表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
51/58

第五十話 貴重な素材を求めて(エドワード視点)

 僕はアーサーとキースを見送った後、ヴィクターに後を任せて転移魔法で飛んだ。


 一旦王宮の自室に戻り、シャワーと着替えを済ませ、簡単な食事を摂った。


「殿下!!」


 食事を下げに来たのはドロシーだ。確かキアラの専属だ。


「お嬢様は、どちらにおいでですか? 結婚式も延期になってしまって、こちらに帰って来られる様子もなく。殿下もまともに帰っては来られないし、皆、心配しております!」


 そう言えば、皆に詳しい説明をしていなかったな。

 これは僕の失念だ。


「すまない。キアラは今、体調を崩して療養中なんだ。そのうち必ず連れ帰るから、信じて待っていてくれないか」


「お嬢様は、無事なんですね?」

 

 僕は頷く。ドロシーは何かを悟ったみたいだ。


「お嬢様をくれぐれもお願いします。それからこれをお嬢様に」

 

 何か包みを渡してきた。


「これは?」


「殿下が戻ったと聞いて、急いで作りました。お嬢様のお好きな私特製のサンドイッチです」


 ドロシーはそう言って、深々とお辞儀した。

 彼女とキアラは親しく、よくキアラの相談に乗っていたようだ。だが今のキアラは彼女の事も覚えていない。


 彼女の為にも、記憶を取り戻してやりたかった。


 僕はさっさと王宮を後にし、魔術師ギルドへ飛ぶ。

 地下の研究室に突然現れた僕に、ギルドの研究員達も驚きの表情を隠せない。


「マスターエドワード様!?」


 最近就任したマスター職だが、さすがに僕の顔を知らない人間はいなかった。


「突然すまないが、この素材を手に入れたい」


 僕はベテランそうな眼鏡の研究員に素材の書かれたメモを見せた。

 彼は、一言唸った。


「うーん、ちょっとここでは難しい素材もありますね。取引のある商会へ問い合わせましょうか?」


「いや、とりあえずここにある素材だけ貰っていく。商会へは僕が直接行くからいい」


 僕はここで間に合う素材だけ手に入れると、そのまま商会へ向かうことにした。

 さすがに初めて行く場所なので、近くの通りまで転移して、そこから歩く。


 大きな通りに面した建物だった。王都でも指折りの大きさの商会だ。

 早速、建物内に入ると、受付らしき若い女性二人が応対に来た。


「いらっしゃ……え!?」


「!?」


 僕の顔を見るなり、一人は絶句して黙り込んだ。


「ま、まさか太陽の君!?」


 茶色い髪の女性は、手を口で押さえながら興奮を隠せないようだ。

 僕は、ちょっとうんざりしながら要件を伝える。


「この素材が欲しいのだが、手に入るかな?」


「ちょっと、上の者に確認して参ります」


 メモを預けて、僕はエントランスに設置されたソファに腰掛けた。まだかなり素材が足りない。ここである程度揃うといいが。

 お茶を出されたのでそれを飲んでいると、恰幅の良い頭皮の寂しい中年男性が、慌ててやって来た。


「これはこれは、エドワード殿下。呼んでくだされば、こちらからお伺い致しましたのに。私がここの会長です」


 汗を拭き拭きしながら、会長がそう言う。

 このおっさん、だいぶ太ってるなぁ。

 ぼーっとそんなことを考えつつ、僕は単刀直入に尋ねる。


「そこのメモの素材は、ここにあるのか?」


 会長は、申し訳なさそうに頭を下げた。


「だいたい揃いますが、一つだけ少し難しい物が」


「それは何だ?」


「百年もののアルラウネの花です」


 やっぱりそれか、僕は独り言つ。

 マンドレイク同様、アルラウネは栽培が難しい。花は咲くには咲くが、百年育てるの容易ではなしい、そもそも人には難しい話だ。

 王宮の農園にも多少は栽培しているが、百年ものはさすがにない。


「どこかに伝手はないか? 直接交渉に行きたい」


「一軒だけ心当たりが。ただ、そこは婆さんと孫で細々と小さな雑貨屋をやっている、とにかく変わり者です」


「雑貨屋?」


 僕は首を傾げた。

 会長は頷くと奥の棚から、地図を取り出した。


「場所は霊山の麓の小さな村です。元は、巡礼者向けの土産物屋でしたが、そのうち趣味が高じて、雑貨屋になったとかで」


 趣味で魔法植物まで扱うのか?


「婆さんは百歳を過ぎてなお元気で。噂ではエルフの血が薄く混ざっているとか。でも店を切り盛りしているのは孫の方です」


「ありがとう、分かった。行ってみることにする」


 僕は踵を返し、そのまま霊山の麓の村まで転移した。

 瘴気が晴れてからは、ここはこの国で一番、清浄な気で包まれた場所になった。

 僕はフードを深く被り、なるべく正体が知れないように努めることにした。理由は色々と面倒だから。

 聞いた住所を書いたメモを頼りに、僕は歩を進める。途中、すれ違う村人が怪訝そうに僕を見た。

 霊山を参拝する格好とは程遠い僕を、興味津々で眺めている。白いローブの魔術師が、荷物一つ持たずに田舎の村をたった一人で闊歩する。確かに傍目には怪しいだろうな。


 街道と呼べるか怪しい道から逸れた場所に、その店はあった。ものすごいボロ屋だ。こんな所に人が住んでるのか?

 確かに店の体を成していた。今にも外れそうな看板に雑貨屋と書き殴られていた。


 あんまり近寄りたくない雰囲気だ。

 僕は覚悟を決めて、古いドアを開けた。

 店内はさまざまなものでごった返していた。これじゃあ、何を売っているのかさっぱり分からない。


「あ、いらっしゃーい!」


 愛想の良さそうな、黒髪の、ものすごいチリチリ頭の娘が、僕の姿を認めるなり駆け寄って来た。

 そばかす顔のちんくしゃな娘だ。年はキアラより少し下だろうか?


「む、お兄さん、ものすごいイケメンでしょ?」


 下から顔を覗き込まれて、僕は仕方なくフードを脱いだ。


「ほえーっ、こんな綺麗な人初めて見た! すんごい髪の色、これ本物? 白金髪(プラチナブロンド)でしょ? すごい綺麗」


 娘は僕の髪に釘付けだ。


「男の子の癖に、こんな綺麗な髪だなんて。顔も文句の付けようもないわ! まるで王子様みたいね」


 まるでもなにも王子様なんだが、あえて言う必要もないだろう。


「そんなことより、ここでアルラウネの百年ものの花があると聞いて来た。是非手に入れたいのだけど」


「アルラウネの花?」


 娘は、ああと頷いた。


「あるよ! おばあちゃんの秘蔵のやつが。でもあれは売れないなぁ」


 なんだって!?


「そこをなんとか。金ならいくらでも出そう」


 娘はうーんと考え込んだ。


「そうだなぁ、お兄さんの髪をくれたら、譲ってあげてもいいよ?」


「髪!?」


 僕は驚きのあまり、少し声が裏返ってしまった。


「カツラにするの。それだけ長さがあれば充分。バッサリ切ってちょうだい」


 お祖母様の趣味で伸ばし続けた髪だったが、別に僕自身は髪になんの執着もない。


「分かった、いいだろう。交渉成立だ」


 僕は懐に帯びているダガーを取り出して、髪を一息にバッサリ切り落とした。


「わあ、本当にバッサリいったのね」


 髪を受け取りながら、娘が感嘆の声を上げた。

 お前が切れって言ったんだろうが。


「短い髪も、素敵よ。ちょっと整えてあげるわね」


 娘はそう言うと、器用に僕の髪を切り揃えた。


「私、こんな髪だから、小さい頃からコンプレックスで」


 彼女はどこからか鏡を取って来て、僕に出来上がりを見せた。


「はい、やっぱりイケメンは髪短くてもイケメンね。精悍さが増したわ」


 鏡に映る姿を見て、意外に悪くないと思う。

 自分の容姿には自信のある方だが、髪が短い方が僕に似合うのかもしれなかった。


「約束通り、アルラウネの花を取ってくるわね。貴重な品だから大事に使って」


 僕はこうして、何とか解毒薬の主要な素材の入手に成功した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ