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第四十五話 王太子になる為に(エドワード視点)

 避難所の聖堂に戻っても、彼女の姿がどこにもない。

 周囲の人間に尋ねると、皆一様に出て行ったと。


「怪我人の救助をしとったが、そのうち戻って来なくなったな」


 何だって?

 僕は精神を集中して、ネックレスの魔力を辿った。

 ここからはだいぶ離れている。この方角は、まさか?


「キース」


「はい、エドワード様」


「キアラはおそらく首都青狼にいる」


「何ですって?」


 キースは顔色を変えた。

 そしていつものように考え込んだ。

 なぜそんな遠くへ? 転移魔法でも使わない限り、移動出来ない距離だ。


「何者かに攫われたのか」


「おそらく、そう考えるのが自然でしょう」


 キースも同意した。


「犯人は分かるか?」


 彼は黙り込んだ。しばしの沈黙の後、ようやく口にした名は、やはりと言えるべき人物の名だった。


「第二王子レスターです」


 この国の後継者争いの最有力者。キース達一族とまさに敵対している人物。


「トロール達をアンデッド化し、襲撃させたのもそいつだな?」


 キースは頷いた。

 あれは明らかに人為的な手が加えられている。

 夜半、しかも僕達がここに滞在しているのを狙ったというべきものた。

 村を本気で襲撃し、あわよくば壊滅させ、かつキアラを攫う。全て奴が立てた計画の一環だろう。

 第二王子レスター、切れ者と聞いてはいたが、とんだ腐れ外道だな。


「僕は王城へは飛べない。キース、飛んでくれるか?」


「分かりました。ただ、兄に話を通してきます。このまま黙って行くのは、ちょっと」


 キースの言い分はもっともだ。


「僕も行こう」


 僕もリチャードに話がある。こうなった以上、キアラの魔力を抑えたままなのは、危険だ。


 そのままリチャードの居場所に転移して、彼の目の前に突然現れる格好となった。


「わ! なんだ突然」


「兄上、キアラが攫われました」


「何だと!?」


 リチャードは、あれだけの戦闘をこなした後に、怪我人の救護に当たっていた。突然の襲撃の際に、逃げる過程で怪我をした者、戦いに出て怪我をした者が多数だ。そして、運悪く命を落としてしまった者もいた。


 死者の遺体が広場の隅に並べられていた。


 この襲撃が故意によるものだとしたら、決して許されないことだ。


「申し訳ないが、俺は責任者として、ここから離れられない。姫のことはお前達に任す」


「兄上、姫の封印を解いて下さい」


 リチャードが目を見開いた。


「姫はレスター兄上の手に落ちました。姫の身が危険です」


「レスターの? それは」


 リチャードはキースから目を逸らした。

 白狼族との婚姻がうまくいかなかった上、キアラまで攫われた以上、リチャードの手札はもう最後の一枚だ。


「どっちにしろ、今さら姫を妻にするのは不可能ですよ? エドワード様も、私とて黙ってはいない。これ以上、エドワード様達に迷惑を掛ける訳にはいかないのです」


 キースのあまりの剣幕に、リチャードは押し黙った。


「分かった」


 リチャードは懐から、小さな鍵を取り出してキースに渡した。

 彼はそれを僕に投げて寄越した。


 これで彼女の封印は解ける。


 僕はキースを促した。


「私達は王都へ行きます」


「直接対決か? 王城はもはや奴らの巣だ。くれぐれも気を付けろ」


 ふん、僕が行く以上負けはしない。

 レスターがどんな奴でも、僕に喧嘩を売った以上、ただではおかない。


「エドワード王子、一つだけ忠告しておく。俺が姫を狙ったのは、彼女がエルフの賢者というのはもちろん、貴国の王太子がアーサーに決まったことが大きい。たとえ賢者とはいえ、たかが一王子に成り下がったお前を甘く見たんだ。まぁ、お前の強さが噂通りなのを信じていなかったのが失敗だったが」


 たかが一王子、舐められたものだ。

 あえて王太子を辞退したことが、今回の事件を引き起こすとは。やはり失敗だったかな。


「キース、少し時間をくれ」


 僕の申し出に、彼はピンと来たようだ。


「エドワード様、まさか」


「そちらの王城に参るのに、たかが一王子では失礼にあたるようだ。だったらそれに相応しい身分で行こうじゃないか」


 僕は直ちに王宮へ飛んだ。

 本当に一瞬、我ながら便利な魔法だ。


 久々の王宮だ。そのまま、父上の宮へ向かう。

 まだ早朝だったが、既に父上は起きておられる筈だ。


 衛兵が、僕の顔を見て敬礼をした。


「これは、エドワード殿下」


「国王陛下に火急の用件がある。お目通りを」


「お待ちください」


 衛兵が取り次ぎ、すぐに部屋に入るように促された。

 部屋に入ると、朝から膨大な書類の山に囲まれた父上の姿があった。

 年齢的にはまだ壮年の父上は、精力的に仕事をこなしている。

 黒髪に青い瞳、仕事のし過ぎで少しやつれた顔。多少白髪は増えてきたがまだまだ若い。

 僕の実の父ではないが、子供の頃より随分可愛がってもらった。血縁上では従伯父だが、父上と母上は二重従兄弟の関係なので本当はもっと血が近い。僕がやんちゃ出来たのも、父上の懐が大きかったからだろう。


「どうした? こんな朝早くから」


「父上、突然ですがお願いがあります」


 こんな朝早く突然やって来た僕に、怪訝そうな顔もしない父上は凄いと思う。


「お前がそんな事を言うのは珍しい。何だ? 言ってみろ」


「王位をやはり継ぎたいと思います」


 父上は、ガタッと席を立った。


「本当か!? やっとその気になってくれたか!」


 父上は、以前から僕に王位を継がせたがっていた。実の子のアーサーではなく、実子でもない僕を。

 僕がそれを受けなかったのは、半神の身であること、実の子でないことが大きな理由だったのだが。

 だが僕の我儘なせいで、今回のように他国の人間に付け入れられる隙を与えてしまうくらいなら、王太子になった方がずっとマシだ。


「今すぐ、王太子に任命を。僕の妃が、人狼国に囚われているのです」


「何だと!? 結局国外に取り逃したのか?」


「僕の失態です。一度は取り戻したものの、再度奪われました。急がねば、人狼王家の妃にされてしまいます」


 これに父上はうーんと唸った。


「人狼はエルフ族を信奉している。お前の妃はエルフな上、賢者と聞く。それは人狼にとって、この上ない魅力的な存在だろう。攫われるのも道理だ」


「この僕も舐められたものです」


 父上は、素早く書類にサインをしながら言った。


「お前の名声は他国にも響いている筈だが、あまりに誇張されて真実味が薄いからな。まあ、実際誇張というべきでもないのだが」


「父上、僕はひょっとすると人狼国を滅ぼしてしまうかもしれません」


 父上の手が止まる。


「お前にとって、それ程大事な娘なのだな。だったら私は止められぬよ。お前が本気を出したら、この世界の誰一人として止められる筈がない」


 この父上の一言で、僕はいつもすんでのところで踏みとどまってきたのかもしれなかった。


「朝の朝議で、触れを出しておく。お前はたった今より、我が国の時期国王、王太子だ。さあ、早く行け 」


「ありがとうごさいます」


 僕ば深々と礼をして、父上の前から姿をかき消すのだった。

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