2-2.雪解け
一週間ぶりに魔法学園にやって来た玲奈は、まず図書館に立ち寄った。
借りていた年代記を返すためである。
「あっ、レイナさん。スパークル? だっけ、新魔法。」
「えっ、なになに?」
「発表されてたわよ、レイナさんの新魔法。」
「発表ってことは審査が通って登録されたことなのかな?」
「何も聞いてないの? 審査ではねられたなら発表しなくない?」
「そっか、審査は通ったのかな。」
「ホントに何も聞いていないの?」
「そういえば事務室のジェンクスさんが、審査が終われば手続きはすべてこっちでやっておくって。」
「ほら、聞いてたじゃないの。」
「でも、審査の場で委員は非友好的でかなり絞られたからダメかと思ったんです。」
「実際は大丈夫だったみたいね。それはともかく、今日は教授が来てるわよ。会っていく?」
「はい、お願いします。」
「じゃあ、こっちに来て!」
クローカの案内で玲奈は控え室に入っていく。
机で書き物をしているスプリーン教授がいた。
「教授、こんにちは!」
「やっ、レイナ君か。雪もとけてそろそろ街道の往来も元どおりになるこら、次に出かける計画を立ててたんだよ。君も来るかい?」
「どこに行かれるおつもりですか?」
「雪が積もる前はパルマに行ったのが最後だから、今度はクライドか南東部の貴族領を考えておるよ。」
「でも教授、南東部の遺跡だと山間部が多いですよ。まだ雪の中なのでは?」
クローカが口をはさむ。
「うん、いくつかの貴族家に問い合わせているが、もう一か月くらい後の方がよいだろう。なのでクライド領が第一候補だ。」
「クライド領にお目当ての遺跡があるんですか?」
「ああ、街から西側の丘陵に古代王国時代のものと思われる遺構があるんだ。それにワシを国史編纂委員に誘ってくれたのが当時宰相だった先代のクライド子爵なのでツテがあるんだよ。」
「そうなんですね。クライドでしたら私、ワープが使えますので。」
「それは助かるよ。クライドの街まで送ってもらうだけでも助かるけど、よければ現場の“雛森”まで来るかい?」
「というと、迷宮のある場所ですか?」
「そうそう、迷宮もあるよ。」
「でしたら教授が発掘している間、私は迷宮に潜っていますね。」
「うん、そうしたらいいよ。実はワシも一度あそこの迷宮に入ってるんだよ。」
「えっ、教授もですか?」
思わず玲奈の声が大きくなる。
チラリと横に立つクローカを見ると、肩をすくめられた。
「うん、迷宮が洞窟みたいに自然由来なら問題ないけど、人工的な遺構の疑いがあると、ワシや魔道具師のミセリ君が調査に入るんだよ。」
「中で魔物と戦闘になりませんか?」
「なるよ。騎士団とかが護衛に付くからまあ大丈夫だけどね。魔道具で戦うミセリ君はともかく、ワシは初級魔法しか使えないから、レイナ君の方が強いよ。」
「私は支援魔法と生活魔法が主体ですよ。戦闘職ではないですから。」
「いやいや、光魔法を器用に使いこなしてるじゃないか?」
玲奈が書庫の壁や天井を魔法で光らせたのは気がついているらしい。
「それに新魔法考案となれば歴史書に名を残すレベルだぞ。」
玲奈はスプリーン教授の言葉に驚いたが、思い返してみれば年代記には魔導師たちが新しく使い出した魔法についての記述があった。
魔法王国は己の魔法については誇りを持ち、後世に伝えようという意思を示していた。
「レイナさん、魔法使いに焦点をあわせた歴史関係のほんもあるけど、後で借りていく?」
「ぜひお願いします、クローカさん。」
「ところでな、偶然なのか、ミセリ君の師匠のレイモンド師は、レイナ君の前に新魔法を開発した魔法使いであり、魔道具師なんだよ。ワシはレイモンド師とは一度だけだが迷宮探索にご一緒させてもらったことがあるんだ。というのも、遺跡で見つかる人為的な紋様は文字である可能性とともに、未知の魔法陣である可能性もあるからな。古代王国では構造物のいたるところに魔法陣を組み込んで魔術的特性を持たせていたんだ。」
スプリーン教授は遺跡発掘のうんちくを滔々(とうとう)と語り出した。
それはクローカが強く止めるまで続いた。
玲奈はレイモンド師の魔法に興味を持ったが、聞きそびれてしまった。
「今日は楽しかったぞ。クライド子爵家にはすでに照会しているので、今日明日とも返事が来るだろう。クローカ君に言付けしておくから、二、三日のうちに尋ねてくれたまえ。」
「はい、わかりました。」
玲奈はスプリーン教授にあいさつして、クローカに先導され控え室の外に出た。
「ねえレイナさん、さっき言った本、見ていく?」
「ええ、お願いします。」
クローカは玲奈を書庫に案内し、三、四冊抜き出して見せる。
玲奈はパラパラとページをめくって、そのうちの一冊を選び出した。
読みやすそうな本もあったが、叙事詩のように凝った文体では虚飾が多そうなので、できるだけ淡々とした記述のものを選んだ。
「これをお借りしますね。」
「あっ、一番素っ気ない本を選んだわね。まあレイナさんらしいと思うわ。」
「なんかすまないような気がしてきました。」
「なんでよ?」
「だってクローカさんがせっかく選んでくれた本をいつも読んでなくて悪いみたい。」
「気にしなくていいわよ。」
「私は読みものでなくて実用目的ばかりですね。一人っ子だったから家にいるより外で遊んでたんで、本を読むって習慣がなくて。」
「私は逆に病弱だったから外に出ることができなくて、健康な子がうらやましくて、本を読んで外の世界に思いをはせることしかできなかったわ。」
「なんかすいません。」
「なんでよ? 確かにそのころはつらいことや苦しいことの方が多かったけど、そのころの経験が生きてこうしてレイナさんの役にもたてるんだから。」
「そうですね、とても助かってます。自分の選んだ本だけでなく、クローカさんが選んだのも貸してください。」
クローカは既に抜き出した本とは別に、書架を見渡して一冊の本を選んだ。
「それならこれはどうかしら? 剣と魔法で戦う聖騎士の物語よ。」
「ありがとうございます。でもクローカさんと戦記ものって意外な取り合わせに思えます。」
「そうかしら? 外のことを知るのに戦記や旅行記は適してるのよ。」
「自分が持っていないものへのあこがれ、ですか?」
「うん、そうかもしれない。でも、お陰で軍事関係の用語は詳しくなったわよ。夫の愚痴もなに言ってるかわかるし。」
「はい、ごちそうさまです。」
「ふふっ、でもね、騎士団は各地に点在する王領を巡回しているから、一か月で一週間か十日しか王都にいないの。うちの旦那は騎士団で小隊長になったから、月齢の会合で定期的に王都に帰ってくるのでマシな方よ。」
「騎士団の方々は苦労が多いんですね。魔物との戦闘もあるでしょうし。」
「そうなの。だからときに愚痴も出るんだけどね。いくら病弱を克服したとしても私は戦えるわけではないし。そうだ! もし私の娘が魔法使いの素質があったらレイナさん、弟子として取ってくださらない?」
「えっ、私は非主流派の支援魔法職ですよ。茨の道が待ってます。」
「将来のことはわからないし、娘に魔法の能力が備わっているかもわからないけれど、半分は本気よ!」
「心の中にとどめておきますね。」
玲奈は学園からグレイナーの自宅に戻り、遅めの昼食をとった。
その後玲奈は図書館から借りてきた二冊の本を読んだ。
といっても執務室や寝室にこもるのではなく、裁縫室に本を持ち込んだ。
すぐそばではアメディアとダダクラが裁縫の作業を行なっている。
とダダクラはそのまま作業を続け、必要があれば玲奈がその都度指示を出すことにした。
必要がなければ本を読み続ける。
玲奈はアメディアに頼んで作業台の端を片付けもらい、そこで本を読み、メモを取った。
玲奈は、アメディアたちの動きを横目に見ながら聖騎士の物語を読み進める。
この本でエリュシオール王国に関係するのは、王国創設期に活躍した“聖人”アドリアンと、その百四十年後に学園の迷宮がスタンピードを起こして魔物があふれ当時の王が避難した際に救援に駆けつけた部隊の二つだ。
グレイナーに石像があるアンテウスは比較的年代が新しいが、この本の書かれた年代によるのか、それとも続編があってそちらに載っているのか、書かれていない。
玲奈はまずアドリアンについて読んでみた。
戦記といっても記録というより物語の側面が強いようで、戦闘そのものよりも周りの人たちとの交流などに多くのエピソードが割かれている。
肝心の戦闘にしてもどのように戦ったかより、苦労しながらも見事に勝利をおさめたアドリアンの安堵感、仲間たちの喜びを劇的に描くことに重きを置いている。
それでも玲奈が戦闘で使ったであろう魔法を拾い上げると、火魔法を主として使い、昆虫などの空中の魔物には風魔法を使っている。
戦闘以外では、剣や槍をぬぐうときに水魔法を使っているとおぼしき描写があるほか、迷宮の明かりとして光魔法を使っている。
光魔法は戦闘時にも目つぶしにしたり、壁を背に戦う場合に背後の壁を光らせて敵に逆光の態勢を強いるのにも用いている。
特筆すべきは神聖魔法による治癒で、自分や仲間が戦闘中に負った少々のケガはその場で治し、毒を受けるとこれを解除して継戦能力を保つことで困難な建業を支え続けた。
また遠征の途上、住民のケガを治したことで自身の名声と王国への支持を高めることとなった。
さらに浄化の神聖魔法は、迷宮や水没地帯などで疫病が発生する地帯で発動させて被害の拡大を食い止めていた。
そのほかに、本の記述では明言されていないが、アンデットと思われる魔物をこの浄化魔法で昇天させている。
このように聖騎士アドリアンは、火と風の攻撃魔法、光と水の補助魔法、治癒、解毒、浄化の神聖魔法を適宜使い分けている。
さらに本文ともいうべき剣と槍による攻撃と魔法を組み合わせて魔物と戦っている。
この本が戦闘経過をどれだけ正確に反映したものかわからないが、遠方から火魔法を打ち込んで機先を制してから接戦して剣か槍で斬りつけるのか主な戦い方のようだ。
相手が数は多いが個々にはそれほど強くない昆虫や小動物の場合、強力な火の範囲魔法で焼き払っている。
大型でも単体の魔物であれば、ファイアボールなど単発の魔法を放ち、その後急接近して槍で相手の足を狙い、機動力を奪ってから仕留める戦い方が多いように見受けられる。
敏捷性が高い魔物が相手の場合、槍に代わって取り回しやすい剣を使うことが多いようだ。
ここまで読んで玲奈は年代記を取り出した。
王国創業期の記事を目を通してみたが、戦闘に関する記述では、‘○○年○月○○日 アナスタシアがカルドゥス、アラン、アドリアンを率いて迷宮十階層で魔物を討伐’といった具合に淡々と書かれてる。
魔法に関する記述も“賢者”カルドゥスやその弟子アランが詳細に書かれているのに対してアドリアンは相対的に少ない。
物語の本が盛った書き方をしているにしても、アドリアンは数多くの戦闘に参加して魔法を何度と放ち魔物を倒して王国に領域確立と拡大に大きく貢献したことは確かなのに対して奇異に思える。
年代記を読み進めるうち、アドリアンに関する記述の少なさの理由が垣間見えてきた。
カルドゥスはある時点で病没とあり、それ以降出てこない。
一方アドリアンはある時点で帰国とあり、同じようにそれ以降は記事になることはない。
それでは王国を出てどこに帰国したのが調べようと物語のページをめくると、大陸南部で大主教座のあるイオニウスという都市に戻り最終的に聖騎士団長となったと書かれている。
さらに百四十年後、学園の迷宮がスタンピードを起こしたときに救援した聖騎士たちもイオニウスからやって来た。
そしてスタンピードがおさまると彼らはイオニウスに帰っていった。
一時期王国の騎士や魔法使いと行動をともにしても、期間としては必ずしもそれほど長くはない。
いずれ別れることが予定されているなら、どちらも奥義を教え合うようなことはしないだろうと推測できた。
そう考えると他国の魔法使いに関する記述があっさりとしたものになることもうなずける。
玲奈は時折アメディアやダダクラが話しかけてくる中、二冊の本を照らし合わせながら読み進め、アドリアンに関して読み物と年代記、それぞれの記事を抜粋して別々の紙に要点をメモした。
ながら作業となるので総合的な理解がどうしても深まらない。
それでも個々の魔法を見れば、神聖魔法と範囲魔法を組み合わせたエリアヒールを活用して、パーティ全体の回復を図っているのが目についた。
解毒など、その他の神聖魔法については、いずれも玲奈が使える魔法ばかりである。
その中でアドリアンは浄化魔法をアンデットらしき魔物との戦闘の他にも、腐敗物の処理などで浄化を多用しているのが玲奈の印象に残った。
その間にアメディアは一着のパンツを裾上げし、ダダクラは玲奈の意見を聞きながら袖が長かった黄色いチュニックを七分袖に改造するデザインを書き上げた。
袖口と襟元の形を変え、ボタンを付け替えるもので、これらをアメディアが実際の形にした。
ちょうど夕食のしたくに取りかかる時間になっていた。
夕食後、全員が集まった席で玲奈はぶち上げた。
「来週、クライドに行って雛森の迷宮に潜るよ! まだ詳しい日程は決まってないけどね。」
フルーは腕組みをしたまま、満足そうにうなずく。
「こういうのを待っていたのだ! 天候のせいとはいえ、室内に留まっている時間が長くて鬱憤も溜まる。庭で素振りをするくらいでは晴らせないほどだ。」
「鬱憤を晴らす場を作ってあげられなくてすまなかったね。雪が解けて交通が回復したら、あちこち出かけるからね。」
「その言葉を待っていたぞ。」
「で、レイナさん、誰と出かけるんです?」
「前衛でフルーとスドン、それに初めての場所なので探査役でギリムも来るように!」
「俺も行くんですか? 未知の迷宮なのに危険はねえんですか?」
ギリムがおずおずと口をはさむ。
「戦ったことのない魔物もいるだろうし、当然危険はあるよ。だからこそ探知能力の高いギリムが必要なわけ。もちろん手を尽くして安全を確保しながら慎重に進むつもりだからね。」
「そうですかい。それならしかたねえな。」
「私が思うに、マスターはもう少し大胆に振舞ってもいいと思うぞ。魔術の腕は冴えているし、かく言う私も少しは剣術の腕が上がっているつもりだ。」
「そうだね、確かにフルーは強くなってるし、私もそれなりに腕を上げたとは思う。でも注意を払うべきなのは自分たちの弱さだけでなく、慢心もそうなんじゃないかな。」
「マスターがそう言うのなら指示に従うだけだ。」
「それとね、現地で一泊ないし二泊すると思うので、アメディアとダダクラは留守番よろしくね。」
「はい、おまかせください。」
最後にアメディアとダダクラが頭を下げて、来週の予定が決まった。
翌朝早くに目が覚めた玲奈は庭に降りた。
まだ屋敷では誰も起きていないようだ。
寒さがゆるみ日が長くなったとはいえ、あたりはまだ薄暗く、空気が肌を刺す。
玲奈は、昨日読んだ本でアドリアンが浄化の神聖魔法を使うシーンを思い返し、呪文を詠唱した。
魔力が体内で渦巻き、手のひらに集まったがそれだけのことで、浄化の魔法は発動しなかった。
明確な対象がない場合は発動しないのかと玲奈は推測して、試しに小治癒の呪文を唱えた。
しかし推測を裏付けるように、魔法は発動しなかった。
代わりに対象となるものがあればいいのかと彼女は思ったが、対象となるものを作るために自傷行為をするつもりもなかった。
やむを得ず浄化の対象となるような物が落ちてないか、庭を探し回った。
リンゴの木の下、湿った地面に落ちた葉が朽ちかけているのが見えた。
玲奈は試しに葉に向かって浄化の魔法を放つと、なにごともなかったように魔法は発動して葉は土に還った。
念のため同じような落ち葉を見つけて再度浄化魔法を使ったが、同じ結果となった。
これらの試みで玲奈は浄化魔法を使う感覚は実感できた。
ただし実際にアンデットと戦う機会があるとも思えなかったので、生ゴミの処理や遠征で野宿したときの身体清浄くらいしか使い道が思い浮かばなかった。
それでも彼女は、小治癒の神聖魔法からケガの程度や態様に即応した治癒魔法を考えたように、浄化の神聖魔法から生活魔法への応用をしようと考えた。
浄化の神聖魔法を試した後、玲奈は弓を持ち出して矢を射た。
呼吸を意識して、土魔法で作った的にだけ意識を集中させる。
無心で七射、八射と繰り返すうち、何人かが起き出して庭に出てきた。
玲奈は一旦屋敷に戻って弓矢をしまい、代わりに横笛と太鼓を持ち出した。
六人全員そろったところで玲奈が太鼓をたたく。
「おはよう! これから動的ストレッチやるけど、私が太鼓をたたいてリズムをとるから、合わせて体を動かしてみて! こんな感じでね。」
玲奈は一、二、三、四と声に出し、それに合わせて太鼓をたたき、バックビートにアクセントを置いてリズムをとった。
太鼓をたたきながらだと腕を振ることができないので、彼女はリズムに合わせて足を振り上げ体をひねってみせた。
「こんな感じだよ。私が一定のテンポで太鼓をたたくから、それに合わせてリズムをとってみて!」
玲奈がたたくリズムに合わせてめいめいが体を揺らしたり手をたたいたりして思い思いのやり方でシンクロさせようとしている。
頃合いよしとみた玲奈は右足を前に踏み出しリズムに合わせて体をひねった。
「うまくリズムが取れるようになったら合わせて体を動かしてみて! こんな感じでね。一番慣れている動きでいいから。」
玲奈の呼びかけに、まずギリムが応じて腕をグルグル回し始めた。
うまく合わせられるようになると彼は両手を頭の後ろで組んで体をひねりながら肩を回した。
器用でリズム感がいい彼はしっかりリズムに乗っている。
フルーがギリムを見て、自分もリズムに合わせ始めた。
身体能力が高いフルーは見よう見まねでもすぐに動きを合わせることができた。
残りの三人もフルーを見習い動き始める。
アメディアとダダクラはぎこちなくも辛うじて動きを合わせる。
スドンも合わせようと手足を動かすが、微妙にズレている。
テンポを合わせることがうまくできないようで、徐々に遅れ始める。
太鼓をたたきながら玲奈は彼の様子を見ていたが、スドンが玲奈に合わせようとしてもうまくいかないのが見てとれたので、やむなく玲奈は自分の刻むテンポを徐々に遅らせてスドンに合わせた。
玲奈の当初のテンポに合わせていた気持ちよく体を動かしていたギリムは、テンポが遅くなり始めたことにいち早く気がついた。
ギリムはテンポが落ちた元凶の玲奈をにらみ口をとがらせたが、玲奈がスドンを見やり首を横に振るのを見て事情を察した。
一通りエクササイズを終えると玲奈はスドンに近づいて肩をたたいて励ました。
「他人のテンポに合わせるって難しいね。でもスドンが合わせようとがんばってたのは見えてたよ。少しずつ会うように練習していこう!」
「うん、もっとがんばる!」
やり取りを見ていたギリムは、なにか言いたそうだったが口をつぐんだ。
朝食前の打ち合わせで玲奈は再びぶち上げた。
「今日から森の中を歩いて狩りをするよ!」
「ええ!」
歩いてと言われて、ギリムが嫌そうな声を出す。
「そろそろ平地なら歩き回っても大丈夫じゃない? 来週行く予定の雛森の迷宮は最寄りの村からも少し歩くっていうから、それに備えて鍛えておくためでもあるよ。」
「わかりましたよ。」
「マスター、狩りをすると言うが、何を狩るつもりなのか?」
「このあたりには小動物が多かったはず。ウサギやヤマドリが多いかな。」
「どちらも警戒心が強いな。剣の間合いに近づくのに一苦労だぞ。」
「じゃあ小さいのはギリムがナイフ投げるか、私が矢を射るよ。大きくて逃げない相手が出たらフルーの出番だよ。」
「ああ、まかせてくれ。ただし出番はかなり少なそうだな。」
「ギリムは索敵をお願い!」
「ハイハイ、索敵ね。」
朝食後、片付けをして一休みしたら、玲奈たち四人は森歩きに出かけた。
歩き出す際に、玲奈からウォーキングのフォームについてレクチャーが入る。
「歩く速度を上げるには、足を踏み出す間隔を短くしたり、歩幅を広げる必要があるんだ。やってみるね。」
玲奈は三人の前で歩幅を広げてゆっくり歩いてみせる。
数歩やって見せて、自分のつま先を指差す。
「一番目の注意点は、つま先と足首になるよ。まず着地するときにつま先、足の指でしっかり地面をつかむようにするんだ。こんな感じでね。」
玲奈は右手を目の高さに上げて、手の指で足の指を、手のひらで足の裏を模して動きを見せる。
次に歩くのと手の動きを連動して見せる。
「こんな感じでね! わかった?」
一同がうなずく。
「じゃあ、実際にやってみよう!」
玲奈が歩き出すと三人も連れて歩き出す。
器用なギリム、運動能力の高いフルーは、玲奈が声をかけて見よう見まねでやっているうち、なんとかコツをつかんだようだ。
一方で不器用なスドンは反復練習では飲み込めないようで、玲奈が手取り足取り指導している。
ついには玲奈はブーツを脱ぎ、スドンのブーツも脱がせて、つま先の動きをみせてやってみせた。
スドンは一日でできるようにならないが、どのようなものか見せたので、初日の進捗としては悪くないと玲奈は判断した。
そしてスドンにブーツを履かせて、自分もブーツを履いた。
「フルー、ギリム、お待たせ! 次は足首の動きをやります。筒丈の高いブーツ履いてると足首が思うように動かしにくいけど、頭の中で動きを思い浮かべるように。」
玲奈は再び右手を上げて足の動きと連動させながら歩く。
「今やったようにつま先で地面をつかんだら、地面から離れるときに足首の返しを効かせて後ろに蹴り出すの。こんな感じでね。」
玲奈が実際にやって見せると、以前やったことのあるエクササイズなので、フルーやギリムは問題なかった。
スドンはやや怪しかったが、やることはわかっているようなのでよしとした。
「大丈夫みたいね。そうしたら、もう一つの注意点にいきましょう。腰の動きをするからね。」
玲奈はまた歩いて見せる。
今度は右手の人差し指と中指を立てて下に向けて交互に前後させている。
歩いているときの左右の足を表しているらしい。
「歩くときは両足のつけ根というよりも腰を軸にして左右にひねりながら足を振り出してみて! こんな風に。」
玲奈は右手の人差し指と中指を指のつけ根である第三関節から交互に動かしていたが、それを手首を軸に指だけでなく手のひらからひねりながら大きく動かした。
それに連動して、玲奈の歩き方も腰を使って大きくストライドを伸ばした歩き方に変わる。
それを見ていた三人もまねして歩き出す。
玲奈が声をかけて適宜アドバイスを送るが、スドンだけでなくフルーやギリムもぎこちなく、思ったようにストライドが伸びない。
「みんな、今日のところはこんなものと理解しておいて。少しずつ練習して速度を上げて距離を伸ばしていこう。」
「しかしマスター、これはかなりしんどくてバテるぞ。それに歩いていて左右にバランスを崩しやすいんだ。」
「それはねフルー、足やお尻の筋肉だけでなく、太ももと背骨を結ぶ腸腰筋という筋肉を使うからなんだ。ここを鍛えて、速く歩いたり走ったりできるように鍛えていくつもりなんだよ。私も効果的な鍛え方がよくわかっているわけではないけどね。」
玲奈は自分の背中から腰をポンポンとたたいた。
そしてギリムに向き直って言った。
「そろそろ狩りに移ろう! ギリムが探査しながら無理なく歩ける速さで行こう!」
「そうかい。歩く速さより探査優先でいいんだな?」
「うん、それでいいよ。それに虫やネズミとか小さいものは無視していいからね。」
こうして一行は速くもなく遅くもないペースで林の中を歩き始めた。
十数分ほどなにごともなくギリムを先頭、その後にスドン、最後尾に玲奈の隊列で歩くと、ふとギリムが立ち止まった。
ギリムは口元に手を当てて静かにするようジェスチャーで求めると、右側の林を指差した。
思い切り声をひそめてギリムは言う。
「あの木を見てみろ! 枝の上にヤマドリがいるぞ。レイナさん、どうする?」
「よし、ギリム行っちゃえ!」
ギリムは軽くうなずくと、身を低くしてゆっくり林の中を前進していく。
ある程度近づくとギリムは腰に付けたポーチからナイフを取り出した。
枝を見上げタイミングを計り立ち上がるとナイフを投げつけた。
しっかりとは狙いをつけずに力を込めて投げつけた。
ナイフは枝の下を通過し、ヤマドリは飛び去っていった。
ギリムは盛大に舌打ちして、投げたナイフを取りに行った。
「今度はレイナさんがやってみろよ。」
「うん、練習の成果を出すから見てて!」
また十分前後歩くとギリムが立ち止まる。
ギリムは小さく振り返ると左前方のヤブを指差す。
玲奈がヤブに目を凝らすが、何も見つからない。
と、ヤブの少し先、木の根元でウサギがチョロチョロ動き回っているのが目に入った。
ヤブの陰から狙ったらどうかということらしい。
玲奈は軽くうなずくと、待っててのニュアンスを込めて小さく手を振って動き出す。
身を低くして枯れ葉や枯れ枝を踏んで音を立てないように注意しながらそろりと歩き、最後は四つん這いに近い体勢でヤブの陰に転がり込んだ。
ヤブを右側に回り込んで見ると、ウサギはまだエサを探しているのか、まだ動き回っている。
左手で弓を持ち、右手で矢筒から矢を取り出してつがえ、そっと引き絞る。
いつもは直立した姿勢で弓を引いているのに、ひざまずいて前かがみなので背筋がうまく使えずやりにくい。
また左側の低木や枯れ草が障害となって、自己流で左目により照準している彼女には狙いにくい。
それでも呼吸を整え、息を吐き切ったところで矢を放った。
かすかな風切り音を残して、矢はウサギの上を越えていった。
驚いたウサギは駆け出して林の中に姿を隠した。
玲奈は苦笑いをしながら矢を回収して戻ってきた。
「いやあ、簡単にはあたらないね。」
「だろ? 確率低すぎだぜ。」
「確率が低いなら量を増やさないとね。ギリムの索敵に期待してるよ。」
「えっ、俺かよ!」
この後、一行は小一時間狩りをしてが、ヤマドリを一羽仕留めたのみで引き返した。
帰りは玲奈が先頭に立って、さっさと歩いて家路についた。
スドンがギリギリ追従できる速さだったので彼はついてきたが、三十分以上ノンストップで歩いたので、お昼前に帰宅したときにはギリムが一番バテていた。
ギリムの目の下にはクマが浮かんでいた。
「ねえギリム、疲れたのならたくさんお昼食べたらいいよ。」
「歩いて疲れたんじゃねえよ。気を張って周りを警戒しながら歩いたんで、精神的に疲れちまっただけだ。」
「それならお昼の後に少し寝たらいいよ。なんなら夕食まで寝ててもいいし。」
「ああ、そうさせてもらうぜ。」
お昼過ぎ、ギリムが寝ている間、アメディアとダダクラの服作りを横目で見ながら本を読んだ。
アメディアとダダクラはお互いの特性がわかってきたのか、役割分担が固まり、受け渡しがスムーズになってきた。
時折玲奈はアドバイスを求められたほかは、安心してまかせられた。
夕食までにアメディアたちは薄紫色のワンピースを仕上げた。
ギリムは夕方には起き出したが、目の下のクマは消えて疲れはかなり取れたようだ。
夕食後、玲奈は特にフルーに尋ねた。
「明日学園に行くけど、今日の狩りは飛び道具ばかりだったから、前衛組はあちらの迷宮に行ってみる?」
「是非そうしたいな、マスター。今日は歩き回ってほどよい疲労はあるが、徒労感も残っている。」
「さすがに成果がヤマドリ一羽だけではね。」
「いや、マスターやギリムを責めているわけではないんだ。我々は隠れて近づいたり、逃げる敵を追いかけるのには慣れていないだけなんだ。」
フルーが言い募ろうとしたところ、今度はスドンが口をはさんだ。
「レイナさん、明日は僕も王都に行く。今日みたいに歩くだけでもかまわないけど。」
「じゃあスドン、明日はよろしくね。」
「うん、わかった!」
「それとね、アメディア。」
「お嬢様、なんでしょう?」
玲奈はアメディアに向き直る。
前衛が二人いるなら、後衛でアメディアが付与魔法をかければ迷宮で戦えると玲奈は考えた。
「アメディアも明日、迷宮に行ってもらえる?」
「はい、もちろんかまいません。お嬢様は当日どうされるのですか?」
「私はね、学園でいくつか用事があるので、その間みんなには迷宮に入ってもらおうかと思ってるんだ。私の用事にかかる時間を見計らって待ち合わせればいいでしょ?」
「そうですね。」
「それとダダクラはお留守しててね。」
「はい、承知しました。」
翌日の午前、玲奈はフルー、スドン、ギリム、アメディアを連れて王都までやってきた。
玲奈は学園で用事をこなすが、その間、他の四人は迷宮に入る。
「くれぐれも無理はしないようにね。ギリムはゴブリンのいる四階に上がったら周りを囲まれていないか、大きな群れが近づいてこないか警戒するように。」
「わかりましたよ。」
「もしヤバくなりそうなら、ギリムが早めに撤退を決断して! みんなはギリムの指示に従うようにね!」
「えっ、俺が決めるんですか?」
「うん! こういうとき、ギリムは慎重だから危険を避けてくれると信頼してるよ。」
「慎重ってことは、臆病ってことですかい?」
「否定はしないけど、撤退するときはギリムは思い切りよく先頭に立ってね!」
「ハイハイ、承知しましたよ。」
玲奈は、迷宮に行く四人と別れて、学園の図書館を訪れた。
司書のクローカは書架の作業をしていたが、玲奈は彼女が一段落つくのをカウンターで待った。
「やあ、いらっしゃい! お待たせしちゃったかしら?」
「いいえ、全然!」
「スプリーン教授のお出かけはちょうと一週間後よ。予定は大丈夫?」
玲奈がうなずくとクローカは一通の手紙を玲奈に手渡した。
「見せていただきますね。」
玲奈が断って開封した。
スプリーン教授にはクライド子爵家から協力が得られたことと、現地で二泊する日程が記されていた。
「拝読しました。教授にはお手紙のとおりの日程で構いませんとお伝えください。」
「うん、伝えておくわね。」
「借りていた本、もう少し借りていてもいいですか?」
「うん、クライドから帰ってからでもいいのよ。それよりレイナさんの服、また新しいの?」
玲奈はアメディアたちが昨日仕立て直した薄紫色のワンピースを着ている。
元のサイズが大きかったので、袖やスカートの丈を直して生地がかなり取れたので、袖やえり、肩にフリル風にフワッとした飾りをつけている。
細く絞ったウエストと鮮やかな対比をなしている。
「そうなんです。でもいつものごとく古着のリメイクですよ。昨日仕上がったばかりなんです。」
「かわいらしいし、ちょっとしたお出かけにはぴったりね。パッと見た限り古着には見えないわよ。」
「そう言ってもらえると嬉しいです。今度のクローカさんにも何か作りましょうか?」
「えっ、いいの?」
「はい! 今度うちに来たときに採寸してみましょう。」
「そのときはよろしくね! ところで、レイナさんはこの後その服のまま迷宮に入るの?」
「まさか! 今日は入らないので服を自由に選べたんですよ。迷宮には配下だけで向わせてます。一人は基礎的な魔法が使えるようになりましたから。」
「なるほどね。うまく人を使うものね。」
図書館を出た玲奈は魔道具のミセリ教授の研究室を訪ねた。
残念ながら三階の研究室には不在だった。
下まで降りてきた玲奈は、待ち合わせまでの時間を王都で店を回って過ごそうかと考えた。
ふと王都と反対側に出てみると、薬草園でエリーズの姿を見つけた。
玲奈はエリーズに近づいて声をかけた。
「こんにちは! そろそろ土作りの時期ですか?」
「あら、レイナちゃん! そろそろ薬草園も始動のときよ。樹木に肥料をあげたりするの。」
「水やりもしてるんですか?」
「ううん、晴れが続いたら樹木にちょっとあげるくらいよ。まだなにも植えていない区画が多いの。」
「これから暖かくなってきたとき、お役に立てる技術があります。」
「ひょっとして例の?」
「はい、例の新魔法です。よろしればお教えしましょうか?」
「ふふ、なんか意外よね、私が魔法を習うなんて。薬草園自体は小屋の脇と奥の二か所に井戸があるから魔法なしで大丈夫なんだけれど、教授の部屋に鉢植えがいくつもあるから、魔法で水やりができると便利そうね。」
玲奈はエリーズに新魔法を教えた。
エリーズは生活魔法が使える程度の腕であったが、水魔法は得意だったので、ものの五分でマスターした。
「まさか新魔法の開発者から直々に伝授される日がくるとは思ってもいなかったわ。」
「エリーズさんの適性が高いのもあるけど、そんなに難しくないでしょ?」
「ええ、簡単なのによく考えられてるわ。せっかく教えてもらっても私には返すものがなくて心苦しいけれど。」
「いえいえ、うちの庭もこれからいろいろ植えるつもりなので、教えて欲しいことがたくさんありますよ。」
それから二人はしばらく庭木の話をした。
そうしているうちにフルーたちが迷宮から引き上げてくるのが見えた。
「あっ、戻ってきた! 私は行きますね。今日はありがとうございました。」
「レイナちゃん、またね!」
迷宮から帰ってきた四人は特に疲れやケガもなく元気そうだった。
ただフルーは盛大に返り血を浴びていたので、玲奈は寮監にお願いしてシャワー室を貸してもらった。
フルーがシャワーを浴びている間、玲奈はギリムからヒアリングした。
「ギリム、お疲れ! 危険な目にはあわなかった?」
「特に問題なかったぜ。フルーのヤツは張り切っちゃってゴブリンのちっこい群れをたたきつぶすし、アメディアのおばさんの付与魔法はよく効いてたし。」
「それはよかった! ギリムの状況判断もよかったんじやない?」
「わかんねえよ、俺は戦ってねえし。でもよ、レイナさんの大変さがちょびっとわかった気がするぜ。」
「それは大きな進歩じゃん。他の階はどうだった?」
「二階でヘビをちょっと、三階でゴーレムをぶっ倒したぜ。ゴーレムの白い玉はスドンの野郎が持ってる。」
「私がいなくても大丈夫そうだね。」
まもなくフルーが戻ってきた。
血生臭さが残っていたので、玲奈は浄化の魔法をかけてみた。
いくらかにおいが緩和されたような気がするが、血生臭いまま買い物をするのも気がひけるので、この日はどこにも寄らず帰宅した。
それからクライドへ出かけるまての一週間、玲奈はフルー、スドン、ギリムを連れて午前中をウォーキングにあて、脚力の強化を図った。
ギリムの負担を減らして狩りは極力行わず、一定ペースで歩く距離を伸ばしていった。
スドンにはさらに股関節と足首周りの柔軟性を増すようにエクササイズが加えられた、
余力があれば午後から迷宮に行くことにしたが、実際に行けたのはゴーレムの迷宮と学園の迷宮が一回ずつだった。
学園に行ったときはアメディアにも迷宮に同行してもらい、その間に玲奈は魔道具のミセリ教授を訪ねた。
運よく教授は在室だった。
「お邪魔します、ミセリ教授。当学園の学生で玲奈と申します。お時間いただけましたら魔道具について教えてくださいませんか?」
玲奈は魔女然とした黒いローブをまとい赤茶色の髪を揺らして微笑むミセリ教授に頭を下げてあいさつした。
教授は小首を傾げ、灰褐色の目を細めて玲奈を興味深げにながめながら、艶やかな唇を開いた。
「はじめまして、かな? この時期に初訪問なんて珍しいわね。それで、あなたは何の魔道具を作りたいのかしら?」
イスに半身になって腰掛けていたミセリ教授は身を乗り出して、机の反対側に立つ玲奈と正対する。
玲奈は小さく息を一つ吐き出して話し始めた。
「特定の魔道具は考えていません。実はスプリーン教授と一緒に古代文字を解読しているうちに、教授の遺跡発掘話で魔道具のことを聞いて興味を持ちました。魔法が発現する過程を目に見える形にしているのは実に面白く感じます。」
「ふーん。それで何を知りたいのかしら?」
「いろいろな魔道具を見せていただいて、魔法が発動する機序を調べさせてください。さまざまな術式をみて分析、総合することで、魔法の普遍的な原理が浮かび上がってくるかもしれません。」
「それを知ってどうするわけ?」
「原理が分かることで術式の組み立てが自由にできるようになるではないかと考えられます。術式の自由度が上がれば、より応用範囲の広い魔法を生み出すことができます。」
「魔法を生み出すって、あっ、あなたレイナって名前よね? ひょっとして新魔法の?」
「はい、そのレイナです。」
ほおづえをついて玲奈の話を聞いていたミセリ教授の表情が変わった。
「ということは、あなたの前に新魔法を開発したのが私の師匠ということも知ってここに来たのね。」
「ええ、レイモンド師のことはスプリーン教授から伺ってました。その魔法のことも。」
「いいわ! あなたとは教授と学生という関係だけど、私が一方的に知識や技術を伝授するだけの関係では終わらなそうだもの。次回はあなたの知見も伝えてちょうだい。」
「はい、ぜひお願いします。今日は突然お邪魔して、お騒がせしました。では、失礼します。」
玲奈がその次に王都を訪れたのは、武装したフルー、スドン、ギリムを引き連れてだった。
スプリーン教授と落ち合いクライドに飛んで、雛森の迷宮に挑むこととなる。