第三話 初めての手合わせ
一夜明けて、早速今日からエドワード様の個人指導を受ける事になった。王都のアカデミーへの転校も検討されたけど、私がエドワード様の婚約者扱いなので、色々大変らしい。
もし本当に婚約者となったら、他の女子生徒から何をされるか。そんなのたまったもんではない。
彼は公務で多忙なので、付きっきりとまではいかないが、転移魔法を駆使して、時間の合間を縫って私の指導をしてくれる事に。彼がいない間は、私は自習だ。
「早速だけど、今日は君の実力を知りたい」
「はぁ」
私達は、王宮内の西の外れ、普段は軍の演習に使う修練場にいた。
エドワード様は長い髪を後ろで一つに結びながら言った。
「本気で僕に攻撃してきて」
「え、良いんですか?」
私は辺りを見回す。人っ子一人いない。エドワード様が完全に人払いをしたからだ。
「念の為、結界を張っておこう。これでここには誰も入って来られない」
そう言って、彼は辺りに結界を張る。
辺りの空気が変わり、結界が張られたのが分かる。
隙のない、完璧な空間。ここは今、外界から完全に遮断された。
──この中でどれだけ暴れても、周囲に影響は出ない。
準備は整った。あとは私のやる気だけ。
「本当にやるんですか?」
「大丈夫だから、本気でやって」
私はこれまで本気を出した事はない。
いつも力を抑えて生きてきた。それが当たり前のように。
学校でも、全ての魔法を皆の前で披露した事などない。
私さえも知らない本当の実力。
エドワード様は強い。
それは見ただけで感じられる。強者は強者が分かると言うそれ。おそらく彼は魔法が凄いだけじゃない。
私は意を決して、彼に向かって飛びかかった。
一撃目は徒手で首元を狙う。
すんでの所で躱され、私は続けて上段へ回し蹴りを放った。
これもすんでで躱されて、私は確信した。
この人、格闘スキル持ちだ!!
私はめげずに三撃目を下段に蹴りを放つ。
これは飛んで躱されてしまった。
四撃目、私は閃光弾を放ち、視界を奪ってから、懐に入り込んで正拳突きを打つ。
「!!」
腕を取られて投げられる。
たまらず体を回転させて、着地する。
危なかった!!
地面に叩きつけられる所だった。
「格闘スキル持ちって聞いてません!」
「聞かれなかったし」
しれっと舌を出して笑う、エドワード様はなんだか楽しそうに見える。
私は次に爆裂弾を連続で放ち、横に飛びながら隙を窺う。
彼は私の攻撃を全て躱し、余裕の表情で宙に高くふわりと浮いた。
く〜〜なかなか当たらん! ムカつく!!
こうなったら全力だ。
私は意を決して、鎌鼬を放ち、躱した所を追撃弾で追う。
空気中の水分を、集中して集め、術を放つ。
彼の手足を水の枷が捉えた。
すかさず最大出力で電撃を浴びせた。
轟音が響き、辺りに白い煙が上がった。
直撃したら、タダでは済まないだろう。
彼の姿はまだ見えない。
私はドキドキしながら、目を凝らす。
怪我させてたら、どうしよう?
「攻撃が単調過ぎる」
耳元で囁かれ、私は驚いて振り返る。
悠然とエドワード様が立っていた。無傷で。
いつの間に背後に? 気配をまるで感じなかった。
やっぱり化け物だわ、この人。
私の心配のドキドキを返せ。
「センスは悪くないよ。格闘スキルもなかなか」
「はい」
彼は、光輝く剣を魔法で作り出す。
「剣は使える?」
「剣技はやってません」
「じゃあ、教える」
剣技も出来るのこの人? 私は軽く溜め息をついた。
私は集中して、両手に光輝く短剣を作り出す。
こっちの方がきっと格闘スキルを活かせる。
「双剣か、良いね」
エドワード様はふふっと笑う。
「どこからでも、かかっておいで」
「参ります」
それから私は一方的に攻撃を仕掛けた。
けれど、彼に赤子の手をひねるように全て躱されてしまう。
「どんだけですか?」
「何が?」
ここまで実力差があると、さすがに萎える。
私は肩で息をしているのに、彼は涼しい顔をしている。
「僕から一本取れたら、何でも願い事を聞いてあげよう」
「本当ですか? 約束ですよ」
結局その日は一本も取れず、私の体力が限界になって、終了となった。
翌日、酷い筋肉痛で私はベッドから起き上がれず、メイドさんに助け起こされた。
「い、いたたっ!」
「大丈夫ですか?」
今まで、こんなに全身の筋肉を酷使した事などなかったからなぁ。
「お医者様を呼びましょうか?」
「だ、大丈夫です。ただの筋肉痛なので」
エドワード様が朝から公務で良かった。知られたら、きっと押し掛けられる。
今日は、午前中は自習で、午後からは近衛の隊長に会うことになっている。何とかそれまでに動けるようにならないと。
「でしたら、湿布を貰ってきましょうか?」
「それは助かります。よろしくお願いします」
「横になって楽にしていて下さいね」
気の利くメイドさんだ。本当に有難い。
私はうつ伏せに横になる。
「お嬢様、お待たせしました」
しばらくしてメイドさんが、手に湿布を持って戻って来た。
「お医者様から、アロマオイルでのマッサージを勧められましたが、いかがなさいますか?」
「是非お願いします」
「分かりました。あちらの部屋にありますので、ちょっと取って参りますね」
そう言って、メイドさんが出て行き、私は上着を脱いで再び横になった。
昨日の疲れからか、再び睡魔が私を襲う。
気が付くと私はすっかり寝ていたようだ。
何やら背中に心地よい温かさを感じ、まだ夢現つの私は身を任せ──ん? 癒されるこの感覚は? まさか回復魔法!?
私は体を起こそうとするが、肩を誰かの手が押し留めた。
「まだ治療中だから、横になってて」
声で相手が分かってしまう。
「あの」
「ごめん、顔だけ見たら、仕事に行くつもりだったのに、メイドから君が筋肉痛で起きられないと聞いたら黙ってられなくて」
エドワード様に悪気はないんだろうけど、年頃の乙女としては、これは由々しき事態で。
私は今、上半身裸だ!
「僕が無理させたせいだから、本当にごめん」
「いいえ、私の日頃の鍛錬が足りなかったせいです。どうかお気になさらず」
身体中の痛みが嘘のように引いていく。
「やっぱり、今日は一日休みにしよう。隊長には僕から連絡しておく」
「え、そんな!」
ガバッと体を起こした私は、次の瞬間気付いてしまう。
「あ」
「!!」
エドワード様は咄嗟に顔を逸らし、私に背中を向けた。
「大丈夫、 」
「見えたんじゃないですかーーーー!!」
私は恥ずかしさで真っ赤になって、泣きそうになる。
「ごめん、もう行く」
そう言うなり、彼の姿は霧のように掻き消えた。逃げた!!
超見られた、超恥ずかしい、もう顔合わせられない!!
「もうお嫁に行けない」
私がそう呟くと、入れ替わりに部屋に戻って来たメイドさんが、
「殿下に責任取って貰えば、よろしいじゃないでしょうか?」
と、ニコニコしながら言う。
まさか、全部見てた!?
「どうして部屋に入るの止めてくれなかったの〜?」
「殿下の回復魔法は天下一品です。どんなお薬より、よく効きますでしょう?」
そういや、回復魔法は私だって使えるんだった。
自分でやれば良かったよ〜〜今さらだけど。




