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第五十六話 運命の前日

「衣装合わせに参りました」


 明日の結婚式に向けて、侍女達がわらわら部屋に入って来た。

 純白のウエディングドレスが、何枚も持ち込まれ、気に入ったものに袖を通すように言われる。


「オーダーメイドじゃないんだな」


 アーサー様がドレスを見て呟いた。


「後ほど、国を上げての盛大な挙式がありますから。その時のドレスはオーダーメイドでお作りします」


 侍女達は淡々としている。

 そもそも明日結婚を控えた花嫁の部屋に、花婿でもない男どもが、三人もいるのに! 誰も咎めないところがすごい。


 ベッドの横の衝立の向こうで、適当なドレスを着た。


「ていうか、呑気に衣装合わせなんかさせてていいの?」


 ヴィクター王子がお菓子を食べながら、エドワード様の機嫌を窺う。

 エドワード様は、椅子に優雅に腰掛けて呑気にお茶を飲んでいた。


「好きにやらせとけばいい。どうせ明日は──」


 言いかけて、彼は突然立ち上がった。


「ちょっと出掛けてくる」


 彼はそのまま転移して、ものの数分で戻ってきた。

 その手には白いドレスが。


「まさか、それは?」


 キース王子が、ドレスを見て驚きの声を上げた。


「そうだ、キアラが僕との結婚式で着る筈だったドレスだ」


 私のドレス?


「なんの因果か、他の者の手に渡っていたが取り返しておいた。汚れた箇所や破けた箇所があったが、エルフの里で修復され、すっかり元通りだ」


 アンティーク調の古典的なドレスだった。

 私はそのドレスを手に取った。なんだかとても手に馴染む。


「これにする」


「そう言うと思った」


 エドワード様はちょっと嬉しそうに笑った。


 ドレスが決まると、侍女達は揃って部屋を後にした。

 このドレスを着て、私は明日結婚式を挙げる。

 私はエドワード様の顔を見た。

 そして、ふと思う。あれ? 何かおかしくない?


「私は、誰と結婚するの?」


「!!」


 エドワード様は、私の顔を覗き込んだ。


「誰と結婚する? 誰としたい?」


 キース王子も、ヴィクター王子も、二人とも心配そうに私を見つめる。


「エドワード様? 私、エドワード様と結婚するのでは?」


「そうだ」


 でも、頭の中がぐるぐるして、私はまた立っていられなくなる。目眩と頭痛で、気が遠くなる。


「姫ちゃん、大丈夫?」


「記憶が戻りかけてる。そして術で無理に押さえつけたキアラの本心が拒絶し始めたんだ」


 エドワード様が私を支え、私はその腕に取り縋った。


「でも、解毒薬がないとおそらく完全に術は抜けない」


「苦しそうだよ、薬を早く作らないと」


「でも、月光草が咲くのは明日の晩です。薬が完成するのはその後です」


 三人の話を、どこか遠くで聞いているような感覚。


「少し眠らそう。時間を稼ぐしかない」


 エドワード様の手が、私を眠りに導く。

 私は彼の腕の中で、一瞬で深い眠りについた。


【エドワード視点】


 彼女を眠らせベッドに横たえると、僕は最後の仕上げにかかるために、レスターに会いに行った。


 奴は、のうのうと部屋で読書していた。


「エドワード王子が、自ら来られるなんて。明日の結婚式にはもちろん出席してもらえるんだよね?」


「もちろん出る。お前こそ約束を忘れるな。僕が彼女の記憶と心を取り戻せたら、おとなしく身を引けよ」


 レスターは、読んでいる本に視線を落としたまま答えた。


「構わないよ。あなたが勝ったなら、そのままあなた方が結婚式を挙げるといい。祝福する」


 言質を取ったので、僕はニヤリとする。


「ドレスは、あなたが持ってきたものを選んだとか」


「元々僕達の結婚式当日に着ていたものだ。彼女があれを選ぶのは必然だったようだよ」


 ここでレスターは顔を上げて、ようやく僕の方を向いた。


「彼女は今、どうしてる?」


「記憶が戻りかけて苦しんでいたから、眠らせた」


 僕が答えると、レスターは深い溜め息をついた。


「やはり、賢者というべきか。僕の魔力では、完全に押さえることは不可能なんだな」


「彼女は道具ではない。感情があるんだ。それを無理に押さえつけるなんて、許されないことだ」


 僕の言葉に、レスターは頷いた。


「もちろん分かってる。卑怯な手を使っていることも、承知の上だ。でも、そうでもしないと彼女は手に入らなかった」


 こいつはまさか? まともに話したことはなかったが、この口振りは間違いなかった。


「お前、まさかキアラが好きなのか?」


「何を今さら?」


 あっさり認めたので、ちょっと拍子抜けした。


「突然攫ったと思っていたのか? ずっと前から画策していたのさ。まだ、彼女がこの国の魔法学校にいた頃から」


「お前、まさか僕達を」


 レスターは微笑んだ。


「魔法学校の理事をしているからね。あなたもそうでしょ? 怪しい時期外れの転入生、魔力の高い素養と、あの容姿」


「気にならない訳ないよね。ずっと追っていたんだ。ようやく見つけた時は、あなたの婚約者だと分かった」


 これには僕は反論した。


「婚約者だったのではなく、元々婚約してたんだ」


「人狼はね、好きになった相手に別の相手がいても、奪うのを決して躊躇わない。奪われる方が悪いという考えだから」


「略奪上等ってやつか。だったら、僕も容赦しない」


 これで明日は遠慮なく、こいつを叩き伏せれる。

 僕は明日、彼女を完全に取り戻す。

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