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第三十三話 攫われる花嫁

 とうとう結婚式を明日に控え、私の準備は万端──とは言えなかった。

 体調はあまり良くはなかったけど、里の皆やルシア様の配慮で、なんとか準備は整った。


 私は一日の大半を寝て過ごしていた。明日が本番だというのに、起き上がるのも辛くて、今も横になったままだ。

 まあ、ルシア様が寝てろとうるさいのだけど。


「盛大に送り出してやるとは言ったが、そなたの体調を考えると、王都までのんびり輿に乗せる訳にもいかぬな」


「やはり、転移魔法で送るべきでは?」


 シエルさんが心配そうに私を見て言った。


「エドワードが王太子を辞退したとはいえ、それに準じる身分だ。国民も、エルフ族との結婚にたいそう湧いていると聞く」


 王都にある大聖堂で行われる結婚式は、一般の国民は見る事は出来ない。

 一般的には、式の後のお披露目で、見る事が叶う程度だ。

 娯楽が少ないので、王族の豪華な結婚式は国民の楽しみの一つでもある。

 しかも今回の主役は、国民の人気も高い太陽の君だ。その花嫁がエルフの賢者とくれば、注目の的だった。


「仕方ない。里を出た所で、転移魔法で王都へ送ろう。移送中に何かあってからではまずいしな」


 里は結界がある為、転移魔法は一旦森に出てからになる。


「今日はもう休め。明日は早い」




 翌朝、何とか落ち着いた体調の私は、里の皆が用意してくれた純白のドレスに着替える。

 アンティーク風のエンパイアラインなドレスだ。

 まだお腹は目立たないけど、締め付けるのがまずいというので、こういうデザインに。

 本当はこの世界の結婚式のドレスは特に白と決まっている訳ではないけれど、私が白を何せ譲らなかった。

 やっぱり花嫁衣装は白でないと。

 一見シンプルだが、里で作った特殊なシルクを使い、太陽の光を受けると、光輝く。

 刺繍も細かく繊細で、レースが本当に綺麗だ。

 髪はサイドをハーフアップにし、編み込んで後ろを細めのリボンで留める。後ろ髪はそのままのエルフらしい髪型だ。


 里の皆に簡単に挨拶をして回り、私とルシア様とシエルさんはとうとう里の結界の外へ向かう。


 二人は私の親族として、式に出席するのだ。

 あとは、育てのお母さんとお婆ちゃんが既に王都で待っている。


「体調は平気か? あんまり辛かったら早く言うのだぞ?」


「大丈夫です」


 今日はさすがにしんどいとは言ってられない。私達の晴れの舞台なのだから。


 結界を抜けて森に出る。


「!?」


 何か強烈に感じる不穏な空気。


「ルシア様」


「しっ、何者かが潜んでおる」


 途端、木の陰から黒ずくめの者達が現れて、あっという間に私達を取り囲んだ。


「何者だ?」


 誰何する声に返事はなく、代わりに投げられたのは煙幕。

 あっという間に辺りに広がり、なんとも言えない匂いが立ち込める。


「この煙を吸うな!!」


 ルシア様の厳しい声が上がる。

 分かってはいたが、呼吸を止めるにも限界が。

 これはまさか催眠ガス?


 目眩と頭痛で気が遠くなる。

 そしていとも簡単に、私は意識を失った。




 何やら人の話す声で、私は意識を取り戻した。

 何か目隠しをされているようで、前は何も見えない。

 地面がガタゴト揺れている。これは馬車か何かに乗せられている?


 声は出せそうだが、ここで大声を出したところで助けは求められないだろう。


「お姫様を攫って来いだなんて、無茶な依頼だな」


 低い男の声だ。聞き覚えはない。


「それだけ切羽詰まってるんだろう? それにしても、綺麗な娘だな」


「手を出すなよ、決して傷を付けるなというお達しだ」


 覆面をしていたので、男達の正体は分からない。私はどうやら何者かに攫われたようだ。


  ルシア様やシエルさんは無事だろうか?


 私を攫うだなんて、なんて大胆な事を。

 よりにもよって結婚式当日に。こいつらも依頼人も死にたいのだろうか?


 エドワード様が知ったら、きっとタダでは済まないだろう。


 しかも私はもう一人の体ではないのだ。


 一体この馬車はどこへ向かっているのか?


 私は意識を集中した。転移魔法さえ使えば、ここを抜け出す事は容易だ。


 しかし、どんなにやっても魔法が発動しない。

 ──なぜ!?


 両手は後ろで縄が何かで縛られている。

 私は理由を考えたが、何か首に違和感がある。何かが巻かれているような?

 そのせいで、私は魔法が使えないようだ。


 目隠しもされているし、男達の気配も一人や二人ではない。反撃は難しそうだ。

 手を出されて、お腹の子に何かあったらと思うと怖くて。


 馬車はそのまま日が暮れるまで走り続け、どこかの町で私はようやく馬車を降ろされた。


「こっちだ」


 さすがに意識を取り戻した私に気付いた男達は、私に舌を噛むなと釘を刺し、猿轡を噛ませた。

 声も出せなくなった私を、乱暴に馬車から降ろし、担ぎ上げてどこかに連れて行く。


 どこかの屋敷だろうか?


「依頼通り、エルフの姫を連れてきた。報酬を頂こう」


「こちらへ」


 どこかの部屋へ連れ込まれ、私はベッドの上に降ろされた。

 男達の気配が遠のき、私は警戒して身を固くする。


「エルフの姫よ」


 突然かけられた声。低いがよく響く美声だ。


「こんな強引な手段を取った事を、ここで詫びよう」


 いや、ここで謝られても。取り返しのつかない事を。


「拘束は解こう。だが、魔法は自由に使えぬ筈。決して逃げたり、己の身が傷付く事はせぬように」


 釘を刺され、男は私の目隠しを外した。


 まっすぐ見つめるのは、長い黒髪に銀髪がメッシュに入った琥珀色の双眸の整った顔立ち。かなりの美形だ。

 しかも何となく誰かに似ている。


「私は、人狼国第四王子、リチャード・レイ・ローウェル」


 人狼国第四王子? という事はキースさんのお兄さん?

 二人が兄弟なのは納得だ。でもキースさんが落ち着いたクールな雰囲気に対して、お兄さんは情熱的なワイルドな感じだ。


「エルフの姫よ、どうか俺の妻になって欲しい」


「!!」


 な、何ですって!?

 私は首を横に目一杯振って、拒否の姿勢を示す。


「こんな風に攫ってきてしまって、本当に非礼は詫びる。だが、どうか訳を聞いて欲しい」


 彼は膝をついて、私の手の甲に口付けた。

 到底許せないけど、態度は紳士だ。しかもキースさんのお兄さんと聞いたら、邪険には出来ない。


「我が国では、今、後継者争いが激化している」


「俺の母は、地方のある小さな部族の族長の娘、側室として王家に入って、二人息子を産んだが、そのうちの一人が俺だ。現国王には十人もの息子がいるが、そのうち後継者として目下有力視されているのが、現正妃の息子でもある第二王子だ。それが問題で」


 彼はちょっと言葉を選ぶように、ゆっくり続けた。


「正妃は、我が一族と、長い事敵対してきた一族出身だ。過去には血で血を洗う争いもあったと聞く。正妃も怖い人物だが、その父親は野心家だ。孫である第二王子を次期国王に据えて、敵対勢力を一気に粛清しようとする動きがある」


 どこの国も、やっぱり後継者争いってあるんだな。

 エドワード様は、あっさり逃げようとしてるけど。

 私は、おとなしく話を最後まで聞くことにした。


「我が国の後継者、次期国王になるには、己の持つ力を最大限に示さねばならない。俺は努力を続け、北の蛮族を退けて見せたが、それだけでは足りない」


 彼は私をじっと見つめて言った。


「国王に足る相応しい伴侶が必要だ。そんな時、貴国のエドワード王子が賢者の娘を婚約者に選んだと聞いた」


「妻が賢者というのは、これ以上ないくらいの力を示せる。しかも、エルフは我が国建国にも力を貸し、信奉されている。もうこれしか手がないと思った」


 それで結婚前ギリギリで、攫ったのね。


「俺が王位争いで負ければ、我が一族は滅ぼされてしまうだろう。後生だ、どうか俺の妻に」


 彼の瞳はなんとも言えない悲哀で溢れていた。

 必死に訴えるその姿は、傍目に見ても美しい。

 一族を守ろうとするその意思は、痛いほど分かる。


 彼は一気に話を続けて、私が返事も出来ないことにようやく気付いたようだった。

 私の猿轡を外してくれたので、開口一番私は叫んだ。


「ごめんなさい! それは無理です!!」


 同情は出来るけど、私の心は一つだった。


「もちろんすぐ受け入れて貰えるとは思っていない。人助けだと思って、少しは考えてくれないか?」


 これは卑怯だ。人の命を盾に取るなんて。


「本当にごめんなさい。私はエドワード様を愛しています。彼以外との結婚などあり得ません」


「そもそも知り合って間もないのでは? 婚約してから三カ月程だと聞いたが」


「時間は関係ありません。それに──」


 私は首を振った。

 妊娠していることは黙っていよう。

 どんな目に遭うかわからない以上は。

 いくらキースさんのお兄さんでも、私を攫ったくらいだ。

 やって良い事と悪い事がある。


「お願いです、エドワード様と弟さんは、とても仲が良いです。このままだと二人の仲に亀裂が入りかねない。弟さんの為にも、私を王宮へ返して下さい」


 私の言葉にリチャード王子は眉根を寄せた。


「……弟、あの裏切り者の事か?」


 裏切り者?


「あいつは能力がありながら一族を見捨て、国を捨てた裏切り者だ。あいつが本気になれば、王になる事など容易い筈なのに。俺が今こんなに苦労しているのは、あいつのせいだ」


 ええ!? 何だか兄弟でも複雑なんだな。

 でもキースさんがお兄さんから裏切り者と思われてるなんて。


「あいつ、キースは我が国始まって以来の天才だ。賢者に次ぐ術者と言ってもいい。魔法があまり得意でない人狼族の中で、あいつは異端中の異端だ。そんな力を持ちながら、あっさり国を捨てたんだ」


「でも、アーサー様の護衛にと、国王が命じたそうですが?」


「叔母が気の毒な亡くなり方をしたからな。亜人の差別のある国へ嫁になど行くから。それでも、別に王子であるあいつ自ら行く事はなかった。他にも適任はいた筈だ」


 リチャード王子の憤り方を見ると、二人には深い確執があるのだと知れた。

 キースさんは、自らを庶子だと言い、気遣いは無用と言うくらいだ。王子の身分にこだわりがないのが分かった。


 でもお兄さんは、私を攫ってまで王位争いに参加すると言う。この温度差は何だろう?


「私を妻にしなくても、他に手はあるのでは? キースさんが王に相応しいなら、本人を説得するとか」


 リチャード王子は面白くなさそうに話を聞いている。


「そもそもキースさんは知っているのですか? あなたが王位争いで負ければ、一族が粛清されると」


「さあな、知ってるんじゃないか? なんせ天才キース様だからな」


 トゲのある言い方!

 とにかく私が出来る事は、リチャード王子とキースさん二人を会わせて話をさせる事だ。


「会いませんか? キースさんと。ちゃんと会うべきです」


「今さらか? あんな負け犬に戻って来られても迷惑なだけだ。お前は黙って俺の妻となり、俺の子を産んでくれればそれでいい」


 ええー!?

 なんか話が強引になってきた。どうやら私は彼の機嫌を損ねてしまったようだ。

いつもありがとうございます。

書き溜めた物を修正しながら上げてます。

一方通行で、ドツボにはまってる気がしてます。


何かご意見ご感想があれば是非よろしくお願いします。


明日も二回更新予定です。

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