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第二話 王宮へ行く

 私達は、日が沈みかけた頃に王都へ到着した。

 王宮へ来た事などもちろんなく、城門をくぐって敷地内に入り、私は言葉失う。

 広いってものじゃない。庭園には花々が咲き乱れ、広い池もあり、噴水がいくつもあって、東屋なんかもある。

 西洋のお城と言うと、あの尖塔があるお城を想像するが、 ここは決してそうではなく、広大な敷地にいくつも宮殿がある感じだ。昔の中国とかに近いのだろうか?

 エドワード様の住まいは、王宮の東側に位置し、太陽宮と呼ばれる宮殿だった。私はここに滞在することなった。


「着いたばかりで悪いのだけど、母上に君を会わせたい」


「はい」


「とりあえず、部屋に行って着替えてくるといい」


 私は充てがわれた部屋に通され、荷物を運んでもらい、用意された衣装に着替える。

 淡い翠色のドレスだ。髪も綺麗に結って、化粧も施された。

 鏡に映る自分はまるきりの別人だ。

 ここまで化けるとは!化粧て凄い。


「お綺麗です。お嬢様!」


 メイドさんがお世辞なのか褒めてくれるので、気分は良い。



 エントランスで、エドワード様が待っていた。


「やあ、綺麗になったね」


 エドワード様は柔らかに微笑む。

 太陽の君とはよく言ったものだ。眩しすぎる!


「ありがとうございます」


 あんまり目を合わせないようにしなきゃ、うん。


「じゃあ、母上の所へ行こう」


「はい」


 手を差し伸べられたので、そっと遠慮がちに握ると、彼は片手で指をパチンと鳴らす。

 瞬間、空間がグニャリと歪み、軽い目眩がするようで、足元が揺らぐ。


「大丈夫?」


 引き寄せられて、体を支えられた。


「ごめん、転移初めてだったね」


 彼は耳元で囁く。エドワード様の息が耳にかかった。

 や、ヤバイ!! 超いい匂いがする!!


「着いたよ」


 見回すと辺りはすっかり様変わり、ここがどこかの温室だと知れた。暖かい空気に何だか甘い匂いがする。


「母上、ただ今戻りました」


 温室の奥で、水を撒いている夫人が一人。


「遅かったな」


 振り返った女性は、豪華なレースの襟の付いたマーメイドラインの真っ青なドレスに身を包んでいた。

 金髪をきっちり結い上げた青い瞳の超美人。

 顔立ちはエドワード様に似ているけれど、きつい顔立ちのせいか、冷たい印象を与える。


「その娘は?」


 私は慌てて頭を下げる。


「視察先で見つけました」


「まさか、その娘が?」


「はい」


 王妃様は私を値踏みするように見て、驚いて声を上げた。


「エルフとは珍しい! 容姿も申し分ない」


 そして喜びで肩を震わせながら、声を上げて高らかに笑う。


「でかした! エドワード! 素晴らしいぞ!!」


 王妃様は私の髪を一筋掬いながら、


「エルフの娘、そなたはエドワードと結婚するのだ」


「!!」


 と、突然何と!? 結婚? 王子様と?


「母上、ちゃんと説明をしないと彼女が困っています」


 王妃様は面倒くさそうに、エドワード様を一瞥した。


「後はお前に任せる。早々に結婚式の日取りを決めておけ」


 そう言って王妃様は温室を出て行ってしまった。

 二人取り残される私達。

 王子様といきなり結婚なんて、どうしよう?


「突然こんな事になって、ごめん」


 エドワード様は、心なしか顔色が悪い。


「あの、いきなり結婚てどういう事ですか?」


「君が困惑するのも分かる。ただ、僕達は君をずっと探していたんだ」


 探していた?  私を?


「全ての精霊の祝福を受けた者を、この世界では賢者と呼ぶ。知ってたかい? 賢者って生まれながらに人であって人でないんだ」


「!?」


 彼は言葉を続ける。


「正確には半神と呼ぶ。君も同じだ」


「半神?」


「この世に生まれる前に、何らかの形で精霊王から祝福を受けると半神が生まれる。僕は母上の手によって、精霊王から祝福を受けた子供だ」


「半神は不老不死だ。君は元々エルフだけどね」


 ちょっと笑うエドワード様は、人差し指で宙に円を描く。

 描かれた円の中に、みるみる何か画像が映し出された。

 文字が書かれた石板が見える。古代文字なので私には読めない。


「これは我が国の初代国王が、この地を去る時に残した予言だ。二人の半神揃う時、再びこの地に我は舞い戻る、と書いてある」


「どういう事なんですか?」


 エドワード様は、私を手招きし、私をガーデンテラスへ誘導しながら言った。


「初代国王は、その圧倒的な力で地方の一都市でしかなかったこの国を、みるみる大国にまで成し遂げた傑物だ。ただ、彼には一つだけ欠点があった」


「欠点?」


「魔法が全く使えなかったんだ」


 魔法が使えない? どんな人でも魔力はある筈なのに?

 魔力=精神力とも言える。魔術師でもない一般人でも、マッチに火を付けたり、小さな風を起こすことくらいは誰でも出来るのに?


「精霊の加護が全くなかったんだろう。理由は分からない。だが、それゆえに彼には他の人間が出来ない事が成せた」


「どういう事ですか?」


「彼はその身に精霊神を降臨させたんだ。器として己の肉体を犠牲にした。精霊神と同化した彼は、千年にも及ぶこの国の、強固な礎を築いた」


 精霊神を降臨させた!?


「そして長い長い統治の後、やがてこの地を去った。ただ、彼は己の再臨を予言して残した。二人の半神を揃える事を条件に」


 つまり二人の半神の間の子に生まれ変わるという事なのだ。


「初代国王の復活は、我ら子孫に長年課せられた責務なんだ」


 私はそう言われても、困惑するしかない。

 予言とか復活とか何か別世界の話過ぎて。


「どうしても、初代国王を復活させないといけないのですか?」


 怒られそうなのを承知で、私はエドワード様に問う。


「今、この国には徐々に危険が迫っているんだ」


 それは初耳だった。この国は周辺国とも友好的で、大体的な戦はもう数十年と起こってはいない。


「国民には伏せているが、北東の霊峰ユナハ山に不穏な瘴気が発生し、年々それが酷くなってきている」


 ユナハ山は、霊山として有名な山だ。ただ、ここ数年は立ち入りを禁止されていた。


「瘴気からは、闇の魔物が湧く。今は地元の軍と、冒険者達でなんとか抑えている状態だ」


「そんな事になってるなんて」


 エドワード様の表情は険しい。


「実は父上も、数日前から自ら軍を率いて応援に行っている。父上は優秀な光の術者だからね」


 闇の魔物には光の魔法が効く。ただ、光の術者は決して多くはなく、とても希少な存在なのだ。


「瘴気はいずれ、この国全体を覆うようになる。数年か、数十年か、そこまではまだわからないけれど」


「初代国王なら何とか出来るんですか?」


 エドワード様は首を横に振る。


「正直わからない。初代国王を過大評価しているのかも。ただ彼が一縷の希望であるのは間違いないんだ」


「エドワード様は、何とか出来ないのですか?」


 賢者一人でも一万の兵よりも戦力は上だ。その気になれば国一つ滅ぼすことだって可能だろう。


「既に試した。僕達は神に近い存在だから、人よりも瘴気に蝕まれやすい。正気を保てなくなるんだ」


「!!」


 顔色を変える私に、エドワード様は優しく微笑んだ。


「差し迫って、今すぐどうこうという訳じゃないから安心して欲しい。父上も悲観してらっしゃらないし、最近運動不足で、体を動かしたいと、軽い気持ちで行ってるらしいから」


 そう言って、私の頬に優しく触れる。


「驚かせて悪かった。ただ結婚の話は、前向きに考えて欲しい。君の相手としては決して悪くないと思うよ?」


「でも私、まだ結婚なんて」


 さすがに今日会ったばかりの人と、王子様とはいえ、いや王子様だからこそ、結婚なんて尻込みしてしまう。

 予言とかもちょっと怖いし。


「君がどうしても嫌だと言うなら、母上の目の届かない場所へ亡命でも何でもして、逃がしてあげるよ」


 柔らかな笑みで彼は言う。本当に断ったら、彼は必ずそうしてくれるだろう。私には分かる。


 ──どうしよう、性格も申し分なさそうだ。


 私は決して面食いではないけども、イケメンへの耐性がある訳では決してない。

 このまま近くにいたら、本当に好きになってしまいそうだ。




 私の部屋は、本来お妃様に用意された部屋らしく、部屋の中央のドアから、エドワード様の部屋へ抜けられる構造だ。


 何これ、いつでも行ける設定?


 部屋の調度品の豪華なこと。ベッドも天蓋付きで、二人で寝ても広々な広さだ。いや、寝ないけど!!

 私は一人で赤面する。


 それにしても、どうしてエドワード様は、私が賢者の資質持ちと気付いたのだろう?

 光魔法の術者は確かに貴重だけど、あれだけで私を見抜くなんて。今度会ったら聞いてみよう。


「お嬢様、お夕食のお時間です」


 メイドさんの案内で、私は中庭にせり出したテラスに通された。

 オシャレなテーブルに、エドワード様が席に着いて、優雅にお茶を飲んでいた。


「やあ」


 夕暮れに佇む天使か! いちいちカッコ良すぎる。


「あの、一つ聞きたかったんですけど」


「何だい?」


「どうして私が賢者だと分かったのですか?」


「あぁ」


 彼はテーブルに肘を付いて口の前で手を組むと、私の目を見つめながら言う。


「以前、予言者に聞いていたんだ。エルフの娘が自分の運命の相手だって」


 運命ってマジですか? 誰かもう早く助けて。


「エルフは確かにこの国では珍しいですけど、冒険者や神官として、少数いるじゃないですか?」


「君は感じなかった? 僕は感じたんだけど」


 あの一瞬時が止まったような、妙な感覚のこと?


「いえ、何も (感じませんでした)


 私は思わず否定してしまう。


「そうか」


 彼はちょっとがっかりしたようで、私は、申し訳ない気持ちになった。


「まあ、君に好きになって貰えるように努力する。自慢じゃないけど、女性にはモテる方なんだ」


「そりゃ、モテなかったらおかしいですよ!」


 これには私も突っ込むしかない。

 立太子も時間の問題と言われる太陽の君、国中の女性の憧れの人。

 不老不死という、エルフ特有の最大の条件も軽々とクリアして下さった。


 どうしよう本当に欠点が見つからない。


 なんだか無性に腹が立つ。


 あ、きっと完璧過ぎるのがダメなんだな。

 私なんか、隣に立つのも忍びないんだもの。


「エドワード様は、完璧過ぎるんです」


「僕にだって、欠点くらいあるさ」


 欠点とな! 何ですかそれは?  あるなら早く知りたい。


「僕はすごい嫉妬深いんだ。君が他の人を好きになったら、きっと相手を殺してしまうだろう」


「!!」


 今、さらっと怖いこと言った!


「だから、僕を選べば、誰も死ななくて済む」


 そう言って、にっこり笑う。冗談なのか本気なのか。


「前向きに検討します」


 私は引きつった笑みで答えた。


「それと、あんまり気が長い方でもないかな? あんまり待たされたら、実力行使に出てしまうかも」


 にこにこと人好きのする笑顔を浮かべて、彼は言う。

 実力行使って……。


 今分かった。エドワード様は結構イジワルだ。


 誰か助けて!! 逃げれる自信がないよぅ。

 せめて部屋のドアには鍵を掛けておこうっと。


 それから豪華な食事のフルコースを頂いたけど、味など全然分からなかった。

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