると急坂にかかる。

スドンのペースが落ちるが、背筋は伸びたままで足取りはしっかりしている。

むしろ先ほどまで余裕の表情だったギリムがバテ始めている。

ダダクラも息があがり下を向くようになる。

まだ坂の途中だったが、登り始めて二十分で道の脇に平たい岩があるところで小休止を入れることにした。


ギリムとダダクラは腰を下ろすと岩に背をあずけてのびてしまった。

玲奈は背負ったバッグからコップを取り出し、魔法で水を入れて代わる代わる飲ませる。

スドンとフルーは涼しい顔をしている。


「スドンはしっかり歩けるようになったね。」


玲奈が言うと、スドンはかすかに鼻を鳴らした。

ギリムとダダクラが水を飲み終わると、玲奈は自分でも一口飲み、あとはスドンとフルーにも飲ませる。

ギリムとダダクラには魔法で微風を顔に当ててると、彼らに生気が戻ってきた。


「多分目的地まで半分は来ていると思うから、もうひとがんばりしよう! ギリム、周りに魔物はいない?」


ギリムが座ったまま首をめぐらし、無言でうなずく。

十五分ほど休んで、また急坂をゆっくり登り始める。

道はジグザグに曲りくねる。

玲奈は、ペースを守って余裕のありそうなスドンに話しかける。


「スドンは故郷の村で木を切るとき、何の道具を使ってた?」


「オノとナタを使った。」


「そう。故郷もこんな感じかな?」


「ううん、ここまで急じゃないし、岩も少ない。」


「スドンの村の木々は、秋になると葉っぱが赤や黄色に変わった。」


「うん!」


「秋になると木ノ実や果物はとれなかった?」


「トチノミがとれた。でもまずい!」


「あはは、食べ物が少ない季節だとしかたないね。」


行程に合わせてのんびり話しながら登っていく。

二十分ほどで傾斜がゆるやかになった。

少し先の木の枝に赤い布が見える。

そこまでたどり着くとギリムはドスンと腰を下ろし、ダダクラはヒザに手をついた。

玲奈は再びコップを取り出して二人に水を飲ませる。

ギリムに魔物が周囲にいないか聞くと、ダルそうに首を上げて周りを見渡し、うなずく。

玲奈はそれを見て、スドンには伐採の準備をするよう、フルーには周囲の警戒をするように伝え、道端から山側に分け入り、切るべき木を探す。

急坂の下ではまっすぐな幹の針葉樹と曲がった幹の広葉樹が入り混じっていたが、このあたりではほとんどが針葉樹だ。


道から十数メートル奥に入ったところで玲奈は、ひときわ幹がまっすぐ伸びた木を見つけてスドンを呼び寄せる。


「スドン、この木はどう?」


「いけると思う。」


「じゃあ、お願いね。」


「わかった。」


スドンは持ってきたオノを両手で握り直すと、木の幹に向けてオノを振るった。

構えも軌道も安定しており、刃が的確に幹に食い込んでいく。

相手が動かず時間をかけていいとき、スドンは無敵だ。


玲奈はスドンの側を離れて、開けた場所を探した。

すぐ近くで見つけるとアイテムボックスから苗木を取り出した。

土魔法で地面に穴を開けると苗木を入れて土をかぶせる。

さらに水魔法で水やりをすれば完了だ。

スドンを見ると既に木を切り倒して、ナタで枝打ちをしていた。


玲奈は道路側でぼんやり立っていたダダクラのところまで戻ってコップを受け取り、スドンのところまで連れていった。


「スドン、お疲れ!」


コップに魔法で水を満たして差し出す。


「大したことない。」


玲奈は枝打ちを終えた木をアイテムボックスに収納して周囲を見渡す。

今度は幹こそまっすぐではないが、根がどっしりと張った木を見つけた。


「スドン、あの木は大丈夫?」


玲奈が指差すとストンが答える。


「うん、いける!」


「ダダクラは木工まかせるからスドンのオノやナタの使い方をよく見ておいてね。」


ダダクラは力なくうなずいた。

玲奈はフルーにもコップに水を入れて飲ませた。


「スドンは万が一ケガしたらためらわず治癒魔法を使うこと。」


「うん、そうする。」


スドンが二本目の木を切り倒す間、玲奈はもう一本の苗木を植えた。

玲奈は伐採された二本目の木を収納すると、全員に声をかけて回った。

ギリムは腰を下ろしたままだったが、玲奈がおんぶするかと問われると、さすがに腰を上げ帰り支度を始めた。


自宅に帰りついたギリムはすぐに自室に戻ってベッドにもぐり込んだ。

玲奈は伐採してきた木を納屋に入れたが、枝を数本アイテムボックス内に残しておいた。

ダダクラを含めた他の四人は庭でストレッチをして、明日にも疲労で筋肉痛が出るかもしれないふくらはぎとももを入念にケアした。



フルーとスドンは平然としていたが、ダダクラはグロッキー気味なので食堂に招き、お茶やクッキーとドライフルーツでもてなした。

三十分もダラダラしているうちにダダクラも復活したようだ。

玲奈がグレイナー城内に食べ物を買いに行くがダダクラも行くかと水を向けると一緒に行くと言明した。

一休みしてダダクラの顔色がよくなってると判断した玲奈は、彼を連れてグレイナー城内に向かった。


「ダダクラ、疲れは大丈夫?」


「いや、疲れてますよ。疲れてはいるけど、さっきよりはマシです。」


「冒険者時代は長距離移動とかなかった?」


「ありましたよ。でも、その後室内でばかり過ごしたから体力が落ちてます。」


「冒険者のときは弓だったんだよね?」


「そうです。」


「私も弓をやろうと思ってるんだ。ダダクラ、教えてくれる?」


「えっ、教えるのは構いませんが、簡単にうまくはなりませんよ。」


「ダダクラはうまかったんでしょ?」


「いや、俺はおやじが猟師だったんで、ガキのころから弓を引いてました。それでも冒険者としてはギリギリってところです。」


「そうか、小さいときからやってないと難しいんだね。」


「そういうことです。」


「そっか。それでもやってみたい!」


「でもね、後から矢を回収したり、矢じりを磨き直したりしないといけないんで、かなり地味ですよ。」


「それは覚悟のうえだよ。私は砥石を常備してるしね。それに、複数いる敵に相対したときに飛び道具があると牽制になるじやない?」


「そういうもんですか?」


「うん。もう一つ付け加えると、いつか弓師と共闘するかもしれない、あるいは敵対するかもしれない、そんなときに相手の武器の特性を知っていると違うと思うんだよね。」


「ハイハイ、そうですか。あなたは俺が知ってる魔法使いとはずいぶん違いますね。」


「ダダクラのパーティにも魔法使いがいたの?」


「いや、俺が以前いたパーティにはいなかったです。ただ何度か魔法使いのいるパーティと合同で依頼を受けたりしたんで。」


「なるほど。」


「その魔法使いたちは常に最後尾にいて前には出てきませんし、他の武器を使おうとはしませんでした。」


「たしかに私はちょっと変わってるかもね。」


玲奈たちは城門をくぐり、城壁に沿って進む。


「俺の前のご主人様は寛大で理解のあるお方でした。奴隷の俺たちのことも気にかけてくださいました。」


「うん、そう聞いてる。」


「俺の進言を受け入れてくれることもありました。でもこの前の打ち合わせみたいに、若造がご主人様の基本方針にケチをつけるなんてことは許さなかったでしょう。」


「そうかな。前のご主人と私は意見を受け入れる範囲が少し違うだけで、最終的には自分で決断を下すことは同じじゃない?」


「もしそうだとすると、あなたは前のご主人様より度量が大きいのだと俺には感じられます。」


「どうだろう? 実際家探しのときには前の持ち主の絡みで騎士団と関係してくるとは思わなかったのは確かだし。それにギリムに騎士団を探ってもらったんで、ポーションが若手騎士に需要がありそうだってわかったし。」


ダダクラの目つきに呆れの色が混ざる。


「そうそう、もうすぐバクロリーさんの製材所に着くよ。」


玲奈はあわてて話題を変えつつ、アイテムボックスから適当な枝を一本取り出す。


「ダダクラにここまで来てもらったのはね、週に何日かバクロリーさんの手伝いをして木工を習って欲しいの。魔法学園の食堂のようにね。」


「はぁ、」


ダダクラの表情がとたんに曇る。



バクロリーは、屋外で材木に何か書き入れていた。

玲奈は手を振って近づく。


「バクロリーさん、こんにちは! お陰さまで無事木を伐採してきました。」


「おう、さっそく行ってきたかい。山はどうだった?」


「行ったところは、荒れてるところやがけ崩れはなかったです。坂が思ったより急でした。」


「山の道はあんなもんだ。」


「入り会い地に苗木を植えてきましたよ。」


「おう、ありがとな。入り会い地は十二区画あって、一年で順々に回してるんだ。」


「そこで切った分、苗木を植えていけば十二年の間に育って、山は枯れないですね。」


「そこよ。ハゲ山になったら俺なんぞおまんまの食い上げだからな。」


そう言ってバクロリーは豪快に笑う。


「あの、一つお願いがあります。」


玲奈はダダクラを自分の前に立たせると、バクロリーはダダクラの首元を見つめる。


「このダダクラに木工を習わせたいんで、週に二日、手伝いで置いてくれませんか?」


「手伝いで置くのは構わないぜ。でも俺は家具作れねえぞ。職工組合で聞いた方がいいんじゃねえか?」


「いや、家具を作るのではなくて、ノコギリで木材を切り出すことを考えてます。」


「それならいつでもかまわないぜ。」


「そうしたらあさっての午前中お邪魔しますね。」


玲奈はダダクラと一緒に頭を下げた。


「それとは別に頼みがあります。」


そう言って玲奈は切ってきた木の枝を差し出した。


「この枝の太さで丸いボールを二個作れませんか?」


「削るだけならわけねえが、何に使うんだい?」


「武術の鍛錬に使います。」


「そうかい、それならその野郎の働きと差し引きゼロということで引き受けてやる。」


「ありがとうごさいます。」


「明日の昼までには仕上げとくから取りに来な。」


礼を言って製材所を後にした。

玲奈はノートに『職工組合』の文字をメモした。


玲奈とダダクラは街の中心部に出て食べ物を買い込み、自宅に戻った。


自宅ではギリムを起こして遅い昼食にした。

ギリムは眠そうな顔をしながら、食べる量は一人前をペロリと平らげた。


「ギリムは疲れてるなら夕食まで寝てていいよ。ダダクラも明日は学園の食堂の日だから、休んでていいよ。掃除は私がやっておくから。」


二人は玲奈の言葉に甘えることにした。


「フルーとスドンは負担にならない範囲で生産にあたってね。夕方が近づいたら庭で体を動かしましょう。」


玲奈はダダクラに代わって二階廊下のモップかけを行なった。

昨日掃除をしているはずなので、廊下の中心部はきれいになっている。

しかし壁際の隅の方はところどころホコリが積もっていた。

ダダクラに掃除の仕方を再指導しなければ思いながら、玲奈は二階廊下と階段の掃除を終えた。

一階に降りて食堂、厨房と廊下の掃除を終えるころ、日は西に傾きつつあった。


掃除を終えた玲奈が庭に出てみると、すでにフルーとスドンは厩舎の周りで素振りを始めていた。

玲奈は二人に手を振って、庭の奥に進む。

納屋の向こう側に着くと屈んで地面に手を触れ、土魔法を発動させる。

そして高さ一メートル五十センチで幅、奥行きとも五十センチの土でできた柱ができあがった。

硬く締めるイメージで生成しているので、そこそこ硬いようだ。

玲奈はポーチからナイフを取り出すと、目の高さに直径が約三十センチと十センチの二重に円を掘って的とした。

そして三メートルほど離れて、的に向けて『当たれ』と念じてナイフを投げた。

ダーツのように、肩とヒジの位置を固定して非常にの回転と手首のスナップだけで投げたので勢いは弱く浅くしか刺さらなかったが、外側の円内に命中した。

玲奈はニヤリと笑い、ポーチの中のナイフ四本を次々投げた。

ナイフはいずれも外側の円内に浅く刺さった。

玲奈は刺さったナイフをすべて引き抜くと、再び距離をとった。

今度はスナップをやや強めに投げてみた。

いくらか勢いが増して、いくらか深く刺さった。

今回も『当たれ』と強く念じたせいか、五本とも外側の円内に刺さった。

ナイフを引き抜いていると、厩舎のあたりから木や金属がぶつかる音やフルーとスドンの話す声が聞こえてくる。

二人で立ち会い、というよりフルーがスドンの稽古を見ているようだ。

玲奈は自分に火属性を付与してナイフを投げてみる。

投げる強さは変わらないので刺さる深さも変わらない。

しかし刺さった部分の周囲は火属性のためか、黒く焦げていた。

残りの四本を投げたが、いずれも同じように焦げていた。

的が焦げたので、土魔法で形成し直して二重円をもう一度引いた。

ギリムが物音に気付いたのか庭に出てきて、納屋のあたりにいる玲奈を見かけて近づいてきた。


「少しは休めた?」


「玲奈さんが働いてんのに寝てられねえだろ。」


玲奈の隣までやってきたギリムは土の柱に気付いてけげんそうな顔をする。


「お墓、ですか?」


「いや、投げナイフの的だよ。」


玲奈は試しにナイフを土の柱に向かって投げてみる。

そしてポーチからナイフを取り出してギリムに見せると、ギリムはうなずいてナイフを受け取った。

そしで的に向かって大きく振りかぶり体重を乗せて腕を振りナイフを投げつけた。

学園で経験のある講師に習っているから、ギリムの投げ方が正統的なのであろう。

しかしナイフは円を大きくはずれて突き刺さった。

ギリムが投げた四本のうち一本も円内には刺さらず、二本は柱からもそれて遠くに飛んで行った。

ギリムは頭を下げて飛んでいったナイフを取りに行った。


「このナイフ、投げナイフ用じゃねえだろ?」


「普通の作業用のナイフだよ。」


「やっぱり! 重さのバランスや刃の厚みが違うぞ。」


「そんなに違うの?」


「ああ、切るためじゃなくて、ぶっ叩くためのナイフだからな。」


「だったらギリムは練習するとき自分のナイフ使った方がよさそうたね。」


ギリムはうなずいて自室にナイフを取りに引き返した。

玲奈も建物に戻って自分の木剣を取ってきた。


フルーとスドンの練習の様子を見る。

スドンが盾を構えてつつハンマー代わりの木槌を振っている。

例のごとく右手と左手を同時にうまく動かせない。

右手の木槌をうまく振ろうとすると左手の盾の位置が下がってしまう。

逆に左手で盾を構えたままていると右手がお留守になりちゃんと狙って振れない。


「やっぱり左右が協調して動かないか。二つのことを同時にやるのは難しいんだね。」


「そういうことだ、マスター。」


「今思いついたんだけど、防御と攻撃を連続した一つの動きにできないかなあ。」


「とういう意味だ?」


「フルーは相手が攻撃してくるとまず盾で受け止めて、それから剣を振り上げて、振り下ろしてるよね。」


「ああそうだ。」


玲奈はスドンから盾を借りてこれを構えて、次に木剣を大きく振り上げて振り下ろす動きをみせる。


「フルーは構えが崩れないし、攻守の切り替えが速いから問題ないけど、これらは二つの別な動きだよね。」


「言われてみればそのとおりだな。」


「これを攻守一体の連続した一つの動きにできないかなって思うんだよね。」


そう言って玲奈は少しの間、盾の構える位置を変えたり、体の向きを調整したり、足のスタンスを変えたりしていた。

フルーも、見ていたスドンも、投げナイフを中断して様子を見にきたギリムもみんな首をかしげている。

しばらくいろいろ試して納得してのか、玲奈はフルーに剣で撃ちかかってくるように言う。

フルーが剣を軽く振り下ろすと、玲奈は素早く右足を半歩下げて体を開いて踏ん張り、左手の盾を斜めに傾けてフルーの剣を向かって左から右に受け流し、引いた右足を軸にして開いた体を正対するようにひねり、この動きに巻き込むように右腕を横手から振るうと、剣先は大きく流れたフルーの肩先で止められた。


「うおっ!」


思わずフルーは叫んで飛び退いた。


「どう?」


「右手を引こうか、左手の盾を突き出そうかしているうちにもう剣先が迫っていたぞ。」


「もう一度やってみる?」


「ああ、お願いする。」


フルーは角度を変え、今度はコンパクトに木剣を振ってきた。

玲奈は左に重心を傾けるとフルーの剣を受け流し、その反動で相手の内懐に食い込むように動き、剣を角度をつけた下から上に跳ね上げると、剣先はフルーの目の前にあった。

フルーは思わずよろけて尻もちをついてしまった。


玲奈はフルーに手を差し伸べて助け起こした。


「今度はフルーがやってみる?」


フルーはコクコクとうなずくので精一杯だった。


玲奈はまず一つ一つの細かい動きをお手本としてフルーに示した。

フルーは玲奈の動きを見ながら自分でもやってみる。

フルーがある程度飲み込んだとみた玲奈は、今度はスドンに盾を返して、木槌でフルーに撃ちかかってもらう。

玲奈がフルーの足の位置、盾の角度、剣の動き出しなど、文字通り手取り足取り指導する。

何度も反復して練習するうち、フルーは徐々に滑らかにつながって動けるようになってきた。

最後に玲奈が木剣をとって撃ちかかると、フルーはスムーズな動きでこれを受け流し素早く懐に入って剣先を突きつけた。


「フルーもやればできるじゃないの!」


「ああマスター、新境地を開いた気分だ。」


フルーは目をしばたたかせ、驚きと感動が入り混じった表情をしている。


「どうせ非常識とか思ってるんでしょ?」


玲奈が混ぜっ返す。


「いや、常識的ではないのは確かだが、マスターは非常識だと言いたいのではない。常識外と言うべきだ。」


「どういう意味?」


「マスターは常識にとらわれず、誰も思いつかない手法を編み出すということだ。」


「ギリム、どう思う?」


「俺にはわからねえです。レイナさんが常識的でないというだけで。」


「だったらギリムから常識を教えてもらうよ。」


「俺なんか自分の村ととなり村しか知らねえ。俺の常識は村だけで通用する常識ですよ。」


「それならギリムの村の常識を教えてもらって、スドンの村の常識を教えてもらって、フルーの島の常識を教えてもらうよ! もっとたくさんの人と知り合って、それぞれの小さな常識を教えてもらって、世の中の大きな常識を知るようにするよ!」


「あはは、常識外の方法で常識に至るって言われてもねえ。」


玲奈はフルーに当てられてちょっと熱くなったかと思い、恥ずかしくなって話題を変えた。


「さあさあ、そろそろ日が沈むよ。そろそろ夕食にしよう!」


庭のリンゴの木は、一番低い枝に早くも赤くなった果実を色づかせていた。

玲奈は手を伸ばして赤くなり始めたリンゴをもぎ取った。



夕食のデザートで出したリンゴはシャキシャキしていたが、甘さが足りず酸っぱかった。


「次はアップルパイを作ろう!」



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