第十三話 王子様はやっぱり腹黒い
実習は居残りで、放課後に行った。
エドワード様と、私の特進クラスの担任教師が立ち会う。
ロレッタちゃんは、他の先生が立ち会って、既に実習を終わらせたそうだ。
「闇使いは彼女ともう一人だけだそうですね」
「彼女は闇使いの為に特進クラスに入れたようなものですので。我が校始まって以来の人間の闇使いです」
私の担任は、私のいじめも黙認している。
彼も結局は人間差別をしている側なのだろう。
しかも私を何気にディスってるし。
私が闇しか取り柄なさそうに言ってるし、本当は全部使えますけど? て言ったらどんな顔すんだろ?
「失礼ですが、ウォルター殿はギルドの新支部長とか?」
「ええ。支部長とはいえ、新参者なので、今日の要望にお応えしたのですよ」
エドワード様は、しれっと答える。自分がただ来たかっただけなのにね。
「ギルドの前支部長は、当校の卒業生でして、大変優秀な生徒でした。その支部長の上に新たに就かれたあなたは、さぞ優秀なのでしょうね」
何気にエドワード様まで、攻撃されてる!
言葉を邪推すると、我が国の横暴な人事で、降格にされた前支部長が気の毒だ、と言いたいみたい。
エドワード様は実力だっつうの。何たって賢者様だぞ?
聞くと、本国の魔術師ギルドマスター就任の要請も、多忙な事と、年齢が若過ぎる事を理由に断ったとか。
「僕なんか、大した事ないですよ。ちょっと人より魔法が得意なだけです」
「あなたさえ良ければ、一度お手並みを拝見したいですな。生徒は一人だけですし、お手本を兼ねて」
この先生、エドワード様の事、完全に舐めてる。
そりゃ、黒ローブに仮面姿じゃ、怪し過ぎるもの。
そして、顔の半分を隠してても分かるイケメン感。
まあ、魔術師ギルドの人は、魔力増幅の為に特殊な面を付ける事も多いんで、これといって普通なんだろうけど。
「では、僕がまずお手本を見せましょう」
そう言うと、エドワード様は闇の術をを物凄い勢いで放ち、的を跡形もなく粉砕した。
あ、やっちゃった!!
的は普通壊れず、受けた魔法の威力によって色が変わるのでそれで判定するのに。
これじゃ、術の威力が測れない。
いや、粉砕する程、強いって事だろうけど。
「あ、的が壊れてしまいましたね。不良品かな?」
先生は慌てて、新しい的を取りにどこかへ行ってしまった。
「エドワード様!」
私は彼を嗜めるように名前を呼ぶ。
彼は私をチラリと見て、ふふっと鼻で笑った。
「あの教師、ちょっとシメてやろう」
「!!」
わー、エドワード様がまだやる気だ!
しばらくして、新しい的をセットして戻ってきた先生は、懲りずにこう言った。
「良ければ、もう一度お願いします」
また!? もうやめといた方がいいよ、先生。
エドワード様、たぶんもう怒ってるよ。
その人怒らすと、この学校自体消し飛びますよ、マジで。
「構いませんよ」
のんびり答えるエドワード様、再び的に鋭い闇の一撃。
そして粉砕する的。
「!!」
「すみません、どうも的が小さ過ぎて、力の加減がうまくいかないですね。精進が足りません」
いやその小さい的に、粉砕するだけの最小の力で器用に術を放ってるでしょ、あなた。
「し、支部長の実力はよく分かりました。まさか支部長も闇使いだとは。では、新しい的を設置してきます」
「いいえ、僕は特に闇使いって訳じゃないですよ」
「!!」
私はぎょっとする。まさか正体バラす気?
彼は的のあった場所に手を伸ばして詠唱する。
粉砕された的は一瞬で綺麗に元通りだ。
時戻しの術!? 最高難度の高位魔法だ。
「ほらね、ちょっと魔法が得意なだけです」
先生は呆然と、開いた口が塞がらないみたいだ。
すごい、完全にやり込めた。
「では、生徒に実践して貰いましょうか? クララ君どうぞ」
「はーい」
エドワード様のお膳立てに乗らない訳にはいかなかった。
私は彼と全く同じように、同じモーションで闇の術を放つ。
──粉々に跡形もなく粉砕する的。
「先生、やっぱり不良品じゃないですかー?」
先生はがくっと膝を付いた。
「な、何者なんだ? 君達は」
「別に。ただ、ちょっと魔法が得意なだけですよ」
私はにっこり微笑んだ。
「生徒のいじめを黙認するなんて、教師の風上にも置けん」
エドワード様はカリカリしながら呟いた。
この人がこれだけ怒るなんて、相当だ。
普段はすごく、優雅で穏やかでのんびりに見える人なのに。
あくまで猫被ってるだけだけど。
「さすがに他国の学校だし、これ以上の手を出すのは面倒だし、君の正体がバレかねない。これくらいで勘弁して」
「私、別に報復まで頼んでませんよ?」
これにはエドワード様が、
「君に何かしたら、僕が絶対に許さないけど?」
怖っ!!
「それにしても、その髪、ちょっと倒錯的になるな」
私は相変わらず、学校内では黒髪のカツラで通している。
「君以外と、浮気してるみたいな妙な気分だ」
「浮気は許しませんよ?」
私はきっとエドワード様を睨んで言った。
「もちろんしない。君以外に興味ないし」
彼は手をヒラヒラさせて、答えた。
放課後のこの回廊には、今は私達だけだ。
こんな会話、誰かに聞かれでもしたら大変な事になる。
彼は私の前に回り込んで、顔を覗き込んできた。
「ん?」
「また、しばらく顔が見れなくなるから」
あぁ。そうか、今日はたまたま会えただけなんだ。
「エドワード様、そんなに見たら穴が空きそう」
彼は私の頬を、両手で優しく包んで呟く。
「可愛い」
もー、何言ってるの?
仮面を被ってるので、エドワード様の表情はよく分からない。
赤くなって顔を逸らす、私の顎を長い指が捉えた。
そのまま上向かされて、重ねられる唇。
ああ、ダメだ。
流されてしまう、こんな所を誰かに見られでもしたら。
それでも彼とのキスは甘くて、全身を幸せな感情が貫く。
やめられない中毒のようで。
好きで好きでたまらない。
「愛してるキアラ」
「私も」
この時の私達はお互いに酔い過ぎて、このキスシーンが、思い切り第三者に目撃されていたことなど、気付きもしなかったのだ。
──それがまた一波乱を起こすことになるとは。
「エドワードが来た?」
その後、ギルドへ戻るエドワード様と別れたその足で、私はいつもの集合場所へやって来た。早速、彼が現れた経緯を話す。
「せっかく特進と合同実習だったのに、属性ごとに分けられるなんてさー、俺はさすがに闇は使えないし!」
悔しがるアーサー様に、私は首を振る。
「友達も出来たし、エドワード様が色々やってくれたので。これでイジメも少し落ち着くといいな」
「エドワード様が何やったって?」
ヴィクター君が瞳を輝かせながら、聞いてくる。
「私に嫌がらせした子に、雨を降らせたり」
「うちの担任の前で、計測用の的を二回も粉砕したり」
これにはキースさんも驚きの声を上げる。
「エドワード様がそこまでするなんて、珍しいですね」
「こいつが絡んでるからな。あのバカ兄貴、こいつのこととなると、前が見えなくなるみたいだ」
言われて私は赤くなる。
それだけ、愛されてるということなのかな?
「お前ら、軽率な行動取らなかったろうな? バレたらこの計画は一巻の終わりなんだからな」
ギクっとする私。
思い切り、さっき屋外でキスしてたなんて言えない。
アーサー様はこういう時、妙に鋭いんだよな。
「それにしても、高等部の闇使いがキアラともう一人だけって、随分少ないね」
「キアラは闇使いって訳じゃないだろ? 囮なんだし」
そうだった。今回分かったのは、闇使いがロレッタちゃんだけという事。
「中等部はどうなの? まだ分からない?」
私はヴィクター君に逆に訊ねる。彼は独自に中等部を調べていた。
「分かったよ、中等部も闇使いは一人だけだ」
「それは誰だ?」
キースさんの強い口調に、ヴィクター君は思い出すようにして答えた。
「アントンっていう奴だよ」
「どんな奴だ?」
「んー、別にこれと言って、成績も普通で。地味な奴だよ」
これにアーサー様が、指示を出す。
「そういう地味な奴が狙われるんだ。お前はそいつを常にマークだ」
「ほーい」
私はここで、専科の方を思い出す。
「あの、専科は?」
「専科は考えなくて大丈夫です。そもそも人数も少なく、また闇使いも他にはいません」
そういうキースさんの答え。え、他にいない?
アーサー様が溜め息混じりで呟いた。
「キース自身が闇持ちだ。ちなみにこいつ、トリプルだから」
トリプル!? 三属性持ち?
「す、凄いじゃないですか!!」
「オールのお前が言うなよ。キースは貴重だぞ、火と光と闇だ」
エドワード様に準じると言われる天才は、資質にも恵まれていたのか。
「俺は風の一つだけなのに」
「僕は土だけだよー」
そういや、みんなの属性ちゃんと知らなかった。
でも、そんなに凄いなら、魔術師にどうしてならなかったのだろう?
「なんでそんな天才のキースが俺の所になんかいるのか? と思ってるだろ? お前」
アーサー様はきっとエスパーだ。
「ぶっちゃけ、俺達は国では不穏分子なんだよ。俺ですらな。エドワードと違い、異種族だから冷遇されてるの」
「そんな!!」
「キースは、伯父であるこの国の国王が俺に付けた最大の保険だ。ヴィクターはおまけだがな」
「僕、おまけだったの? ひどいよ、アーサー!!」
アーサー様の言葉はおそらく本当なのだろう。華やかな太陽宮と違って、衛兵やメイドすらいない閑宮だったもの。
「もっとも、どんな護衛よりも、キース一人の方が強いからな! 必要ないとも言える」
「ただの経費削減です。アーサーは働かないし」
キースさんはそう言って溜め息をつく。
「俺は学生の身分だからいいの」
「だったら、もっと真面目にやって下さい」
この二人のやり取りはいつもこんな感じだ。
私達は笑いながら、しばしの穏やかな時間を過ごした。




