第二十三話 二人きりの夜
私達はシエルさんの案内で、大樹内の別の部屋に通された。
清潔な広いベッドに着替え、簡単な食事まで何もかも用意してあった。
「何か要るものがあれば、遠慮なく言って下さいね」
そう言うと、彼女は出て行ってしまった。
ちょ、部屋一つだけ?
ベッド広いけど一つしかないんですが。
「さすがにちょっと疲れたなー」
エドワード様は全く気にせず、すたすたとベッドまで行き、そのままバタンと横になった。
あ、先越された!
「エドワード様、ベッドが一つしかないんですが」
「……そうだね」
声がもう眠そうだ。
シエルさんにもう一部屋用意してもらう? なんか言いにくいけど。
部屋を出て行こうとした私を彼が呼び止めた。
「キアラ、こっちにおいで」
ううっ!?
私は仕方なく、ベッドの側まで行く。
彼はうつ伏せになりながら、顔だけをこちらを向けた。
「どこへ行くの?」
そう言いながら、彼は私の腕をしっかり掴んだ。
「エドワード様、私は別の部屋で」
「今日は、一緒に寝よう」
私が断るよりも早く、彼は呟いた。
思うより腕を掴む力が強くて、私は振りほどけない。
「まだ、私は眠くないです」
こんな状況で、寝れる訳ないじゃない!
「じゃあ、別のことでもする?」
どんな? って聞いたら、なんかとてもまずい気がした。
彼は体を起こして、ベッドに腰掛ける格好になった。
「何か食べませんか? お腹空いちゃって」
私は、とにかく話題を変えようと思った。
「じゃあ、僕も食べるから、こっちへ持って来て」
私は用意されていた、軽食をベッドサイドへ運んだ。
そのまま彼の隣に座って、食べようとした。
スライスされた黒パンに、チーズやハムを乗せて食べる。
一口食べると、か、固い、そして、まずい。
パンが致命的においしくなかった。
これは、私がパン作りを指導せねばなるまい。
私が変な顔をしているので、エドワード様が怪訝そうに聞いてきた。
「どうした?」
「い、いえ、パンが固すぎて」
彼が私の食べかけを一口食べた。
か、間接キスだ!!
「う」
口に入れた瞬間に固まった。
「あはははっ、これは凄い。ある意味凄い!!」
彼はお腹を抱えて笑い出した。
「これはこのまま食べたら、ダメなやつだ」
そう言って、用意してあったスープに浸して食べる。
「ほらね。こうやって食べるんだ」
「君の家だと、こんなに固くなったパンなんか食べないだろうけど、固いパンは貯蔵に向くから、こうしてスープとかに浸して食べるんだ」
「なんか意外です。エドワード様がそんな庶民の食事に詳しいなんて」
彼はちょっと笑った。
「もっとひどい食事だって経験あるよ。こう見えて、結構修羅場くぐってきたから」
修羅場ってどんなだ?
「王宮で、スマートに足組みながら、お茶飲んでる人なのに?」
「君にはそういうイメージだった? じゃあ印象付けは成功なのかな?」
彼はふふっと笑った。
この人は、どうも掴めない。
婚約してるとはいえ、どうも私に全てを明かしてはくれていない気がする。
仕事で普段忙しそうにしてるけど、私のことは常に気にかけてくれていたし、意地悪なところもあるけど、やっぱり私には優しい。
「王宮でいる僕はね、あれはアレクの真似なんだ」
アレク様の?
「上品でスマートで気品に満ちて、理想的な王子様だろ? 女の子はみんなあんな感じが好きなんだって」
確かにこれぞ王子様! て感じだった。
「こう見えて、僕は問題児だったから、いつもちゃんとしろと師匠やアレクに怒られてばかりだったんだよ」
エドワード様が問題児?
全然想像が、付くわ!!
私をからかったり、意地悪なことを言ったり、イタズラしたり、私のイジメ相手に報復したり、あれがきっと彼の素なんだ。
「でも、エドワード様は何だって出来るじゃないですか?」
「そう見える? 僕にだって苦手なものくらいあるよ」
苦手なものってなんだろう?
何もなさそうに見える。
「何が苦手なんですか?」
「虫が苦手だ」
「え、ええ?」
む、虫が苦手ってなんか可愛い!
「昔、子供の頃、アレクと二人で山で過ごしたことがあって。山って夜はすごく寒くて真っ暗なんだけど」
彼はちょっと身震いした。大丈夫かな?
「焚き火をしてたんだけど、さすがに寝る時は消さないといけない。で、魔法に明かりを切り替えたんだ。そしたら虫が群がって大変なことに」
私は思わず吹き出した。その場面が目に浮かぶようで。
「僕はあまりの気持ち悪さに泣き叫んで、アレクを相当困らせた。あれは忘れもしない、僕のトラウマ」
それにしても、子供だけで山に行くってどういう状況なんだろう? そこも謎だ。
「未だに虫はダメなんですか?」
「うーん、出来ることなら、触りたくない」
よっしゃ、エドワード様の弱点ゲット!!
これから意地悪されたら、これで反撃出来る!!
「何、そのポーズ?」
あ、思わずガッツポーズしてた。恥ずかしい。
「ふふっ、本当にキアラは可愛いね」
「あんまり可愛いって言わないで下さい」
私達は和気藹々と食事を済ませた。
束の間の穏やかな休息。
「ねえ、キアラ」
突然、彼が真剣な眼差しで私を見た。
「どうしたんです?」
彼はそのまま無言で、ゆっくり私にキスをした。
そして小鳥がついばむような、優しいキスを何度も何度も。
う、流される!!
そのままベッドに押し倒された。
「キアラ、愛してる」
好きではなく、愛してる。
胸の奥がじんとした。
彼の伏し目がちの瞳は、憂いを帯びていた。
私は堪らなくなって、彼の首に両手を回し、そのまま引き寄せて、もう一度キスをした。
もう何も考えられず、頭が真っ白になる。
そして彼が上着を脱いだ。
細身ながら、鍛えられた綺麗な裸だ。
彼は私の服のボタンに手を掛けて、一つ一つ外して行く。
それから先はまるで、まるで夢のような出来事だった。
初めての痛みも、彼の熱を帯びた体も、全部が本当に夢のようで。
そして目覚めた時、彼の寝顔を見てとても満たされた。
こんなに幸せな朝は初めてだった。
いつも読んで下さりありがとうございます。
ここまで書いていいのかなぁ?(;´д`)
あかんかったら後で修正するかもです。
明日は出来たら二話更新します。




