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第四十二話 再び攫われて

 まさか転移魔法が使えるだなんて、聞いてない。


「驚いた? この札は転移魔法の代用品なんだ。ここにしか戻って来れないけど」


 レスター王子と転移した先、おそらくこの国の首都青狼にあると言われる王城だろう。


 どこかオリエンタルな雰囲気の室内。元いた世界のアジアンなテイストだ。彼の趣味だろうか?


「ここは私の部屋だ。今日からあなたの部屋でもある」


「そんなの嫌です。もう勘弁して下さい」


 どうしてこう、この国の王子様は皆強引なんだろう。キースさんが異端なのか。


「お願いですから、帰して下さい。これ以上面倒に巻き込まれるのはごめんです」


 レスター王子は目を見開いた。


「ここにいれば、私があなたを全力で守る。もう面倒に巻き込まれる心配など無用だ」


「いや、だから私には夫が」


 このままじゃ平行線だ。


「私は、リチャード王子に力を封じられて、何も出来ません。だから、あなたの力になることも出来ません」


「あなたは自分の価値を本当に分かってる?」


 自分の価値だなんて。そりゃ、半神だからそうそう他にいないけども。


「あなたはいまや希少な種族エルフで、しかも賢者でその美貌だ。私だって、噂を聞いて手に入れたくなった」


「あなたの夫とされるエドワード王子はどうだった? 初めてあなたに会って、すぐ求婚したのでは?」


 確かにそうだけど、彼の場合は予言のこともあったから。


「彼もあなたを手に入れる為に、相当骨を折った筈だ。あなたのことだから絆されて彼を受け入れたのだろう?」


 確かに流されて、婚約してしまったけど、ちゃんと彼を好きになった。


「彼を愛してます」


「私は別に構わないよ。あなたの心が別にあっても。どうせここからはもう出られない。あなたには後宮へ入ってもらうつもりだし」


 こ、後宮!?


「もちろん、正妃はあなただ。側室は、しきたりなので迎えることになるが、あなたがイヤだと言うのなら、そんなしきたりも廃しても構わない。ただ、子供はちゃんと産んでもらうけど」


 やっぱりこの人も私の子供が欲しいんだ。

 さすがにげんなりしてしまう。


「私達初対面ですよ? いきなり結婚てどうなんですか?」


「そんなこと、ここでは普通だけど? あなたはとてもいい匂いがする。きっと相性はいいとは思うよ」


 またそれ言われた、三回目だ。

 やっぱり言うしかないかなぁ。あんまり言いたくないけど。


「私、もう妊娠してます。だからあなたのご期待には沿えません」


「妊娠?  エドワード王子の? ははは、先を越されたか。構わないよ、私の子として産めばいい」


 私は呻いた。もう、ここの人達みんなこんな感じなの? 


「レスター王子、私は嫌です。あなたと結婚するのも、ここで生活するのも。私あなたに嫌って何回言いました?」


「三回かな?」


 この人、バカではなさそうだ。

 でもこんな不毛なやり取りより、この人から聞きたいこともある。


「あの、黒狼の村の襲撃なんですけど」


 タイミングが良すぎた。よりにもよって私達が滞在している時に襲撃があるだなんて。


「あなたが察する通りだとしたら? 屍人(しびと)が襲ってくるって普通じゃないよね」


 まさかこの人の仕業なの?


「私達、銀狼族は秘術に長けていてね。君達賢者ともまた違う術を行使出来る。比較的、魔法が苦手な人狼において、私達は例外なんだ」


「だから、我ら以上に術の長ける人狼がいてはならないんだ。黒狼の異端児キース、あいつは自滅して母上に呪われたんだ。リチャードは脳筋野郎でバカだから扱いやすいけど、キースは賢すぎて、目障りだったから」


 彼は何かを思い出すように、ゆっくりと話を続けた。


「父上は母上の目を気にして、国外にキースをやったんだ。後継者から外す意味でね。ヴィクターもそうだな、母上は奴も嫌ってた。正確に言うと、ヴィクターの母親をだけど」


 アーサー様に付けられた護衛達は、みんなここでは厄介者扱いされてたって事?


「父上が病に倒れて、後継者をいよいよ決めなくてはならなくなった。リチャードも焦ってあなたを攫ったようだけど、詰めが甘かったね。結局、私に横からかっさらわれるんだから」


 私は俯いた。この人は最初からおそらく計画してたんだ。リチャード王子が私を攫う事すら、計算済みで。


「なんて怖い人なの? でもエドワード様が絶対黙ってない」


「そうだね、彼を何とかしなきゃね。そうしないと、心置きなく結婚出来ないし」


 エドワード様もどうにかする気なの?


「そろそろ休まないと。顔色が良くない。おいで、一緒に寝よう」


「嫌!」


 レスター王子はキョトンとした。


「ちゃんと休まないと、大事な体なんだから」


 そう言って、彼は私を抱き上げてベッドへ運んだ。

 天蓋付きの豪華な物だ。しかも広い。


 私はなす術なく、仕方なく布団に潜り込む。

 さすがにこの状態で襲われはしないだろう。

 彼は背中を向けてしまった私に、そっと寄り添うように布団に潜り込んできた。エドワード様以外の体温を感じるのは初めてだった。


 涙が溢れた。早く彼の元に帰りたい。


「おやすみ」


 私は返事などしなかった。

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