第十七話 消えてしまった彼女(エドワード視点)
視点がエドワードになります。
これからちょくちょく、彼視点のお話があります。
「キアラが消えた!?」
僕が魔術師ギルドに戻ると、泣きじゃくるヴィクターと、それを宥めるキース、苛立ちを隠せない様子のアーサーの三人が待っていた。
「ヴィクターがマーケットではぐれたんだ。この野郎、キアラを置いて先に行ったんだと」
ヴィクターは嗚咽を繰り返しながら、
「エドワード様、本当にごめんなさい、僕のせいだ」
「二人だけで行かせた、私が悪いのです。これは私の責任です。咎なら私だけに」
キースはただ頭を下げる。
「そんなこと言ってる暇があったら、キアラを探す方法を考えろよ、天才ども」
アーサーの言葉に、僕は少し落ち着きを取り戻す。
そうだ、彼女を何としても探さねば。
「キース、彼女を攫ったのは誰だと考える?」
彼はふと顔を上げて、少し考えて言葉を継いだ。
「一連の事件の関係者、もしくは黒幕本人でしょう」
やはり、そうか。僕でもそう考える。
「彼女を狙った理由は何だ?」
「闇使いだからでしょうか? しかし、今まで被害者が攫われた事例はありません」
「おそらく、彼女自身が必要だからだ。今までの被害者とは、事情が違う」
「おいおい、一体全体、仮にも賢者のエルフを何に使うつもりなんだ?」
僕は目を閉じて、頭の中で整理する。
ずっと心の中で引っかかりながらも、封をしてきたこと。
僕から、自分の命よりも重い彼女を奪ったのは?
ずっと考えたくはなかった。
だが行き着く答えはそこしかない。
もう一刻の猶予もない。もしくはもう遅いのかもしれなかった。
「何かの生贄とか」
僕の言葉に、三人が注視する。
「闇の欠片は最後の一つだと言われていた」
キースははっと何かに気付いたようだった。
「まさか」
「犯人は、アレクだ」
「!!」
僕が絞り出すようにして呟いた名前に、さすがに皆、驚きを隠せないようだった。
「叔父貴だって? 冗談だろ?」
鋭いアーサーさえ、この反応だ。
「証拠を見せる」
僕は、転移魔法の詠唱を開始する。ここからはかなりの距離だ。
神経を集中させ、移動先の出口をを探る。
──見つけた!
空間が捻り元に戻ると、僕達はある部屋の真ん中に立っていた。明かりの付いていない、薄暗い部屋。
「ここは何だ?」
「王都にある、アレクのアトリエだ」
魔法で、部屋を明るくする。
眼前に一枚の描きかけの大きな絵が、イーゼルに立て掛けてあった。
柔らかな微笑みを浮かべる天使の絵だ。
ストロベリーブロンドの艶やかな髪。
エメラルドグリーンの双眸。
「おいおい、マジか」
アーサーは絵を見て一言呟き、そのまま押し黙る。
「これは、姫君?」
「どう見ても、姫ちゃんだね」
でも、絵はそれだけじゃない。
風景画に混ざり、飾ってある絵の何枚かを光で照らす。
「え? こっちの絵も姫ちゃん? でも小さいよ?」
「これは幼い頃の姫君ですね」
キースの言葉に僕は頷く。
「小さな子供の頃の絵まで? どういう事だ?」
イーゼルにある絵は、間違いなく今のキアラだ。
「幼い頃から、彼女を知っていたという事でしょうか?」
「そういう事だ」
二人の初めての出会いが、どんなだったか僕は知らない。
ただ、出会った頃のキアラに言われた事がある。
そんな綺麗な髪の男を見るのは、僕で二人目だと。
おそらくそれがアレクの事なのだろう。
「アレク様は、姫ちゃんが好きなのかな?」
「うーん、叔父貴は幼女趣味の変態だったのか」
「それはさすがに違うと思いますよ」
「昔はともかく、今は僕から奪う気だ」
僕は自分に言い聞かせるように呟いた。
いや、僕の手から取り戻そうとしたのか?
「早くしないと、まずいぞ」
彼女には、僕の魔力を込めたネックレスを渡してある。
自分の魔力を探るのは簡単なので、彼女が消えたと聞いた時点で探ってみたのだけれど、完全に魔力が消失している事と、何者かの結界に阻まれているのか、どうやっても探れない。
一体何があった?
そしてネックレスを通じて、僕自身の魔力も引き出されたようで、実は今、かなり消耗していた。
彼女に何かあったのは間違いなく、僕よりも強い何者かの手に落ちているのは間違いなかった。
僕よりも強い存在が、この世界にいるとしたら?
闇の結晶石が失われて、各地で起こった一連の事件。
攫われたキアラ、点と点が結び付いて、一つの可能性を示す。
アレクは生まれつき魔力を持たない特異な存在。
僕と真逆の存在だ。
これと同じ存在を、僕は一人しか知らない。
その一人は、かつて何をした? 欲しいものを手に入れる為に、一体何を?
「エドワード様、こちらへ」
「どうした? キース」
彼が呼ぶ方へ歩を進める。
よく見ると、何と本棚の裏に隠し部屋が!
「室内に何か手掛かりになるような物がないか探したところ、こんな物が」
意を決して、扉を開ける。
開いた扉の先にあった物に僕達は絶句した。
それは闇の精霊王を祀る、闇の祭壇。
祭壇の中央に、何かを置いてあったであろう窪みがあった。
「……おーい、マジかよ」
アーサーは呆れて天を仰ぐ。
僕は窪みの付近に手を当てて、わずかに残る波動を読み取る。
──それは底知れぬ闇。
間違いなく闇の結晶石があったであろう場所。
「闇の精霊王を祀るのは禁忌です。しかし、近頃の霊峰からの瘴気の影響で、逆に闇の精霊王を信奉する宗教、闇黒教というものが密かに拡がっているとか」
「それは僕も把握している。闇の欠片集めの調査で、そいつらのアジトに何度か潜入した。アジトはいつももぬけの殻で、不甲斐ないことにまだ誰一人として捕らえてはいない。そこにあった祭壇とこれは同じ物だな」
人々の心の信仰を止める事は、許されないと僕は思う。
だが、闇の精霊王は危険だ。安息を謳う者でありながら、瘴気で危険な魔物を呼び込む。
かつての神々の戦いで、敗けたことで堕ちたのだから。
「闇の結晶石を持っているのは、間違いなくアレクだ」
──何を考えてる!?
仮にも一国の王子、天才の名を欲しいままに僕の常に一歩先を行く、僕の分身のような兄同然の存在。
その兄が、堕ちたのだ。──なぜ?
僕の頬に涙が一筋伝うのが分かる。
「一度、王宮へ戻る。そしてアレクを国内に指名手配する」




