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第三十六話 囚われの花嫁

「ここで強引にお前を抱いて、俺のものにする事も出来るが、あいにく時間がない。これから南を目指し、船に乗って人狼国へ入る」


 なんだかさらっと怖いことを仰る。

 出来れば、強引に抱かれるのも、船に乗るのも御免被りたい。


 まさか海路を選ぶとは。

 このまま国境を目指しても、エドワード様のことだから、きっと厳戒態勢を敷いているに違いない。それを避けての海路か。


「取り敢えず、そのドレスは脱いでもらう。目立つからな。これに着替えろ」


 そう言って彼は、着替えを投げた。

 人狼の民族衣装だろうか? 丁寧に織られた布の柄が鮮やかで、独特のデザインのものだ。


「常に見張りがいるし、お前はそのチョーカーで魔法を封じられている。変な気は起こさぬように」


 最後にそう釘を刺して、彼は部屋を出て行った。


 私は首に巻かれたチョーカーに触れる。

 これが私の魔力を封じているものらしい。

 私は仕方なく服を着替え、おとなしくしている他なかった。


 私の着替えが終わるや否や、部屋に一人の少女が入ってきた。

 黒髪で琥珀色の瞳をしたおさげの少女だ。


「私はハンナと申します。道中、私がお世話いたします。姫様」


 丁寧にお辞儀をして、彼女は私の髪を整えてくれた。

 どんな会話をしたら良いのか、私が迷っていると、


「リチャード様は、私達一族の光です。どうか嫌わないであげて下さい」


 彼女は大声で叫んで、地面に擦り付けるように頭を下げた。なんて健気な子なんだ。


「私達は、少数部族の黒狼の者です。その服は我々の民族衣装なんですよ」


 同じ一族の子なのね。そういえば、髪も瞳の色も、キースさんと同じ。


「やっぱり民族衣装なのね」


「リチャード様は、姫様に受け入れて欲しいのです。こんな形になってしまいましたが、リチャード様はお優しい方。姫様を一生大事にして下さいますよ」


 そんな事言われても、私にはエドワード様がいる。


「私にはエドワード様がいるの。彼を受け入れる訳にはいかない」


 そう言うと、ハンナちゃんの大きな目にみるみる涙が浮かんだ。


「リチャード様がお嫌いですか?」


「いや、そういう訳じゃないけど」


 思わずそう答える私に、彼女は私の手をがしっと握って、


「リチャード様は素晴らしい方です! あの方が王になれば、我々皆、きっと幸せになれます。どうか姫様は、あの方の一番側で、支えてあげて下さい」


 え、ええー?


「我々一族の男は、番いを決めたら一生を相手に捧げます。浮気など絶対にしませんよ?」


 私は、ハンナちゃんの目をまっすぐに見て答えた。


「気持ちは分かるのだけど、私はエルフよ。不老不死である以上は、普通の結婚は無理なの」


「我々人狼族は、人の三倍の寿命があります。長寿の者になると、三百歳も軽く超えます。きっと大丈夫ですよ」


 人狼って長生きだったんだ。うーん。


「きっと、リチャード様と一緒にいれば、好きになります」


 そんな事言われても、私は浮気なんかしない。

 意地悪で性格はアレだけど、エドワード様が大好きだから。


 そんな時、ドアの外から声が響いた。


「姫の支度は済んだか? さっさと出発するぞ」


 私は幌馬車に乗せられ、港まで移送されるそうだ。

 私の隣にハンナちゃんが座り、対面にリチャード様が座った。その隣は護衛の人だろうか、仏頂面でこちらを見向きもしないけど。


「港まで、少しかかる。眠っておくといい」


 私は緊張とストレスで、気分が悪くなってきていた。吐く程ではないが、相当顔色も悪かったようだ。


「姫の顔色が良くないな。急いだ方が良さそうだ」


 ハンナちゃんの肩に、頭を乗せる形で目を瞑る。

 早くこの場所から逃げ出したい。それしか考えられなかった。



 ──少し眠っていたようで、私は潮の香りで目が覚めた。


「そろそろ、港に着くぞ」


 港に着いたら、船に乗せられ人狼国へ連れて行かれてしまう。

 何とか船に乗るのは避けたかったが、私の頭では何もいい案が思い浮かばない。頭脳担当じゃない事をここで後悔しても仕方ないけど、ただえさえ、つわりで気分が悪いのに、船になんか乗ったらどうなることやら。


「船になんか乗りたくない!」


 もう駄々をこねるしかなかった。馬車から降ろされそうになっても、必死になって抵抗した。


「姫様!」


 ハンナちゃんがオロオロしている。

 でも、私はどうしても船に乗りたくないんだ。


「往生際が悪い」


 リチャード王子が、私の体をふっと担ぎ上げて、そのまま船に乗り込む。


「降ろして!!」


「あんまりうるさくすると、口をまた塞ぐぞ」


 それは困る。気分が悪いのに、口は塞がれたくない。


 結局、私は船に乗せられ、船室の一つに閉じ込められてしまった。

 ベッドに横になって、もう眠ってしまおうと思った。

 どうせ、逃げられないし、だったら何とかやり過ごすしかない。


 涙が頬を伝う。どうしてこんな事に?

 今日は、私達の一生に一度の結婚式だった筈なのに。


 エドワード様、助けて。早く来て。


「大丈夫か?」


 突然声を掛けられ、私は微睡みの中から意識を戻す。


「どうも具合が悪いようだ。船酔いなのか?」


 リチャード王子が心配そうな表情で、私を見つめていた。

 私はそんな彼を無視して、再び目を瞑った。


「無理矢理攫って、怒ってるのか?」


 そりゃ、怒るに決まってます。結婚式当日に攫うなんて、本当にどうかしてるし、絶対に許せない。


「国へ着いたら、どんな非難も罰も受けよう。だから、俺を受け入れてくれ」


「じゃあ、私を王宮へ帰してください」


「それだけは出来ない」


 それじゃあ、埒が明かないんじゃ?


「国へ着いたら、結婚式を挙げる。例えお前が拒否しても、だ」


「だから! 私にはもう心に決めた夫がいるんです。今日、結婚式だったのに、それを攫ってぶち壊して、酷いと思わないんですか? そんな人に妻になれと言われて、ハイと言う女がどこにいるんですか?」


 私は、リチャード王子に食ってかかった。

 なんて分からず屋なの? 人の話を聞いてないの?


「俺は一族皆の命を託されている。それを守る為ならば、どんな手も使うし、手を汚すことを厭わない。例えお前に嫌われても、お前を妻にする」


 ダメだわ、これは。平行線でしかない。


「エドワード様が黙ってないと思います。彼が本気になったら、あなたの国そのものを滅ぼしてしまうわ」


 本当に彼がキレたら、世界が滅びるかも。


「彼の事はどうするつもり? 彼は決して私を諦めませんよ?」


「結婚式さえ挙げれば、さすがに太陽の君ですら手は出せない。婚姻はいかなる理由があろうと絶対に解消出来ない。君の国でもそうだろう? ましてや彼は王子の身分。国の理を破るなんて絶対に出来ない立場だ」


 憎いこの世界の結婚のシステム。

 私が元いた世界より、ずっと結婚の意味が重い。

 簡単に離婚すら出来ないなんて。

 それだけ結婚に慎重にならなければならないのに。


「だったら、尚更、結婚相手はよく考えるべきでは? 私は確かにエルフの賢者ですが、他国人だし、人狼でもない。それに私の心はあなたにはない。あなたも私を好きだという訳でもないでしょう? もっと他に良い相手を探すべきです」


 彼は腕を組んで黙って私の話を聞いていたけど、やがて私の目を見てはっきり言った。


「確かにお前の言う通りだが、一つ違うところがある」


「何が違うの?」


「それは、俺がお前を一目で気に入ったという事だ。お前はとても好ましい匂いがする」


 なんか前もそれ、言われた事がある。アーサー様に。


「故に、お前を妻にするのに、俺にはなんの躊躇も迷いもない。むしろお前で良かったとすら思う」


 結局そうなるんだ。


「本当は、婚姻前に手を付けるのはタブーなのだが、この場合は致し方ない」


 リチャード王子の目が座ってる。

 これはまさかヤバイ展開では?


「お前の心を折る為にも、ここで俺のモノにしておこう。俺の匂いを付けたら、もう他の男は手出しは出来ない」


 そう言うなり、彼は私の腕を抑えて覆いかぶさって来た。


「イヤっ!」


 強引にキスされて、私は身動きが取れない。

 耳元に荒い息がかかり、彼が興奮しているのが分かる。


 このままでは犯される!!


 私は必死で抵抗したけど、力では絶対に敵わない。


「優しくする。一生大事にする。お願いだから、おとなしくしてくれ」


「やめて、お願いだからやめて!!」


 私は懇願する。乱暴されたら、お腹の中の赤ちゃんがどうなるか。

 私は血の気が引いた。子供は私が守らなくては。


「お願いやめて、お腹に子供がいるの!」


 告げる他なかった。彼がまともな人ならば、そう言えば絶対にやめてくれると思った。


 彼の動きが止まった。


「なんだと?」


「妊娠してるの。調子が悪いのはつわりのせい」


 婚前交渉はこの世界では一般的にタブーだけど、私達は婚約していたし、別に誰に咎められる訳じゃない。


「本当なのか? そう言えば俺が手を止めるとでも?」


「疑うなら、医者にでもなんでも診せればいいでしょう」


 私は彼の目を見つめて、毅然とした態度で言った。


「こんな事で嘘はつかない。他の男の子供を妊娠している女を妻にするの? そんな事普通はしないでしょ?」


「ふっ、ハハハハハっ!! そう来たか。だが、そんな事で俺が諦めるとでも? 俺の一族は、一族総出で子育てをする。誰の子供でも分け隔てなく、だ」


 彼は、さらに続けた。


「お前とエドワード王子の子なら、男女問わず綺麗な子供が生まれるだろう。うちの一族の伴侶に相応しい。俺が父親としてちゃんと面倒を見る。お前はその子を産んだ後で、俺の子を産んでくれればそれでいい」


 面倒見るからいいって、そういう問題じゃない!

 転んでもただで起きないな、この人。


「この子の父親はエドワード様だけです」


「そうだな。だが、俺の子も産んで貰うぞ。そして俺が王となり、いずれは俺とお前の子が、王を継ぐ。ハーフエルフの力も持ち得た最強の人狼だ」


「まさか、私と結婚したい理由はそれなの?」


「そうだ」


 強い子供が欲しいから。それは単純明快な理由だった。


いつもありがとうございます。


ただ今絶賛修正作業中ですが、現在のところ終わりがまだ見えません( ;∀;)

まだまだ話は続きます。


夜にも更新予定です。よろしくお願いします。

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