表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
55/58

第五十四話 最後の素材(エドワード視点)

 朝一番で、魔術師ギルドの研究室に戻ると、なんとそこに大師匠の姿が。


「戻ったか、エドワード。お、髪がさっぱりしたな! 短い髪も似合うじゃないか」


「ありがとうございます。大師匠はいつこちらへ?」


 僕は鍋の中の様子をちらっと見ながら、大師匠に問う。


「昨夜遅くにだ。ちょうどそなたと入れ違いになったようだ」


「他の皆なら、休ませたぞ。鍋の中身は大丈夫だ」


 大師匠が見ててくれたのは明らかだった。

 この薬は定期的にかき混ぜないと、すぐ固まってしまう。


「キアラの様子はどうだ?」


 大師匠のことだから、本当は彼女の側に付いていたいんだろう。


「レスターのことが気になるようです」


「それは術の効果が強い証拠だな」


 やはり、解毒薬を早く完成させねばならない。

 でも、どうしても足りない材料がある。


「満月の夜しか咲かない花か。明日、本番にしか詰めぬとは」


「月光草を追加するまでは、この状態を維持せねば」


 大師匠は得意げに、鍋の炎を術で調整した。

 彼女の手にかかれば、火の調節管理など楽勝のようだった。


「そなたは少しでも休んだのか? ここ連日寝ずに動いていたんだろう?」


「問題ありません」


 それより、月光草がどこで手に入れられるか問題はそれだった。この国独自のものらしいが、肝心な生息地域が分からない。


「月光草がどこで採れるか。そなたの懸念はそこだな?」


「はい。キースに調べさせていますが、まだはっきりとは」


 この国の商会などに問い合わしても、なぜか言葉を濁されてはっきりと分からず。


「意図的に、隠されているのかもしれんな」


「隠される?」


 大師匠は、前のめりになって呟いた。


「つまり、銀狼族が絡んでる」


 その可能性は高かった。そうなると手に入れるのは簡単ではない。何とか明日の夜までに、手に入れる算段を付けないとまずい。


「ここは大丈夫だから、そなたはキアラに付いていろ。月光草の入手は、こちらで何とかする」


「しかし」


 渋る僕を、大師匠が諭す。


「彼女を捕まえておけ。この術は相当厄介だ。今までお前に向いていた気持ちが、全て向こうに行ってしまったと考えるべきた。彼女は生半可な気持ちで、お前を想っていたか?」


 そう言われると、僕は言い返せない。

 彼女は自分の身を投げ打ってでも、僕を助けようとした。

 その気持ちが、レスターに全て盗られてしまったとしたら?

 由々しき事態だった。


 昨夜の彼女は僕に対して、明らかな罪悪感を持っていた。あれは、憐れみや同情なのかそれとも──?


「どちらにしろ、彼女をこのままにはしておけない。術で無理やり縛った心はやがて壊れてしまうだろう。たとえ、そなたが彼女の心を取り返したとしても。結局は、そなたとあちらの狭間で彼女は心を決めかねるぞ?」


 なんということだ。

 彼女の僕への想いが、彼女自身の首を絞める。


 僕は、とりあえず彼女の元に戻ることにした。


「分かりました。後をお願いします」


「何か分かれば連絡する」


 再び転移すると、部屋にはアーサー達が来ていた。


「あ、エドワード様が戻ってきた!」


「どうした? 浮かない顔で」


 アーサーに指摘されて、僕は何でもない風に装った。


「別に、ちょっと寝不足なだけだ」


 キアラがベッドに腰掛けて、こちらをじっと見ていた。

 目が合うと、彼女はさっと視線を逸らした。

 昨夜のことを考えると、僕は彼女の機嫌を損ねたのかもしれない。


「薬はどうなんだ? 出来たのか?」


「大師匠が来てくれたので、鍋の火加減を任せてきた。火を止めるわけにいかないので。でも材料がどうしても一つだけ足りない」


「それって何?」


「満月の夜にしか咲かない花だ。いろんな商会に問い合わせたが、どこも返事が曖昧で」


「普通の商会にあるわけない」


 アーサーが、ポツリと呟いた。


「その花は、白狼族ゆかりの花だ。一族の門外不出のもので、村の特別な菜園だけで栽培されている」


「何だって!?」


 銀狼族ではなく、白狼族?


「わりかし術が得意な銀狼族と違って、白狼族は薬草などの栽培を得意としている。月光草は、その極みだ」


 まさかアーサーからそんな情報を得ようとは。

 アーサーは白狼族の血をひいている。知っていて当然だ。


「そうと分かったら、白狼族の村へ行かねば」


「その必要はないぜ、王都に屋敷があるだろ? たぶんそこに株分けした鉢植えがある。昔、見たことがある」


 アーサーが腰を上げた。


「俺が行くよ。ヴィクター、馬車を借りてきてくれ」


「分かった!」


 そうしてアーサーは慌ただしく、出掛けて行った。

 なんとも彼が頼もしく思えた瞬間だった。


「大師匠に、月光草のアテが出来たと報告してくる」


 大師匠もなんとかすると言ってくれていたが、こちらでなんとか出来るのならば、向こうも安堵するだろう。


「待って」


 転移しようとした僕に、キアラが待ったをかけた。


「昨日は本当にごめんなさい」


 意外な言葉だった。昨夜あんな風にしたのに、彼女が謝ってくるだなんて。

 僕は嫉妬に駆られて、彼女を責めて酷いことを。最低だ。


「僕の方こそ、ごめん」


 もうレスターの所に行かないでくれとは言えなかった。

 僕はヴィクターに後を任せて、直ちに転移した。

 用件を済ませて、すぐに戻って来れるように。


 明日の夜がリミットだ。解毒薬を何としても完成させ、彼女を呪縛から解放しないと。


 魔術師ギルドの研究室には大師匠の他、皆が揃っていた。


「エドワード様」


 キースが僕の顔を認めるなり、深刻そうに切り出した。


「月光草ですが、所在は分かったのですが手に入れる手段がありません」


「白狼族だろ?」


 白狼族とはリチャードの婚姻の件で破談になり、襲撃のドサクサに紛れて、令嬢達は忽然と姿を消してしまったそうな。

 どうやら、それにもレスターが一枚噛んでいたようだ。


「なぜそれを?」


「アーサーだ」


 キースはそこで、ハッとした表情で、


「そういえば、アーサーの母方の祖母君は、白狼族出身でしたね!」


「お前達は白狼族とは血縁ではないのか?」


「父王と、アーサーの母君は母親が違うのです」


 相変わらずややこしい。


「基本、母親の一族に準じます。私達も銀狼族の血をひいてはいますが、見た目通り黒狼の血が濃い」


「そんなことより、アーサーは月光草を手に入れられそうなのか?」


 大師匠が口を挟んだ。


「今、王都の屋敷へ交渉に向かってます」


「そうか。だが、それだけに頼るのは心許ない。他にも手を回すべきだ」


 大師匠の言う通りだった。白狼族が銀狼族に懐柔されているならば、月光草を譲ってくれることはかなり難しい筈だ。


「白狼族の族長に再度会ってきます。断られるかもしれませんが」


 キースが申し出た。


「私も行こう。白狼族の族長とやらに直接会って頼んでみよう」


 大師匠が行ってくれるなら、心強い。

 ずっと、部屋の隅で様子を見守っていたアビゲイルが口を開いた。


「薬の鍋の管理は私達ギルド所員で、交代で行います」


「頼む」


 皆がそれぞれ動いてくれる。こんな頼もしいことはない。

 キースと大師匠を見送って、僕もとんぼ返りで彼女の元へ戻った。

いつもありがとうございます。

最終回まで、残り@三話となりました。


明日の夜に最終回を更新予定です。


最後までお付き合いの程、

どうかよろしくお願い致しますm(_ _)m

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ