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第四十話 呪われし王子

 その日の夕食は、令嬢達と会食の予定だった。

 あんな事があったので、さすがに私は気が進まない。


「君の体調も良くないし、いっそ僕らは断ろうか?」


 エドワード様がそう言ってくれたので、私達は今回は遠慮しようと思っていた矢先だった。


 部屋をノックする音がして、エドワード様が応対した。


「なんだキース、どうしたんだ?」


「少し困った事態になりまして」


 キースさんの表情は、深刻そうだ。

 エドワード様は彼を部屋の中へ促した。


「それで、困った事態って?」


「令嬢の相手に、私が指名されてしまいました」


 あらま、やっぱりと言うべきか。


「ふーむ」


「今回、私の身分は伏せていたのですが、兄上と顔が似ているのを追及されまして。王子の身分なら、私でも問題ないだろうと」


「で、指名されたのはどの娘だ?」


「それが、ローレン嬢を除く二人共で……」


 うわぁ。リチャード王子の立場ないじゃん。

 リチャード王子も確かに美形だけど、キースさんはちょっと次元が違う美形だからなぁ。面食いなら、間違いなく彼を選ぶだろう。


「もういっそ、お前でダメなの? お前が王位に就けば丸く収まらない?」


 エドワード様、もう面倒くさくなってるよね。


「私には無理なのです。どうしても」


 キースさんは無理の一点張り。

 ここまで言うなら何か事情があるんだろうな。


「いい加減にしろよ、キース」


 エドワード様が溜め息をついた。


「お前は自分を卑下し過ぎる。どうしても王位に就けないという理由を言わない限り、僕はもう協力出来ないぞ」


 その声は厳しいもので、彼を非難するものだった。


「それは」


 彼は唇を噛み締め、俯いた。

 エドワード様はそれを冷徹な眼差しで黙って眺めている。

 無言の圧力が怖い。


「僕には話せないことなのか?」


 キースさんは、エドワード様にそっと耳打ちした。

 エドワード様の表情が変わった。


「キアラ、少し目を瞑ってて」


 唐突に言われて驚く私のだが、彼の指示におとなしく従う。


 一体何なのだろう?

 私は耳を澄ませて様子を伺うしかない。


「これは何だ? 刺青ではないね、何かの呪いの文言のようだが」


「はい。これは呪いです。断絶の呪いだそうです」


 呪い!?

 キースさんは呪われてるの?


「もう、目を開けていいよ」


 言われて目を開けると、どうやら服を脱いでいたらしいキースさんが、上着に袖を通していた所だった。


「キアラにはちょっと見せられなくてね。あまり見て良いものではないし」


 ちょっと見たかったというのが本音。

 呪いだなんて、怖い。


「で、何でお前が呪われてるんだ? その呪いの意味はなんとなく分かるが」


「子供の頃からなのです。まだ私が王城にいた頃に」


 キースさんは遠い目をしながら、話し始めた。


「まだ幼かった私は、自分の能力を抑える術を知りませんでした。他人より突出したそれを、ただひけらかすことに喜びを感じて、優越感に浸っていたのです。愚かなことに」


「母は、何度も私を嗜めましたが、私は聞き入れませんでした。私は神童と周囲からもてはやされ、私のことを知らぬ者は王城にはいませんでした。後継者に相応しいと噂が広がり、やがて、正妃の耳にも私のことが伝わったようで、そこでとうとう母が呼び出されてしまいました」


「正妃と、ただの側室に過ぎない母。私のことで母が糾弾されました。私はそれを黙って見ている訳にはいかなかった」


「これは私に下された罰なのです。結局母は幽閉され、体を壊し亡くなりました。そして私には、その奢った血を後世に残さぬ為に、断絶の呪いが掛けられました」


「私は人を愛することが出来ません。愛情を持てないのは、呪いのせいなのか分かりませんが、誰かと契り、子を残す、その当たり前のことが私には不可能なのです」


 私達は、押し黙った。

 そんな過去が彼にあったなんて。


 普段の彼があんなに自分を卑下して控えめなのは、そんな事実があったからなのか。


 その血を絶やす為の断絶の呪い。

 いくらなんでも酷すぎる。


「エドワード様、呪い解けませんか?」


「僕は呪術には詳しくないが、見たところ相当手が込んでいる。解くのは容易ではないな」


 うーん、エドワード様でも無理なのか。


「正妃の一族に、目の敵にされているのは私も原因の一つです。もう我が一族は、兄のリチャードだけが頼りなのです」


 これは、もうどうにかしないと本当にまずい。

 キースさんの為にもどうにかしないと。


「エドワード様、なんとかして下さい」


「人を万能な神みたいに言うなよ」


 エドワード様は少し考え込んでいたけど、やがて口を開いた。


「結婚出来ないと素直に言うか、それとも」


 エドワード様は、ニヤリと微笑んだ。


「一芝居うつか」


 なんか企んでる時の笑い方だ! 一体何する気なの?


 エドワード様は、急遽夕食に参加すると言い出した。令嬢達に話があるらしい。


「キースは僕の指示通りに」


「分かりました」



 ──そして夕刻。

 会食の席には、既にリチャード王子、令嬢達の姿が。そこへ私達三人が後から現れる。


「遅い、何をしてた?」


 リチャード王子は機嫌が悪いようだ。


「いや、ちょっと面白くない話を聞いたものでね」


 エドワード様が、愚痴りながら席に着いた。

 シルヴィア嬢がキースさんを見るなり、


「ご機嫌よう、キース殿下。こちらの申し出は受けて下さいますの?」


 わっ、単刀直入だ!


「そのことなんだが」


 エドワード様が話を遮った。


「キースは我が国の大事な要人だ。いずれ弟のアーサーが王位を継ぐ時、その右腕となる。結婚するにも、そう簡単にこちらとしては許可は出来ない」


「あら、エドワード様、あなたはアーサー様とは違うでしょう? アーサー様に言われるならまだしも、たかが一王子のあなた様にどうこう言われる筋合いはございません」


 シルヴィア嬢って結構キツイ性格なんだ。

 エドワード様に言い返すなんて。


「確かに僕は王太子を辞退し、王位は継がぬ身だが」


 ざわっと、辺りの空気が変わる。

 ま、まさか!?


 エドワード様の髪がどんどん漆黒に染まっていく。


「魔王として、お前にどうこう言われる筋合いはない。死にたいのなら、止めはせぬがね。この小娘が!」


 怖い怖い怖い、エドワード様怖い!!

 目が、笑ってない!!


 圧倒的なまでの覇気、これがエドワード様なの?


「ひっ、ま、魔王!?」


「!!」


 エドワード様の変貌ぶりに、皆びびる。


「キースは、我が配下。勝手なことは俺が許さない」


「私はエドワード様の意思には逆らえません。どうかご容赦下さい」


「も、申し訳ございませんでした。私どもの申し出は忘れてください!!」


 シルヴィア嬢とミリアム嬢が二人ともにその場で額突いた。


「興が削がれた。我らは失礼する」


 そう言って、私達は一瞬で転移した。



「ふふっ、なかなか面白かったろ?」


「少々やり過ぎでは?」


 部屋に戻るなり、エドワード様の髪の色が徐々に元に戻った。


「本当に自在に力を使えるんですね」


「うん、まあ触りだけだからね。本当に力を解放してる訳じゃない。あれくらいなら、どうってことないさ」


 エドワード様はそれでもなんだか楽しそうだ。

 あんなに世界を脅かした存在が、完全になりを潜めてる。元々性質が似てたって言ってたけど、こうまで自分のモノにしてしまうとは。なんか口調まで変わってたし。


「あ、兄上が来たようです」


 キースさんが席を立って、応対にあたる。

 ノック前に気付くなんて、やっぱり耳がいいんだな。


「おい、なんだあれは?」


 入ってくるなり、リチャード王子がすごい剣幕だ。


「なんだとはなんだ? お前が不甲斐ないから、弟が良いと言われたんだろうが?」


 エドワード様、それ喧嘩売ってるよね?

 そもそも、リチャード王子は、キースさんの事情を知ってるのかな?

 知ってたら、あんな裏切り者とか言わないだろうし。


「エドワード王子、一体お前は何者なんだ? 」


「何者って、ただの賢者で今は魔王だね」


「本当なのか?」


 エドワード様は面倒そうに、リチャード王子を一瞥した。ざあっと空気がまた変わる。そんな簡単に!?

 髪が黒くなったエドワード様は、完全にリチャード王子を見下した態度だ。


「お前は馬鹿だな。弟の苦労も知らないで」


「エドワード様!」


 キースさんが制止する。


「兄には私が、ちゃんと説明しますので」


 キースさんは、リチャード王子と向き合って二人でしばらく話し込んでいた。


 結局、令嬢からの申し出はリチャード王子の耳には入れておらず、キースさんが自分の元で留めていたらしい。さすがに言えなかったみたい。

 でも、あの場であんな事になったから、知るところになって、どういうことだってなっちゃったらしい。


「結婚はなしですか」


「御免被る。馬鹿にするにも程がある」


 ああ、結局破談になっちゃった。

 私達、いつになったら無事に帰れるのだろう?

いつもありがとうございます。

話数を重ねて、PVの増え方にただビックリしております。少しでも読んで下さる方がいる限り、最後まで頑張りますのでよろしくお願いします。

話はまだまだ続きます(;´д`)


夜にもう一話更新予定です。

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