第二十五話 出立前の小休止
部屋に戻って二人きり、なぜか彼はそのまま私をベッドに降ろした。
「!!」
「突然どうしたの? 本当に調子が悪いのかな?」
その声の調子は、どうも面白がってる時の声だ。
私は顔を上げられず、枕に顔を押し付けて突っ伏してしまう。
「キアラ」
肩に手を置かれ、そのままぐるっと体を返された。
「わあ!!」
この体勢はヤバイ!!
彼はすかさず私の両腕を抑えて、顔を覗き込んだ。
私は赤面が止まらず、顔を背けた。
「ふぅーん、さては昨夜の事が」
彼の息が耳に掛かる。
「何かの拍子に思い出したのかな?」
やっぱりエドワード様は意地悪だ!! 絶対面白がっている。
「もう一度する?」
耳元で囁かれ、私は堪らず目を瞑る。
もう一度!? こんな朝から!?
瞬間、ぱっと掴む腕を離された。
「本気にした?」
「!!」
ベッドに腰掛けるエドワード様は、嘲笑うかのような笑みだ。
やっぱり、悪魔だ!! ドSだ!!
「このドSめ!!」
「それは僕にとって、最上の褒め言葉だな」
彼は私の髪を撫で、その髪を掬いながら優しく言った。
「絶対上手く行くから。そしてアレクを救って、瘴気も祓って、全部解決する」
「全部上手くいったら?」
「君と結婚して、あちこち世界を回る」
「新婚旅行?」
「そうだよ。毎晩、君が参ったって言うまでやめない」
「また、そういうことを言う!!」
私は起き上がって、彼の胸を叩いた。
彼は笑いながらそれを受け止めて、そのまま私を抱き締める。
やっぱり彼が大好きだ。こんなに胸が満たされる。
初恋はアレク様だったけど、今はこんなに彼を愛してる。
「ダメだ。このままだと、また変な気起こしそう」
私はこの言葉に、慌てて体を離すのだった。
昼食のメニューもシンプルだった。エルフの里の料理は、そんな凝ったものは出てこない。
肉は出ず、食材は野菜やキノコ、果物と言った類だ。
今回はキノコシチューにあの固いパンとミルク、デザートに果物だった。
食事を運んで来たシエルさんと、ぎこちないながらも多少、話をした。
「キアラは、もう見た目の年齢は止まっているようですね」
「ええ!?」
そう言われて、ちょっとショックを受けた。
エルフ族は皆、落ち着いた美女だらけだ。叔母であるシエルさんも例外ではない。
「ルシア様も、随分幼く成人されてしまいましたから、賢者の場合は、我らの特徴から少し外れるのかもしれませんね」
私の外見は、まだどう見ても少女だ。
大人の女性とは決して言えない。
ここでまた、一つの懸念が生まれてしまった。
「食事に関しては、王宮の方がいいなあ」
エドワード様がポツリと呟く。
「わがまま言ったらダメですよ」
「僕は男の子だからね。ほら、やっぱり肉食べないと」
確かにエドワード様には物足りないだろう。
私は彼が、毎日鍛錬を密かに行なっているのを知っている。
夜遅く寝る前だったり、早朝だったり。
あの細めだが鍛えられた体は、そうそう簡単に作られるものじゃない。腹筋とか、もうバッキバキだもの。
彼の本来の性格は、バリバリの武闘派なのだ。
でも普段はあくまで優雅にローブを愛用して、完全に魔術師キャラを気取ってるから、酷い詐欺だ。
私も最初は、すっかり騙された。
格闘、剣術、魔法も何でもこなせるんだもの。
「こう見ると、キアラはやっぱりエルフなんだね」
彼は私をマジマジと見た。
「普通の人よりずっと華奢だ。君はその上、背も小さいけど」
「小さくて悪かったですね!」
「可愛いからいいんだよ」
エルフ達は、食事もみんなで集まって摂ったりしない。食べる時間も、それぞれまちまちだ。
「何だか、ここの人達は淡白? なんか冷めてますよね」
「エルフ族は、人より精霊に近い存在だからね。そんなものなのだろう」
ルシア様とシエルさん以外、全くと言っていい程、接触がないのだ。皆、遠巻きに私達を眺めるだけ。
でも特に嫌な感じではなく、興味はありそうなのに、側に寄るのが何だか躊躇われる、みたいな感じだ。
「まあ、僕達には近付けないさ」
美男美女だらけのエルフ族の中でも、何の遜色もない美貌。
長身痩躯の中でも、彼は全く劣らない。
むしろ、より彼の美しさが際立つような?
少年から青年に変わったばかりの溌剌とした若さと美しさ。
それらは決してエルフにはないものだ。
こう見ると、ただ細いだけのエルフより、エドワード様はメリハリの効いた体つきをしている。体の筋肉のバランスが素晴らしいのだ。
私はこの人の隣で、みんなにどう見えてるんだろう?
「ねえ、エドワード様」
「何だい?」
「エドワード様って、もう老けないんですよね?」
彼は少々面食らったようだ。食後の紅茶を吹き出しかける。
「突然どうしたの?」
「今が一番いい頃なのかな、と」
彼は紅茶のカップを置きながら、口元を拭った。
私は先程、シエルさんに言われたことを話す。
「私はもう、外見の年齢は止まってしまったらしいのです。あんまり、エドワード様が年を取られると」
「あぁ」
彼は何でもないような事のように、ちょっと笑った。
「うーん、どうなのだろう? 僕は今年二十歳になるけども、十八の頃くらいから、こんな感じだよ」
確かに、そう言われると年下のキースさんの方が大人びて見えるくらいだ。
おそらく学生の制服を着たら、充分学生で通るだろう。
「何せ、前例が師匠だから。彼は元々ドワーフだし、もう数百年あんな感じらしいし」
実年齢いくつなんだろう?
「見た目はお爺さんですよね」
「ある程度、本人の希望でコントロール出来るようだよ? それも鍛錬なのだろうけど」
どうせ私はエルフだから例外なのだろう。ルシア様という唯一の前例が、あんなだし。
「心配しなくても、君と釣り合いの取れない容姿にはならないよ。この姿がいいなら、このままを維持しよう」
「出来るんですか?」
彼はふふっと鼻で笑った。
「たぶんね」
アレク様くらいの見た目も、大人の魅力満載で素敵だけども、隣に並ぶ私がこうなので、ちょっとなぁ。
いつもありがとうございます。
PVが増えてきて、ちょっとびっくりしてます。
本当にありがたいことです。
明日も朝と夜と二回更新予定です。
またよろしくお願いします。




