表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/58

第三十五話 奪還に向けて(エドワード視点)

 キースの兄が、キアラを攫ったなんて。


「第四王子の居所は分かるか? キース」


「いいえ、兄とは暫く付き合いが途絶えております。しかし、国境はここからまだほど遠く、まだ国内に姫はおられるかと思います」


 キースは顔を上げず、ずっとそのままだ。


「実は、キアラは妊娠している。普通の体ではない」


 ここでようやく顔を上げたキースは驚いた顔で僕を見つめた。


「姫が? そんな! ……兄上め、なんということを」


「お前を殺したってキアラは戻らない。お前はむしろ僕に協力するべきだ。例え、お前の実の兄を殺す事になったとしても」


 僕は冷たく言い放す。

 キースは蒼白な顔で、やや間を置きながらも、はっきり頷いて言った。


「この命に代えましても、必ず兄の手から姫を取り戻します」



 一度、王宮へ戻った僕達は人海戦術で、国中に捜索の手配を飛ばした。

 国境も封鎖し、相手が何者だろうと厳しい検問が課せられる事になった。


「キースには酷な事になったな」


 大師匠はキースに同情しているようだ。


「弁解の余地もございません」


 それにしても、まさかキースの実兄が攫うとは意外だった。


「お前の実家は? 兄はどういう人物だ?」


 キースの事情を知らない大師匠が問う。

 これには、彼は淡々と答えた。


「我が一族は、北方の小さな地域の少数部族です。今は祖父が族長をしています。母が王家に側室に入ったので、兄は第四王子、私は第六王子となります。父王には側室が何人もいるので、異母兄妹が何人もいます。後継者争いは、一応の王太子である長兄と、現正妃の息子である第二王子、そして私の兄の第四王子が目下の候補と言われています」


 キースは目を閉じて、ゆっくり思い出すようにして言葉を続けた。


「兄は、魔術は苦手ですが、戦士としては極めて優秀です。性格は、義勇任侠に厚く、公明正大な人柄です。一族の皆からも慕われています」


「そんな人物が、なぜキアラを攫う?」


「これは私の推論ですが、次期国王の最有力は、やはり正妃の息子である第二王子です。その正妃の一族は、我が一族と古くから対立関係にありまして。おそらく第二王子が即位となると、我ら一族は粛清の対象になるからかと」


 粛清されるだって!?

 他国ながら、酷い有様だな。


「我が国では、後継者に力を求めます。それは夫を支える妻の能力もしかり。現に父王は、正妃の実家の後押しで即位しました。今、世界中見回しても、おそれながら、姫ほど能力を有した者はおりません」


「それで、粛清を恐れたそなたの兄は、キアラを妻にすべく攫ったという訳か」


「──はい。そう思われます」


 キースは頭を下げた。

 僕は黙って話を聞いていたが、第二王子が即位となると、キースの一族が、要は処刑されてしまうと言う事だろう。


「お前はどうしたい? キース」


 僕は彼に問い掛ける。これは彼が決める問題だ。


「兄の後押しをするか?」


「おそれながら、出来ればそうしたいです」


 僕はもう、それ以上何も言えなかった。

 しかし、彼の兄を後継者とする為に、キアラを差し出す訳にはどうしてもいかない。


「キアラ以外で、何か手を考えろ。お前の兄を後継者とするべく、その頭をフル回転させるんだ」


 結婚式を延期させた理由としては、公に事実は伏せて、キアラが体調不良という事にしてある。


 つまりキアラは誘拐などされていないという事だ。

 これに関しては、キースは僕に感謝しまくりで、一生こちらに足を向けて寝れないだろうと思う。


 僕にとっても、キースは弟同然だ。

 年は一つしか違わないが、僕よりずっと落ち着いていて、賢く、かつ強くもある。

 真面目で忍耐強く、そして容姿も端麗で文句の付けようもない。


 同じ人の同胞より、人狼だがキースの方が余程信頼がおける。


 今回の事は決して許す訳にはいかないが、キースの言う人物像通りの兄ならば、とりあえずキアラに無体な真似はすまいと考える。


「とにかく、お前の兄が人狼国へ帰るのは間違いない。国境で先回りして抑えよう」


「はい」


「私は一度、里へ戻る。森が穢されてしまったから、浄化をせねばならぬ。すまんが、後は任せたぞ」


 大師匠には、エルフの里の長としての使命がある。

 それは仕方ない。


 大師匠を見送った僕達は、その足で国境の町まで転移した。

 僕は軍を直接指示し、蟻一匹通さない覚悟で厳戒態勢をしいた。

 篝火を焚いて、抜け道などからも国境を抜けられないように見張りを置いた。


 どんな手を使ってでも、彼女を取り戻す。

 僕の全力をここで出すしかない。


 父王は、僕の事情を知るなり、軍を指揮する全権を与えてくれた。それに関しては感謝しかない。


 彼はまだ僕が王太子になるべきだと言ってくるけども。普通の人間と、生きる時間すら違う僕には到底無理な話だ。


 しかも、僕はもう半神とも言えなくなってしまった。

 魔王の力を使えば、世界を見通す事すら出来る。

 だが、魔王と同化したとはいえ、その力はやはり危険なもの。むやみやたらと使うものではない。


「殿下、国境を抜けようとする一行を捕えました」


「何!?」


 突然そう報告を受けて、僕は胸が高鳴った。

 とうとうキアラを見つけたのか?


「すぐ行く」


 僕はキースを伴って、捕えた一行の元へ急ぐ。


 兵に囲まれて、丸くなって座らされてる一行の中に、白いドレスの姿が。顔はヴェールで覆っていてここからでは見えない。


 攫われた際に見た彼女が着ていたドレスだ。


「キアラなのか?」


 声を掛けても返答はない。

 のろのろと立ち上がって、彼女は僕の方を向いた。


 僕はヴェールに手を掛ける。

 ゆっくり、それを上げて顔を見た。


「!!」


 篝火に照らし出された横顔は、キアラとは似ても似つかない。人狼の娘だった。


「ネリー!!」


 キースが娘の名前を呼ぶ。顔見知りか?


「お前が、何故ここに?」


 娘もキースに気付いたようだった。

 しかし、彼と目を合わせようともしない。


「姫はどこだ? 知っているんだろう?」


「裏切り者に話すことなど何にもないわ」


 裏切り者、キースのことか?


「ネリー、教えてくれ。姫はこの方にとって、大事な方なんだ」


 ネリーと呼ばれた娘は、僕を一瞥した。


「太陽の君、綺麗な王子様。あなたのお姫様なら、もうこの国にはいないわよ」


「どういうことだ?」


「船に乗って、南の国を経由するのよ。だからこの国の国境は通らないのよ」


 何だって!?


 絶句する僕に、ネリーという娘はペラペラ喋った。


「もう今頃は船上かしらね。リチャード様は、お姫様がすっかりお気に入りみたいよ。片時もそばから離さないし、今頃二人はどうなってるのかしらね」


 迂闊だ。僕は最大の失態を犯した。

 てっきり国境を目指すと思った僕が本当に馬鹿だった。


 まさか海路を取るとは。


「キース、この娘の言っていることは本当だろうか?」


 キースは少し間を置いて答えた。


「ネリーは嘘はつきません。幼い頃からよく知っています」


 娘はずっとキースと視線を合わせないように、そっぽを向いている。


「ついでに教えてあげるわ、王子様。リチャード様は、帰国したらすぐに結婚式を挙げるらしいわよ」


 僕は眩暈がした。それは何としても止めなければならない。


 我が国では、離婚は認められていない。一度婚姻を結べば、どんな理由があろうと、生涯相手と添い遂げねばならないのだ。


「一応聞いておくが、人狼国で離婚は許されるのか?」


 キースは即答した。


「いいえ」


 ならば、何としても止めねばならない。

 僕は軍に指示を出し、もう意味のなくなった警戒を解かせた。

 そして、捕まえた一行を牢に入れるように命じると、そのままキースを連れて人狼国へ転移した。


 飛んだ先は、首都青狼の魔術師ギルドだ。

 先日、オリガ校長より魔術師ギルドマスターの地位を正式に引き継いだ。

 もう、支部長という身分ではない。


 ギルド内に入るなり、受付のカレン嬢が僕の姿を見るなり、


「ウォルター元支部長? 突然どうなされたのです?」


 そう言えば、僕はここで本名を言ってなかったな。

 僕は一連の事件の後、ここの支部長の座を退任していた。


「今日は元支部長としてではなく、ギルドマスターとして来た。支部長をとりあえず呼んでくれ」


「わ、分かりました!」


 カレン嬢は慌てて支部長を呼びに行った。


「人狼国で、使える伝手は僕にはここしかないんだ」


 しばらくして、現支部長に再任されたアビゲイル・ローウェルが姿を現した。銀髪の人狼の女性だ。


「やあ、アビゲイル。久しぶりだね」


「ウォルター支部長、いえ、マスターエドワード様」


 彼女は膝をついて礼を取った。


「今日は、君の手を借りに来た。今すぐ、転移魔法の習得に立ち会ってもらいたい」


「転移魔法の? どなたのです?」


 僕は、背後に立つキースに視線を投げた。


「彼はトリプルだ。転移魔法は最高位の術だが、光と闇を両方持つ彼なら、可能だろう」


「!!」


「エドワード様!? 私が転移魔法を?」


「僕は、人狼国の地理に疎い。港町など行ったこともないし、よって転移魔法も使えない。キースなら行ったことがある筈だ。だから君に転移魔法を習得してもらう」


「そうしないと、間に合わない」


 僕は、直ちに地下へ彼を連れて行き、魔法陣の中に立たせた。


 高位の術は習得するのに、時間がかかる。

 魔法陣の中に立つ事によって、本人が持つ属性とそこらに存在していると言われる精霊とを結びつけやすくして、術の習得を早めることが可能なのだ。


 それでも高位魔法の習得には、熟練度が必要だ。

 その熟練度の代わりに、荒業だが、僕の魔力を流し込む。


 ただ、受け入れる側のキースがそれに耐えなければならない。


 アビゲイルにキースのことを見ていてもらい、僕は魔力を流し込む。


 やっぱり思った通りで、キースのキャパシティは半端じゃなかった。人狼でこれは規格外、いや例え人でもそうだ。


「これで、充分流し込んだ。転移魔法は習得出来たか? 」


「おそらくは」


 僕は早速この地下から、一階のフロアへ転移魔法で移動するように彼に指示を出す。


「では、行きます」


 それは瞬時になされた。いとも簡単に。


「エドワード様の魔力を込めたとはいえ、賢者でもない術者が転移魔法を習得するとは! 一体何者なんですか?」


 アビゲイルはキースの正体が気になるようだ。


「彼は、この国の第六王子だよ」


「!!」


「これは失礼しました、殿下!」


 彼女は膝をついて、キースに礼を取る。


「敬称は必要ありません。私は、既に他国で仕える身。王子の身分は捨てました」

 

 それにしても、キースは何故ここまで自分を卑下するのだろう? この国の王すら目指せる逸材なのに。


 僕達は、アビゲイルに別れを告げ、キースの転移魔法でキアラ達が入国するであろう港町へ移動した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ