第十八話 思い出の中の初恋と別離
小さい私が、家の路地の前で遊んでいる。
お母さんがお店が忙しいから、相手をしてくれなくて、よく一人で遊んでいたっけ。
そんな私の目の前に、突然現れたボロボロの少年。
道に突っ伏してぴくりとも動かなくて、死んでいると思った私は大泣きしてしまった。
そんな私に、彼が何とか気付いて、優しく声を掛けてくれた。
自分の方が死にそうで、大変だったのに。
怪我もひどくて、お腹が減っていると言うから、私は家からパンを一つ持ってきた。
それを渡すと彼は美味しそうに食べてくれた。
随分薄汚れていたけど、髪が綺麗な白金髪で、優しく私を見つめる瞳の色は紫色だった。
どうしてすぐ気付かなかったのだろう?
紫色の目を持つ人は少ない。彼に会った時、すぐに気付くべきだったのに。
目覚めた時、紫の双眸が心配そうに私を見つめていた。
白金髪の髪、整った顔、アレク様だ!!
「アレク様、元に戻ったのですか?」
「ああ」
もういつもの彼だった。私は安堵で涙が出た。
私は体を起こそうとするが、全然力が入らなかった。
「君は魔力を消耗し過ぎてる。もう少し休まなければダメだ」
私は横になって、彼の横顔を見た。
綺麗な横顔、私はこの顔を遥か昔に見た事がある。
「アレク様、小さい頃にうちにきた子ですよね?」
彼は布団を直す手を止めて、私の目をまっすぐに見た。
「そうだよ」
彼はちょっと笑った。
「いつ、気付いてくれるのかと思って。ずっと待ってたんだけどな」
「ごめんなさい」
思い出の中の私の初恋。綺麗な髪をした、綺麗な紫の瞳。
「約束したね、大きくなったら迎えに行くって」
「ええ」
「ごめん、結局迎えに行けなくて」
私を迎えに来たのは、彼でなくてエドワード様だった。
彼が迎えに来てくれていたら、私はきっと初恋のまま、彼を素直に愛する事が出来たのだろうに。
「闇の精霊王は一時的に眠っているだけだ。いずれまた目を覚ます」
そして、彼はゆっくりと言葉を継いだ。
「回復したら、君はエドワードの元へ帰るんだ」
「!!」
「闇の精霊王に体を乗っ取られている間、精神の奥深くで私は全て聞いていた。もちろん君の声も聞こえた。でも、どうしても彼に勝つことは出来なかった」
アレク様は辛そうな表情で、唇を噛み締めた。
「君達の魔力の影響で、今は抑え込んでいられるけど、時間の問題だと思う」
「そんな!!」
「分かるんだ。心の奥まで奴に侵食されるのが。瘴気のようにどんどん広がって、どうしても抗う事が出来ない」
闇の精霊王の力はそれだけ強大なのか。
肉体も精神も浸食されてしまうなんて。何て怖い。
「でもこの状態でも力は振るえる。私はこれからすぐさま霊山に向かい、瘴気を押さえ込んで来る。自分が自分であるうちに、役目を果たさなければならない」
「そんな!! 危険です」
いつ闇の精霊王に体を乗っ取られてしまうかも分からないのに。
瘴気は生身の身では危険だ。なおさら一人で行かすなんて、出来ない。
「私も一緒に行きます!」
私は体を起こし、彼の腕に縋るようにして言った。
彼は目を見開いて、首を横に振る。
「それはダメだ。半神は瘴気にことさら弱い。エドワードですら、霊山には近付かないんだ。連れて行く事は出来ない」
「嫌です!!」
絶対に彼を一人で行かす訳にはいかない。
「もう私を置いて行かないで」
涙が頬を伝う。
「一人で行かないで、お願い」
彼は堪らず私を引き寄せ、額に優しくキスをした。
「すまない」
途端に襲う、猛烈な眠気。
私はそれに抗えず、深い眠りに落ちていった。
いつも読んでくださり感謝で一杯です。
今回の話が短かったので、本日は夜にもう一話更新予定です。




