第十一話 魔法学校へ
翌朝、通常の旅だと馬車で十日はかかる工程を、国境付近の町まで、転移魔法を駆使してショートカットした。
国境の町から馬車で三日、ようやく人狼国首都青狼に到着した。
国立魔法学校は、郊外の小高い丘に建っている。
広大な敷地に、男女別の学生寮を備える全寮制の学校だ。
中等部と高等部と専科があり、主に国内外の貴族、富裕層の良家の子女などが通う。
ただしその殆どが圧倒的に亜人に限られていた。
ここで言う亜人の定義は、人狼や猫耳族、兎耳族など獣人族、
一部のドワーフや、巨人族なども含まれる。
元々、世界中で迫害された獣人族が中心になって、北の痩せた土地を自ら開拓し、建国した国が人狼国なのだ。
だから人狼国の人々は一般的に人間を嫌悪している。
そんな国の学校に、私は人間として通う。
初めてのことではないらしいが、風当たりは相当厳しいと予想された。
ヴィクター君は中等部だけど、部屋は同じにしてもらえた。
キースさんは専科、私とアーサー様は高等部へ編入した。
実は、キースさんは我が国のアカデミーを飛び級して首席で卒業している。その前年度の首席がエドワード様らしい。
ちなみにアーサー様はアカデミーには通わず、キースさんの指導での勉強のみ。学校に通うのは初めてらしい。
私は地方の学校を、婚約にあたって辞めてしまったので、久しぶりの学校をちょっとだけ楽しみにしていた。
──でもその期待は見事に裏切られた。
「どうだった? そっちは」
放課後、私達は校舎裏の人気のないテラスに集まった。
「うーん、やっぱり人間だと、厳しいね」
私は特待生として、特進クラスへ入れられた。
エドワード様の指示で、わざと目立つ為に。
特進クラスはエリート意識が高いせいか、人間に対する嫌悪感も強い人が多いらしく、初日から無視されまくりで、私はちょっと凹み気味。
「大丈夫ですか?」
キースさんが心配そうに私に声を掛けてくれる。
「覚悟はしてたから、頑張ります」
「姫ちゃんは兄上の婚約者だって、周りに言ってないの?」
「誰とも話してないので、言うきっかけすらないの」
私から勇気を出して話しかけても、蜘蛛の子を散らすように避けられてしまったのだ。
この国の人の人間への嫌悪は、相当根深いと言える。
「キースさん達は、私達を嫌ってないので、亜人の人がどれだけ人が苦手か、分かってなかったのかも」
私は膝を抱えて俯いた。
「私達は、貴国で幼少から育ちましたので。それでも人に対する怖れが全くないとは言えませんが」
「え、でもエドワード様とは仲良さそうですよね?」
「エドワード様は学校の先輩で懇意にして頂いてるので」
ふーん、エドワード様はそもそも人種差別なんかしない人だもんな。
「もうさ、二人でイチャつきながら校内うろうろしてろよ」
「ちょ!!」
「!!」
アーサー様の一言に、私は赤面する。
「でも、確実だぜ? 絶対噂になるから。試してみろよ」
「僕もそれが確実だと思う。人種の壁を越えて愛し合う二人って素敵だしね!」
ヴィクター君まで、そんなことを言い出す始末。
「あくまで設定、そういう役だし。バカ兄貴の許可だって出てる」
ちょ!! エドワード様をバカ兄貴って!!
「キアラは目立つ必要がある。囮だからな。うってつけだろ?」
アーサー様は、実は鋭い。さすがはエドワード様の弟君なだけある。
「やるしかなさそうですね」
溜め息をついて、キースさんが観念した。
「良いんですか?」
「私より姫君の方が、でしょう?」
ごめんなさい、エドワード様。
心の中で謝っておこう。
「名前の呼び方も徹底しとけ。ボロが出るぞ」
私達は名前の呼び方を再確認して、これ以後は徹底してそれを通すことにした。
私達は、アーサー様もといグレイとヴィクトリアと別れて、
早速二人で校内を散策した。ただ親しげに並んで歩くだけだけど。
キースさんは、どうやら既に有名人。
この学校の専科はそもそも、大学と大学院の中間のような所で、高等部でも、優秀者しか専科への進級は認められない狭き門。
その専科に、時期外れに編入してきた大貴族のローウェルで、超美形とくれば注目されない訳がない。
そんな転入生が、よりにもよって人間の女と仲良く歩いている。本当は人間じゃなくてエルフだけど。
あちこちから、私達を噂する声が聞こえてくる。
女生徒のがっかりする声、罵声や嬌声まで。
「効果はありそうですね」
二人で並んで歩きながら、私は呟く。
そんな中、遠目で私達を見守る視線の中に、一際冷たい視線を感じた。
何だろう、悪意を感じる?
その見守る視線の中から、一人の少女が躍り出て、私達の行く手を遮るように止まった。
「専科のキース・ローウェルさん?」
犬耳の人狼の少女だ。神経質そうな目をしている。
この国では、亜人はほとんど耳や尻尾を隠さない。
アーサー様やキースさんは、普段は完全に人の形態をとっているので、黙っていれば亜人だと気付かれないくらいなのだが。
「私は風紀委員の者です。その方は人間ですよね? 人間の女性と親しくするのはあまり好ましくありません」
風紀委員が思い切り差別ですか。とことん嫌われてるな。
「彼女とは婚約しています。申し訳ないが、あなたにとやかく言われる筋合いはない」
キースさんの口調は面白くなさそうで、きつい。
「婚約? あなたが人間と? それは本当ですか?」
「ええ」
溜め息混じりに答えて、彼は苛立ちを抑えられないように、
「彼女が大変不快な思いをしている。これ以上の差別的発言は控えて頂きたい」
そう言って、私の手を引いて歩き出す。
私は慌てて彼に付いていくしかなかった。
キースさんの物言いは妙にキツくて、真実味を帯びていた。
これで、学校中に私達のことが広まるだろう。
これで私への皆の態度が軟化すればいいけど。
翌日、早速学校に私達のことが広まったようで、教室に入るなり、男子生徒が数人、挨拶を兼ねて話しかけてきた。
しかし、あくまで男子生徒だけ。女子生徒は相変わらずというか、どうもイジメに近い状態になっているような?
無視だけならいいけども、私の机にゴミが置かれていたり、ロッカーが荒らされたり、露骨な嫌がらせが始まったのだ。
私がエルフだとしたら、ここまでされるのかなぁ?




