表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/58

第九話 王子様とお出掛け

「───で、ボコボコにしたって?」


 その日の午後、珍しく早く帰ってきたエドワード様に、私は事の顛末を説明した。


 エドワード様は読みかけの本に視線を落としつつ、私の話を聞いている。


「はい、下着の色まで言われたので、つい」


 彼は懸命に堪えていたようだけど、ついに笑い出した。


「あははは! 王宮中、この噂で持ちきりだ。じゃじゃ馬姫が近衛隊長半殺しって」


 私はいたたまれず、自分の部屋に戻ろうとする。


「今日はこの後、出掛けるから」


「はい、いってらっしゃい」


 エドワード様はちょっと笑って、


「君も一緒に行くんだよ」




 私達は、王都の魔法アカデミーへ揃って出掛けた。

 エドワード様は、詳しい話はアカデミーへ着いてからと、詳細は話してくれない。


「とりあえず、これから校長に面会するよ」


「はい」


 校長室に通されると、厳しい顔をした年配の女性が待っていた。この人が校長かな?


「殿下、見つかりました」


「どこです?」


 挨拶もほどほどに、二人はテーブルの上に広げられた地図に見入る。


「人狼国です。ここが最後かと思われます」


「北の外れか、また遠い所だな」


 人狼国といえば、亜人の国だ。人狼の王が建国した歴史の浅い国。厳しい寒さの北国に位置している。

 そして人間には、排他的な国だ。


「どうされますか?」


「事前に潜入し、阻止するしかないでしょう」


 私はおとなしく座って待っている。

 話がさっぱり見えない。


「失礼ですが、殿下が行かれるのは、少々難しいかと」


「分かってます。だからキアラを行かせようかと」


「!?」


 校長は驚いて目を見開いた。


「お嬢様をですか?」


 エドワード様は頷く。


「彼女は強いですよ。充分対処出来ます」


「何かあったら、どうするんですか? 大事なお方では?」


「もちろん一人では行かせません。護衛も付けます」


 校長はそれでも納得出来ないようだ。


「危険です。闇の力は徐々に強まっています。ましてや、北の地は我々人には未開の地に近い。お嬢様は賢者である前に、殿下の未来のお妃なのですよ?」


「妃だからこそです。この国を守る為に、彼女が適任です」


 エドワード様は静かに、だがきっぱりと言い切った。


「エドワード様、そろそろ全部話して下さい」


 私はもう黙って見ているだけではダメだと思った。

 彼は私を遠い北の国へ行かせるつもりなのだ。

 エドワード様は私を一瞥し、校長に詰め寄る。


「校長、いえ魔術師ギルドマスターとして許可を下さい」


「許可出来ません」


「では、僕も行きましょう。魔術師ギルドの一員として」


「殿下!!」


 校長はたしなめるように声を上げる。

 エドワード様の意思は固そうだ。


「仕方ありません。人狼国魔術師ギルド支部長の座を用意します」


 溜め息をつき、校長はようやく折れた。


「ありがとうございます。早速手配をして、今週中には発ちます」




 今、この世界に存在する魔術師ギルドの本部は、我が国にある。

 そのギルドを総括するのは、王都魔法アカデミーの校長こと、オリガ・ステラ様だ。


 オリガ様始め魔術師ギルドでは、秘密裏にある捜査を各国で行なっていた。


 近頃、各地で頻繁に起こる闇の召喚術の暴走事件。


 その事件の真相には、必ずと言っていい程、あるアイテムが関係していた。


 それは闇の精霊石、いや欠片と呼ぶべきか。


 闇の精霊石の生成には、純度の高い闇の結晶石が必要だ。

 結晶石は通常、厳重な管理の元に保管されている。

 闇の結晶石があれば、闇の精霊王の召喚も可能なのだ。


 精霊王は闇の王とも呼ばれ、神にも等しい存在。


 本来は善でも悪でもない存在なのだが、数千年前の神々の戦いで敗れ、忌まわしい異界に追放されてしまう。

 しかし、この世に光がある限り、闇が無くなることはなく、闇の王亡き後も、彼の残した眷属はこの世に存在を続けている。

 他の神々は既に地上を離れて久しく、今地上に生きる者達は、

 瘴気や闇の魔物の影に自分達で立ち向かう他ないのだ。


 その闇の結晶石は純然な闇の魔力の塊だ。

 魔法ギルドにもその結晶石が一つ保管されていた。

 そして何者かの手によって盗まれていたのが、最近明らかになったのである。


 各地で見つかる精霊石の欠片、それらは魔法ギルドで盗まれた結晶石から作られた可能性が高かった。


 精霊石の欠片は、特殊な印の施された指輪やペンダント、アクセサリー類に加工され、各地の術者の手元で暴走する形で見つかっている。

 公には伏せられているが、いくつかの暴走事件で死傷者も出ていた。


 エドワード様が各地のアカデミーを視察して回っていたのは、その闇の欠片を探す為だったのである。


 一連の事件を、ずっと秘密裏に捜査していたのだ。


「その闇の欠片のアクセサリーが、人狼国で見つかったという訳ですね?」


「正確には、アクセサリーの一つが、人狼国へおそらく持ち込まれたと思われる、かな?」


 そんな曖昧なの!?


「正直、捜査は行き詰まってる。情報が少な過ぎるんだ。犯人は巧妙かつ用心深い。アクセサリーの一つが人狼国へ渡った、それだけでも重要な手掛かりなんだよ」


「それで人狼国のどこに?」


「闇の欠片は闇の魔力を集めてる。アクセサリーはただの媒介に過ぎない。欠片を通して、別の場所にある結晶石本体に魔力を送ってる筈なんだ。だから、アクセサリーは闇の魔力を持つ者の手に必ず渡る」


 私ははっと閃いた。


「魔術師ギルド以外の、魔術師の集まる場所ですか?」


 エドワード様は頷いた。


「ギルドの人間には、アクセサリーの捜索が命じられている。だから魔術師ギルドにアクセサリーは持ち込まれる筈がないね。人狼国にも、独自の魔法学校がある。今までの例からしても、おそらく今回も学生が狙われるだろう」


「私は、魔法学校に潜入するんですね」


 元々学生だし、学校生活に抵抗はない。


「今までの学校とはかなり違うと思う。全寮制で、門限はあるし、それに亜人の国だから、君には馴染めないかもしれない。君にそんな所へ行けと言う、僕は酷だな」


「何を今さら。それに私だって、人から見たら亜人ですよ?」


「そうだね」


 彼はちょっと笑った。


「潜入するに当たって、君に付ける護衛なんだが、適任が二人しか思い浮かばないんだ。これから交渉に行くけど、散歩がてら君も来るかい?」


「行きます」


 エドワード様に付いて、王宮内を移動する。散歩しながら向かったのは、なんと私達の住まいと反対側にある月宮だ。


 太陽宮と対とはいえ、大きさが全然違って随分とこじんまりとしている。

 そして何というか、寂れた雰囲気。

 手入れは行き届いているけど、地味というか、質素というか。


「ここの人なんですか?」


「そういや、君はまだ会ったことがなかったね」


 エドワード様は、すたすたと宮殿内に入って行く。メイドさんや衛兵の姿は全く見当たらない。


「相変わらず、ここは人がいないな」


 さすがに王室事情に疎かった私でも、婚約した時点である程度は把握している。ここは、エドワード様の異母弟にあたる、第二王子の住まいだと。


 そしてとうとう一階の一番奥の部屋に辿り着く。

 ノックをするが反応がない。誰もいない?


「厨房かな?」


 仕方なく、私達は厨房へ回る。私達の食事は、基本各宮で用意される。うちの宮でも、専属の調理人がちゃんといる。


 厨房へ行くと、何やら人の気配が。


「何だやっぱり、ここにいたのか」


 厨房で、調理していた青年がこちらに気付いた。


「これは、エドワード様。いかがされました?」


 黒髪に切れ長の琥珀色の瞳、長身の青年だ。

 かなりの美形!!

 タイプは違えど、エドワード様と張り合えるんじゃ?


「もちろん用があるから来たんだ。アーサーはどこだい?」


「アーサーなら、中庭にいると思います」


「ああ、紹介しとこう。彼女がキアラだよ、キアラ、彼はキース」


「こんにちは、初めまして」


 私はぺこりと頭を下げる。


「どうも」


 彼は軽く会釈するだけ。素っ気ない態度だ。


「キースにも話があるんだ、後でアーサーの所へ来てくれ」


「分かりました」


 私達は厨房を後にし、宮殿の中庭へ向かう。

 小規模ながらきちんと手入れされた、綺麗な庭だ。


 その庭の中央で、デッキチェアに横たわる人物。

 顔の上に本を乗っけて眠っているようだ。


「アーサー」


 エドワード様が声を掛けるが反応がない。

 私達は顔を見合わす。

 そして彼は深呼吸して、大声で叫んだ。


「アーサー・グレイ・ローウェル・シンクレア起きろ!」


「!!」


 寝ていた人物は、ビクッと体を震わして飛び起きた。


「何だ?」


「ようやく起きたか、アーサー」


「エドワード、何でここに?」


「緊急の要件だ。人狼国へ行ってくれないか?」


「へ?」


 アーサー様はまだ寝ぼけ眼だ。

 エドワード様は仏頂面で、そのまま話を続ける。


「闇の精霊石の欠片が悪用されて、その一つが人狼国へ渡った。お前達には、キアラと一緒に潜入捜査を頼みたいんだ」


「潜入捜査? そのチビと?」


 チビ!? 私の事?


「チビじゃない、キアラだよ。僕の婚約者だ」


「へぇ、やっと見つけたんだ」


 言うなり、アーサー様は私の顔を覗き込む。

 顔が近い!!


 銀髪に琥珀色の瞳、整った顔立ちだけど、エドワード様には似ていない。


「いい匂いがする。くれ」


「はあ!?」


 私は面食らう。


「ふざけるのはいい加減にしろ、アーサー。キアラはやれない」


「エドワードはいつも俺の欲しい物をくれただろ?」


 アーサー様はエドワード様に食ってかかる。


「それとこれとは話が違う。キアラだけは絶対にやれない」


 ちぇっ、と舌打ちし、そっぽを向いてしまうアーサー様。

 子供か!! でも確か年は私より一つ上のはず。


「アーサー、エドワード様を困らせてはいけません」


 静かな声が割って入った、キースさんだ!

 何だろう、この登場の仕方は頼もしくて仕方ない。


「エドワード様、詳しいお話をお聞かせ願えますか?」


 エドワード様は、彼らに詳細の全てを話し始めた。




「事情は分かりました。私で良ければお手伝いさせて頂きます」


 と、あっさりキースさんが快諾すると、アーサー様は、


「何勝手に決めてんだ? 俺はまだ行くって決めてないぞ」


 と、のたまった。


「私は確かにあなたに仕えるように、本国から来ていますが、私とて人狼国の人間として、本国に危険な事態が及ぶかも知れないのを、黙って見ている訳には参りません」


 人狼国の人間? キースさん亜人なの?


「キースは、アーサーの母君の兄上の息子で、現人狼国王の王子の一人だ」


「王子様ですか!」


 キースさんなんて呼んでたらダメかなあ?


 エドワード様の説明に、キースさんが補足する。


「母の身分が低いので、私は庶子です。気遣いは無用です」


 と、先に言われてしまった。うーん。


「え、ちょっと待って、アーサー様の母君って人狼国の王女様? アーサー様は人狼のハーフってことですか?」


 アーサー様の母君は、アーサー様が幼い頃に亡くなられたと聞いているが、まさか人狼国の姫君だったとは!


「ハーフと言うか、人狼の血は優勢遺伝だから、俺は人狼だな」


「へえ」


 人狼って、変身出来るんだよね? ちょっと見てみたいな。

 

「それより、一つ問題が」


 エドワード様は、難しい顔をして切り出す。


「学校は全寮制で、男女で寮が別棟になる。出来れば、キアラには女性を一人付けたいんだが、誰か知り合いでいないか?」


「でしたら、ヴィクターを付けましょう。あれはまだ幼いですが、隠密行動に長け、変装も得意です」


 ヴィクター?  誰だ? でも名前からして男の子?


「ヴィクターは、キースの弟だったか」


「はい。今は使いで外に出ていますが、じきに戻ります」


 キースさんの弟ってことは、その子も王子様!?

 私の周り全員王子様だらけ。ある意味すごい。


 私達は、乗り気でないアーサー様を置いといて、細かく打ち合わせをし、明後日、皆で王宮を発つ事にした。


次回、夜に更新予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ