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第二十四話 賢者達の作戦

「すっかり魔力は回復したようだな」


 翌朝早くに呼ばれて、ルシア様の部屋で賢者四人が顔を合わせた。


 お師匠様はルシア様に連れられ、まさに百年振りにこの地に足を運んだのだとか。


「エドワード、なんかお主、妙にスッキリしてないか?」


「ああ、この地の空気は体によく馴染んで、とても過ごしやすいんですよ」


 なんか微妙に誤魔化しきれてないような?

 彼は相変わらずの涼しい顔だ。


「昨日は死にそうな顔をしておったのに、一晩でここまで回復するとは、さすがエルフの里じゃのぅ」


「当たり前だ。ここはこの世で最も清浄な気に包まれておる。我らは人より精霊、神に近い存在なのだぞ」


 ルシア様の言う通りだった。

 あの事は置いとくにしても、食事も含めて、魔力がいつもより存分に満たされるのだ。


「どうも、そなたらはそれだけではなさそうだがの」


 そう言いながら、ルシア様が私達を一瞥した。

 えっ、まさかバレてる!?

 私はエドワード様を横目でチラリと盗み見する。


 その表情は全くのポーカーフェイスで、何の動揺も感じさせなかった。


 さ、さすがだ!!


「イワンには、予め説明をしておいた。我ら四人はこれから、里を出て、霊山へ取り急ぎ向かう。瘴気の影響が出るあたりから光の術を行使し、先へ進む」


 私達は皆頷いた。


「アレクサンダーを見つけ次第、保護。覚醒していた場合は、全員の魔力を込めて、魔王を鎮めるのだ」


 まさにシンプルイズベスト。


「保護に成功した場合、直ちに里へ移動。祭壇の間にアレクサンダーを連れて行き、光の結晶石を使って天使を降臨させる。計画はとりあえず以上だ」


「質問いいですか?」


 そう言って、私は挙手をする。


「何だ、言ってみろ」


「天使を降臨させるのはいいとして、もし魔王に天使が負けたら、どうなるのでしょうか?」


「計画は失敗だ。もうアレクサンダーは救えぬ」


 私は絶句する。

 そんな私に、ルシア様はちょっと笑って言った。


「その心配には及ばぬよ、天使が魔王に負けることはない」


「その根拠は?」


 エドワード様が問い掛ける。ルシア様は自信満々に答えた。


「そういうものなのだ。かつて魔王を倒したのは、他でもない天使自身だ」


 なるほど、そういう訳だったのね。


「そなたら人の世の伝承は、どうも甘いようだの。寿命が短いゆえ、仕方のないことなのか? そなたら、この件が落ち着いたら、いっそここで暮らさぬか? 私が直々に鍛えてやる」


「師匠に鍛えてもらえるなんぞ、お前さんらはなんと幸運な。是非そうするといい」


 ルシア様は本気なようだ。

 でも、この里は本当に私達の気に馴染む。しばらく滞在するのは良いかもしれない。


 エドワード様が良ければだけど。


「忙しい身の上なので、少々難しいかもしれません」


 やっぱり。何てったって王子様だからね。


「でも、私はここにいたいな」


 この言葉に、ルシア様はちょっと嬉しそうだった。


「ここはキアラの故郷だ。両親は既にいないが、叔母もいるし、私もいる。好きなだけここにいればいい」


 するとエドワード様が急に、


「キアラは僕の妻ですので、妻が残るなら夫の僕もここに残ります」


「ええ!?」


 つ、妻って言った!!

 公務どうするの? 仕事の鬼なのに!!


「王位はどうするのだ?」


「父上はまだまだ健在ですし、霊山の瘴気が完全に祓えれば、魔物も減り、父上も王宮に帰還が叶います。それで僕の仕事は大幅に減ります。そもそも僕は父上の実子じゃありませんから、この際、弟に丸投げしてやりますよ」


 そんな事を聞いたら、私も聞きたくなった。

 どうして一応は長男なのに王太子でないのか?


「エドワード様、王太子にならないのは国王の実子でないからですか? それともやりたくないからですか?」


 エドワード様は、ふふっと意味深な笑い方をした。


「決まってるだろ? やりたくないからだ」


 これに、お師匠様が吹き出して大笑いした。


「ガハハハハ!! 嬢ちゃんや、お前さんはエドワードをまだまだ分かっとらん。こいつの性根は、ただの面倒くさがりのイタズラ坊主だ。アレクと違って、不真面目の見本じゃ」


 エドワード様が不真面目?

 そういえば自分で問題児だと言ってたな。


「要領が良いとも言えるがのぅ。アレクは本当に真面目な奴だが、こいつは違う。修行は平気でサボるし、いけしゃあしゃあと嘘をつく。そして何を考えとるかイマイチ分からん」


 要は掴み所のない性格なのね。


「アレクよりも、実はこいつの方が魔王に相応しいかもしれんの」


「酷い言い草ですね。キアラに嫌われたら、師匠のせいですよ」


 ルシア様がそのやり取りを見て、ついに我慢の限界なのかとうとう吹き出した。


「エドワード、お前の評価がだだ下がりだぞ? そんなんじゃ、キアラの眷属として、彼女を任せられぬな」


「そんな!!」


 私は声を上げた。ルシア様に結婚反対されたら、どうしよう?


「心配するな。エドワードはやれば出来る子なのだろう?」


「少なくとも、ワシはそう育てましたぞ」


 ルシア様は、エドワード様に向き直り、今までにない真剣な口調で話した。


「この作戦はそなたが要だ、エドワード」


「──失敗は許されん。もし失敗したら、そなたの大事なキアラを失うぞ」


 エドワード様はさすがに真剣な面持ちで頷いた。

 全てが失敗し、魔王を抑える事が出来なければ、私の身はどうなるか分からない。下手をすれば生贄として殺されるかもしれない。


「昨日の早朝に、アレクは王宮を馬で出たらしい。おそらくまだ転移魔法を使えないか、もしくは使わなかったか」


 エドワード様が、霊山までの行程をざっと計算して話す。


「馬で最短だとしても、霊山までは七日はかかる。それも一気に駆け抜けて、だ。道中、馬を換えながらでやっと可能な日数だから、現実的でない。おそらく十日はかかると見ていい」


 思ったより、結構遠いんだな。


「僕達はその行程を、転移魔法のお陰で飛ばせる。先回りして、アレクを待つか」


「その間、魔王は大丈夫なんですか?」


 これにはルシア様が答えた。


「アレクサンダーは賢い奴だと聞いている。魔力を行使すれば、魔王の目覚めが早まると、本人もおそらく気付いているだろう。だからまだ大丈夫だ」


 あの時は、何とか私の全魔力と、エドワード様のネックレスの魔力を合わせて抑え込んだけど、あくまでそれは完全な覚醒前だったから、可能だった話。

 完全に覚醒したら、私達全員の魔力でも抑え込めるか怪しいとの事。


「最悪、それぞれの親に手を貸して貰わねばならぬかもな」


 ルシア様がポツリと呟いた。


「皆様も、親の精霊王を召喚出来るのですか?」


「子に許された、唯一の特権だ。結晶石なしで一度だけ喚べる。ただ、親だからと言って、ヒトのような情を求めるな。精霊王はあくまで神、本来は男も女もない存在だ。召喚相手に応じて、その都度姿を変える。私達はあくまで召喚によって契約で求められた子なのだ」


 え、性別ないの? 私のお母さんなのに?

 契約で求められたから作られた子供って事?


「キアラの場合だけは、多少違うのだったな。そなたの両親には愛があった。そなたに対する情も、私達の親とは少し違うのかも知れぬ」


 愛があって生まれた私。エドワード様達は違うんだ。

 私はどうせなら、ちゃんと愛する人と子供を作りたい。


 ──突如思い出される昨夜の出来事。


 うわ、思い出しちゃった!!

 私は思わず赤面し、俯いてしまう。


「キアラ、どうした? 具合が悪いのか?」


 ルシア様がすかさず声を掛けてくれる。

 いや、今は顔を上げれない!!


 エドワード様が、私の肩に手を置いた。


「大丈夫か?」


 いや、エドワード様の顔が見れない!!

 昨夜の彼が思い出されて。


 彼はそんな様子の私に何か感じたようで、


「彼女はまだ本調子ではないようです。ちょっとだけ部屋に下がります。出立は昼食後に」


 そう言って、彼は私を抱き上げた。

 もちろんお姫様抱っこで。私は両手で顔を覆った。


 は、恥ずかしい!!


「ああ、光の結晶石や祭壇の準備もあるし、それで構わぬぞ」


 のんびりと答えるルシア様の声。

 そしてそのまま彼は一旦、私達の部屋へ帰った。


いつもありがとうございます。

読んで下さる方がいてとても励みになってます。

まだまだ話は続きます。

完結まで頑張りますので、どうぞよろしくお願いします。


夜にもう一話更新します。

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