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第二十八話 一筋の光

 アレク様の傷は、みるみるうちに回復した。

 このエルフの里の清浄な空気のお陰だろう。


「エドワードはちゃんと場所を考えて刺したんだ。致命傷にならないように」


 よく晴れた日の昼下がり。

 ベッドでようやく体を起こせるほど回復し、昼食を済ませた彼がそう言った。


 エドワード様が消えて、もう一週間になる。

 私は、ちょくちょく彼を探しに里を出ていた。

 今日も午後から、探しに行く予定だった。


「まだ、エドワードは見つからないのか」


「はい」


 私は俯いた。ルシア様やお師匠様も、手は尽くしてくれているが、依然として彼の消息は掴めないでいた。


「やはり霊山のどこかだろう」


「私もそう思って、何度も山へ登っているのですが」


 瘴気で溢れる中を、光の術を行使するとはいえ、半神の身で探し回るのにはさすがに限界があった。


 ──一体彼は今頃、どこでどうしているのか?


 心配で心配でたまらなかった。

 なぜ、自分の身に魔王を降ろしてしまったのか。

 私を置いて、行ってしまったのか。


 彼が彼でなくなることがどうしても許せず、私は怒りと心配とでもう気がおかしくなりそうだった。


「あいつは馬鹿だな、本当に」


「ええ、本当に大馬鹿です」


「君を泣かすなんて」


 アレク様はことあるごとに泣き出してしまう私の涙を、いつも優しく拭ってくれた。私に痛いほど気を使ってくれる。

 自分の方が怪我人なのに。


「キアラ、ルシア様を呼んでくれないか?」


 唐突にそう頼まれ、私はキョトンとしてしまう。


「そろそろ、エドワードを助けに行かないと。私は彼のお兄ちゃんだからね」


 そう言って彼はニッコリ微笑んだ。




「覚悟は決まったのか?」


 部屋に入るなり、ルシア様の声は厳しかった。


「ええ」


 アレク様は即答した。

 ルシア様は、少し間を置いて話を続けた。


「こうなった以上、もう魔王を止められるのはもはやこの手段しかない。そなたに降ろすのは、光の天使だ。そなた達の言葉だと光の精霊王」


 アレク様は頷いた。

 私もこの話を以前、ルシア様から聞いたのだ。


「だが、本来は精霊ではない。あくまで天使だ。あの者らは天の所属。つまり、降ろしたらそなたは地上にいる時間は限られてしまうだろう」


 え、それはどういう?


「天に帰らねばならぬ」


「死んじゃうって事ですか?」


「それは少し違うな。決して死ぬ訳ではない」


 ルシア様の言葉に、アレク様は黙って聞いていたけど、


「天使は人の世界に、極力干渉してはならないのです。望みを叶えたら天に帰る、ですね」


「その通りだ。やはりそなたは聡いな」


 私はそれを聞いて、初代国王を思い出した。

 なんだか矛盾しない?


「でも、初代国王は長く統治したって聞きましたが?」


「それは伝説の話だ。あくまで後世で誇張され、尾ひれが付いたもの。実際の統治は一年にも満たない」


 あらら、そんなもんなんだ。


「つまり、私はもう人の世には戻れなくなるのですね」


 アレク様が溜め息と共にゆっくりと呟く。


「そうだ」


「そんな!」


 けれどエドワード様を助ける為には、その方法しかないのだ。それが唯一の一筋の光。


「元より死んだも同然の命、それでエドワードを助けられるなら、本望だよ」


 そう言って笑うアレク様の笑顔が切なくて、私は涙を堪える事が出来なかった。


 彼は間違いなく、私の初恋の王子様で永遠の憧れの人なのだ。


 その彼が遠くへ行ってしまうのが分かっていて、私達はもう彼に縋るしかないのだ。それがただ悲しかった。


「降ろした後、天使だけ帰すって無理なのですか?」


 ルシア様は首を横に振る。


「本来、異なる世界のモノを無理矢理こちらに定着させるのだ。同化してしまうので、それは無理だ」


「同化、か」


 私は呟く。

 魔王の方も同化出来たら良いのに。


「ルシア様、元々魔王って何なのですか?」


「元々は天使の一人らしいが、神に逆らって異界に飛ばされたとしか。異界にあるとされる、彼の肉体は元々別の者のモノじゃないだろうか? 天使達は肉体を持たない存在だから」


「色々とややこしいですね」


 ルシア様が溜め息をついた。


「元々異なる世界の者だしな。我らの常識など通用しない。私にもよく分からない事が多過ぎるのだ」


「正直、天使を降ろしたからとら言って、エドワードを救えるという保証はどこにもない。ただかつて、魔王を討ったのが天使だというから、任せるしかないとの見方だ」


「そんな!」


「それにもう、何もかもが遅いのかもしれぬ。魔王は乗っ取った肉体を侵食して精神も乗っ取るのだろう? どうだったアレク、エドワードはそれに抗えると思うか?」


 アレク様は眉を顰めた。


「私には無理でした。精神も侵食されるのが分かるのです。自分が自分の闇にどんどん落とされていくような? 自分の存在は認識しているのですが、表に出る事がどうしても叶わないのです」


 自分の闇に落とされる、意識がなくなる訳ではない。

 私は、やっぱり一つの結論に達した。


 そこにいるなら、呼び掛け続けるしかない。私に出来ることはそれだけだった。

いつもありがとうございます。


話が暗くて重いです。作者もうーんなのですが、書き溜めたものを直しながら載せているので、もう少しだけお付き合い頂ければ幸いです。


夜にも出来たら更新します。

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