第三十一話 帰還
エルフの里へ無事帰還した私達を、ルシア様自ら出迎えてくれた。
「よく戻った!」
「ただいま帰りました」
私達は事の顛末を説明した。
ルシア様は仰天した様子で、何度も信じられないと首を振っていた。
「前代未聞だ。その、暴走とかは平気なのだろうな?」
「僕の持つ闇の部分と完全に同化しました。もちろん、力も使えますよ。何の弊害もなく」
エドワード様によると、やっぱり精神を乗っ取られた後も、ずっと見えていたし、聞こえていて、同時に魔王の深い哀しみや、絶望、そしてわずかな希望すら感じたらしい。還る場所を失っていた彼が欲しかった言葉は、たった一つだったと。
「殺すのでもなく、封印するでもなく、受け容れるか。恐れ入ったな」
「私では、殺すか封印するしか頭にありませんでした。かつて、魔王を斃した時もそうでしたし」
アレク様は感慨深けに話した。
「キアラがいなかったら、僕は殺されてたんだ。酷いなあ」
わざとおどけてみせるエドワード様。
そして辺りを見回して、一人足りない事に気付いたようた。
「そういえば、お師匠様はどこです?」
「ああ、先に様子を見に行っただろう? どうも国王に捕まって、事後処理を手伝わされているらしい。瘴気は消えたが、その影響で現れた魔物は残ってしまっているからな。でも、魔物が無尽蔵に湧くことはもうないから、安心して良いだろう」
ルシア様の言葉に、エドワード様もホッとしたようだ。
実の父親でないにしろ、国王様とエドワード様には絆のようなものが感じられたから。
「父上が戻ってこれば、仕事の大半が放棄出来るな」
結局それかい!!
「エドワード様って、本当は真面目キャラじゃなかったんですね、だいぶがっかりです」
「面倒な事は、基本アレクに押し付けてたからね。でも、アレクに逃げられて、仕方なくやってたんだ。一番何もしてないアーサーに、今後は押し付けてやる」
「こらこら、アーサーがかわいそうだ」
アレク様が釘を刺した。
ルシア様は、やれやれと呆れ顔だ。
「やはり、王位は継がないのか?」
エドワード様は、少し哀しげな表情を浮かべた。
「元よりその気はありませんよ。半神の時点で、普通の人生は送れません。そこで、国王をやるなんて狂気の沙汰としか思えません。アレクがやれたら一番良かったのに」
けれどそれももう、無理な相談だった。
「で、そなたらは今後どうするのだ?」
エドワード様は、私の顔を見て答えた。
「もちろん予定通り結婚はします」
「それなら、私からの提案なのだが、キアラはここから嫁に出す、という形にしてはどうだ?」
ここ、エルフの里から?
確かにここは私の故郷。ルシア様もシエルさんもいる。
「盛大に送り出してやるぞ? 我が一族も、長いこと篭っていたので色々飽きていてな。我らの一族での結婚もしばらくぶりだ。キアラの父以来か」
私の両親も、ここで結婚して生活してたのか。
平和な所だもんな。
「ここから、嫁に行くか?」
「はい!」
エドワード様は、しばらく私と離れた生活になるので、ちょっと面白くなさそうだったけど、ルシア様に押し切られていた。
こうして、結婚式までの残りわずかな時間を、私は生まれ故郷で過ごすことなった。
ルシア様とシエルさん以外の仲間とも、何とか打ち解ける事が出来て、嫁入りの準備も手伝ってくれている。
アレク様も、エドワード様から受けた傷が完全に回復するまで、ここで療養していた。
エドワード様は、仕事の引き継ぎだとかで多忙にしていたけど、たまに顔を見せ、アレク様とよく談笑していた。
彼が大事な話があると言い出したのは、結婚式を一ヶ月後に控えたある日だった。
「今日はお別れを言おうと思って。もうそろそろ天に還らないといけない」
「えっ?」
私はルシア様の言葉を思い出す。
──天に還らねばならない。
こんなに早く?
「そんなに急がなくても。式が終わってからでもいいんじゃ?」
エドワード様の言葉に、
「名残惜しくなるからね」
アレク様はちょっと寂しそうに笑った。
これで、本当にお別れなの? やっと再会出来たのに。
私の初恋の王子様はこの人だったのに。
「あ、そういえば!」
私はどうしても、アレク様本人に聞いておきたかった事があった。
「アレク様は、どうしてあんなにボロボロで、うちの前にいたんですか?」
二人とも、突然そんな話を振った私に目を丸くする。
「あぁ」
アレク様は、ちょっと笑いながら、
「あれは師匠に、あの町近くのダンジョンに、たった一人で放り込まれて、一ヶ月彷徨った後の事なんだ」
エドワード様は既に笑いを堪えている。
「私は魔法が使えないから、そりゃあ、きつかった。ようやく脱出して町に辿り着いたら、君の家の前だったって訳」
「よくやらされた! 師匠はよく僕達を、ダンジョンや遺跡、無人島、冬山、さまざまな場所に放り出すんだ。ろくな装備も持たさずに」
エドワード様は、アレク様を囃し立てるように話し始めたけど、後半でなぜかトーンダウンした。
「嫌なこと思い出した」
真っ青になって俯いた。一体何があったんだ?
「人が悪い事を言うからだよ」
「エドワードはもう少し、落ち着きを持つように。どうせキアラにもいつも悪ふざけをしてるんだろう?」
エドワード様がアレク様に説教されてる!!
「楽しいからいいじゃないか?」
「楽しくないです!」
「キアラ」
アレク様は、私の方を向いて優しく言う。
「約束を守れなくて、本当にごめん。でも、いい代役が来ただろう?」
「誰が代役だ!!」
エドワード様は不満げだ。
「君達が上手くいってたみたいで良かった。ずっとキアラの事は気掛かりだったから」
「奪る気マンマンだったろ?」
これにはアレク様も声を立てて笑う。
「そうではなくて、元々私が目を付けてたんだ」
「十も年下のガキを?」
「可愛い子だったからね」
エドワード様は、私を引き寄せた。
「もう僕のだから」
「分かってるって」
三人での和やかな会話がしばらく続く。
「そうだ、忘れてた。これを渡しておこう。ルシア様に返しておいてくれ」
アレク様はそう言って、エドワード様に何か渡した。
「光の結晶石と闇の結晶石か」
二つの石は輝きを失い、今は何の力も感じない。
「もう闇は使う事もないだろうが、光の方は世界樹の元へ戻せばまた、魔力がそのうち貯まるだろう?」
そうすれば、また召喚出来る?
「何かあったら、それを使って喚んでくれ」
「貯まるまで何年かかるんだか」
アレク様はちょっと笑った。
「どうせ君らに時間なんか関係ないだろ?」
そう、私達の時間は無限にあるのだ。
そのうちまた会える機会が、きっとある。
「必ず、幸せにしてやってくれ」
「言われなくてもそうする」
アレク様、行ってしまうの?
「アレク様」
彼は、私の手を引き寄せてそのまま額にキスをした。
「さよならだ」
「師匠達にも、くれぐれもよろしく伝えてくれ」
「会わなくていいのか?」
「実はさっき挨拶は済ませたんだ。なぜかルシア様に泣かれてしまって。見送りはしないと言われた」
ルシア様、やっぱり可愛い。
「それじゃあ、また」
アレク様はそんな私達の顔を、もう一度よく見から、大きく宙に羽ばたくと、一気に眩しい光の柱が現れて、一瞬で消え去った。
私達は柱が消えた先を、ぼーっと眺めながら、
「天に昇る柱か」
「天てどんな所なんでしょうね」
「今度会ったら、聞けばいい」
見上げる空はどこまでも青い。
私達は二人並んで、しばらくずっと空を眺めていた。
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お話は佳境ですが、もう少しだけ続きます。
明日も頑張って更新します。




