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第四十七話 始まった勝負(エドワード視点)

 キアラが王城から出られない以上、僕達もここに滞在する他なかった。

 レスター自ら僕達に客間をあてがい、キアラも僕達と一緒にいることを認めた。


「これはゲームだから。二日間、彼女とゆっくり過ごすといい」


 奴はそう言い放った。

 キアラはベッドに横になっている。あまり体調が優れないようだ。


「一体奴はキアラに何をしたんだ? 記憶を失うなんて」


 彼女はここに数ヶ月の記憶をすっかり無くしていた。

 つまり、僕と知り合って過ごした日々の殆どをだ。

 なぜかレスターの事しか頭に残っていないらしかった。ただ盲目的に、レスターを信頼しているのが腹ただしい。


「銀狼族は秘術使いです。レスターは中でも一流の腕利き、記憶を奪うなど造作もないのでしょう」


 秘術の概要が知れないので、僕も術を簡単に使う訳にはいかなかった。失敗すれば、彼女の精神が壊れる。


「私は、秘術の詳細を調べます。エドワード様は、出来るだけ姫のそばに」


 僕は頷いた。キースは部屋を出て行き、僕達は部屋に二人だけになった。


「キアラ、具合は?」


「少し目眩がしますが、横になっていれば大丈夫です」


 いつもより他人行儀な喋り方だ。

 もう、僕に敬語を使う必要もないんだけどな。


「……あの、エドワード様は、私の恋人だったのですか?」


 彼女はおずおずした調子で尋ねてきた。

 過去形なのが引っかかるが、僕は即答する。


「夫婦同然だよ。結婚式当日に君が攫われたんだ」


「結婚式当日に?」


「そうだ。お陰でこんな寒い国に来る羽目になった。早く君を連れて、王宮へ帰りたい」


 彼女は困惑して黙ってしまった。

 まだこの話は早かったか。


「君が忘れていても、僕の妻は君だけだ。お腹の子の父親は僕だ」


「ごめんなさい」


 このごめんなさいは、忘れてしまった事に対してなのか、それとも僕の気持ちに応えられない事なのか、これでは判断が付かなかった。


 あと二日のうちに彼女の心を取り戻さなければ、僕の負けになってしまう。


「レスターの事が好きなのか?」


 これは重要な問題だ。呪いの類いだろうが、奴を好きだと言われたら、僕の不利もいいところだ。


「……それは、ちょっと、ええそうかも知れない」


 んん? この反応は?

 思ったより、奴への反応が薄い。これならどうにかなるのか?


「頭が痛い」


 僕は彼女の額に手をあて、回復魔法を掛けた。

 彼女は目を瞑り、気持ち良さそうにしている。


「ああ、楽になりました。ありがとう」


 彼女は少し微笑んだ。やっと彼女の笑顔が見れた。


「あなたの手はひんやりとして、とても気持ちがいいです」


「少し休むといい。僕はここにいるから」


 彼女は目を閉じた。

 僕も疲れが出たのか、少し目眩がした。

 そういえば昨夜は徹夜したんだっけ?


 僕はいつのまにか眠ってしまっていた。


「エドワード様、エドワード様起きて下さい」


 小声だが、しっかり僕に聞こえる声に起こされた。


「どうした? キース」


「これを見て下さい」


 キースが慌てて取り出したのは、古い装丁の一冊の本だった。


「その本は?」


「図書室で見つけました。秘術に関してわずかですが載っています」


 彼がめくったページに記されていたのは、辛い記憶を消すという銀狼族に伝わる秘術に関してだった。


「姫に掛けられたのはおそらくこの術かと」


 僕は示されたページを詳しく読んだ。

 元々は、愛する者を亡くした悲しみや、消したいくらい辛い過去を忘れる為に使う術のようだ。だがキアラの場合、レスターへの思慕が追加されている。この術を応用したのだろうか?


「これを解く方法は?」


「現状ないようです」


 万事休すか。だが、たとえ記憶を取り戻せなくても、僕への気持ちさえ戻れば問題ない。


 この二日間で彼女の気持ちを何としても掴まなければ。


 思えば、彼女は僕のどこが好きだったのだろうか?

 顔ではないと言われたが、性格? 僕の性格は我ながら良くはない。もっとよく聞いておけば良かった。


 僕は彼女の寝顔を眺めながら、たまらない気持ちになった。

 多少なりとも恋愛経験はあったが、これが片思いなのか。僕には初めての経験だった。

 そもそもキアラほど好きになった相手は今までいなかった。


 小さいくせに、僕に遠慮なく殴りかかってきた相手はさすがにいなかった。しかも女の子で、度肝を抜かれた。表情がころころ変わり、よく笑い泣いて、見ていて飽きない。


 早く僕を思い出せ、そしてまた愛して欲しい。

 そうでないと、僕は君に意地悪が出来ない。


「大丈夫、彼女はきっと僕のことを思い出す」


「ええ。姫の為に、エドワード様がどれほど苦労してらっしゃるか。きっと心は通じます」


 キースは少し考え込んで、やがて口を開く。


「秘術に関しての禁書がある筈です。私はそれを探しに行きます」


「それは銀狼族の秘蔵では?」


 キースは難しい顔をした。


「ええ」


 僕はそこでふと思い出す。


「魔術師ギルドを訪ねるんだ。アビゲイルは銀狼族だ。きっと力になってくれる」


「分かりました」


 彼女は確かに銀狼族だが、魔術師ギルドに籍を置く以上、僕の配下だ。


 キースを送り出して、僕はキアラの傍に戻った。

 彼女はよく眠っている。僕も今のうちに少し寝ておくことにした。

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