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第三十二話 新しい命

 私は里のパンがあまりにもマズイので、進んでパン作りを手伝うようになった。伊達にパン屋さんの養い子で育ってない。


 そして結婚式があと一月後に迫り、今日も日課になった朝のパン作りをルシア様と一緒に始めようとした時だった。


「うっ」


「どうした、キアラ?」

 

 突然、気分が悪くなった私に、ルシア様が回復魔法をかけてくれる。しかし、気分は良くはならない。


「顔色が良くない。回復魔法が効いてないのか?」


 私は吐き気を我慢出来ず、お手洗いへ走った。

 戻ってきた私を、心配そうに見つめるルシア様。


「変なものでも食べたのか? 里の者は皆、同じものを食べてる筈なんだがな」


「いいえ、ルシア様。そうではありません」


 思い当たることは一つだった。


「そなた、まさか?」


「はい、そうだと思います」


 ルシア様の顔がみるみる綻んだ。


「そうか!! 子供が出来たのだな!!」


 デキ婚、まさかこんな風に達成してしまうとは。

 先に結婚が決まってて良かった。


「エドワードが知ったら、どんな顔をするんだろうな」


 私は興奮気味のルシア様にしっかり釘を刺す。

 月のものは確かに遅れているが、まだ完全にそうと決まった訳ではない。


「まだ内緒にしておいて下さい。はっきりしませんので」


「何だか私も孫が出来たみたいで、嬉しいぞ!!」


 ルシア様がおばあちゃんと言う割には可愛すぎる。


「もう今日は休め。パンは私一人で大丈夫だから」


 それから私は思ってもみない苦しみに、何日もひたすら耐える事になる。

 眠っている時間以外は、常に気分が悪くて仕方がない。

 普段は平気な匂いが、てんでダメになる。

 パンの焼ける匂いが大好きなのに、匂いを嗅いだだけで、吐きそうになる。


 かと思いきや、妙に食べたいものが出来たりして、ひたすらそれを食べたりする。


 つわりがこんなに辛いなんて。

 まさか、産むまで続くのだろうか?


 里の皆も心配してくれているのだが、私が気を使ってゆっくり休めないからダメだと言って、ルシア様が見舞いも禁止した。


 エドワード様は、国王の帰還による仕事の引き継ぎやらで多忙の為、最近はほとんど会えずにいる。

 王位を継ぐ意思のない事は、既に父君に伝えたそうだ。


 妊娠した事も、実はまだ言えずにいた。


 そんな事を言ったら、仕事そっちのけで飛んで来てしまうのが目に見えたからだ。


 彼は、王子としての仕事は今後セーブし、賢者として正式に魔術師ギルドマスターに就任する事が決まった。

 王太子はアーサー様に、との事だけど、急に押し付けられる格好になったアーサー様は、今必死でキースさんの個人授業を受けているらしい。


 焦って勉強させられる彼が目に浮かぶようだ。


「つわりはそのうちおさまる。気を楽にするしかない」


 エルフの里の皆は、正直のところ皆老齢で、純粋にこの里では子供はもう何年も生まれていない。私で最後なのだ。

 元々寿命がない彼らにとって、子供を残すという意味は非常に薄い。しかも子供自体、非常に出来にくいらしい。


「そなた達の場合は、お互いに惹き合う定めだったようだし、こうもあっさり子供が出来たのも、何か理由があるのかもしれぬな」


「あんまり言わないで下さい!」


 私達の子は、初代国王の生まれ変わりと予言されていた。その事が、私の心に影を落とす。


 しかし、霊山の瘴気が既にアレク様の手によって祓われた今、初代国王の復活は、もう必要ないのではないかと思うのだ。


 その事をルシア様に話すと、


「私は予言の力は持ってない故、詳しくは言えないが、アレクに降ろした天使が、かつて魔王を倒した者。初代国王に降りた天使は、その者とはまた別の者だ。おそらく予言は、初代国王自身が復活するのではなくて、その時の天使が降りてくるのではないか?」


 天使がこの世に降りてくる理由。うーん。


 まだ何か、この世の平和を脅かすような事が起きるのだろうか?


 この私の懸念は、思いもよらない形で、私自身も巻き込んで、後に明らかになるのだった。

いつもありがとうございます、


これからお話が急展開します。もう少し続きますが、もうだいぶかな? よろしくお願いします。


夜も更新予定です。

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