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異世界・オブ・ザ・デッド ~才能ゼロの魔術師だけど世界を救いたい~  作者: 結城 からく


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第九十四話 見違えた落ちこぼれ

 都市内の中央付近のエリア。

 ルフトは住宅街を縫うようにして移動していた。


 隣には白衣の博士ではなく、魔法少女ルナリカが同行する。

 可愛らしいデザインのステッキを片手に、彼女は気だるそうな表情で歩いていた。


「あーあ、これからショッピングの予定だったんだけどなぁ。バーゲンセールを逃しちゃったよ」


「前回に引き続き、タイミングが悪くてすみません……」


 ルフトは申し訳なさそうに謝る。

 こればかりは反論もできない。

 今まで出会ってきた異世界人の中でも、唯一ルナリカだけが呼び出されることに多少の不満を持っているのだ。

 確かに日常生活を送る中でいきなり異世界に飛ばされるのは困るだろう。

 その不便さはルフトも理解しているつもりだったので、ひたすら機嫌取りに走るしかなかった。


(怒らせると本当に怖いからな……)


 門の封鎖後、事の顛末を報告するために学園へ戻ろうとしたルフトだったが、途中で召喚魔術の時間切れが訪れた。

 魔法薬を飲めば時間の延長もできそうだったものの、博士にすげなく断られたのだ。

 曰く、早く戻って今回の収穫を確認したいとのことであった。


 博士の研究に対する執着は凄まじい。

 彼の狂気の主軸になっていると評しても過言ではない。

 これにはルフトも無理強いはできず、元の世界へ還ってもらう次第となった。

 そうして一人残されたルフトが再度召喚魔術を行使したところ、ルナリカが呼び出されたというわけである。


 だらだらと歩くルナリカは、ふとルフトを見やった。

 芯の通った眼差しに興味の色が沸く。


「……何か、変わったよね。一皮剥けた感じ?」


「そうですかね?」


「うん。ちょっと逞しくなってるよ」


「なるほど……」


 相槌を打つルフトだったが、心当たりがなく首を傾げる。


 彼は成長している自覚があまりいなかった。

 できることを全力で遂行しているだけ、という考えなのだ。


 ルフト自身は未だ落ちこぼれの感覚を持っていた。

 それを何かの言い訳にするわけではなく、純粋な自己認識である。

 客観的にはかなりの偉業を為しているのだが、それを誇ろうとしないのは長年に渡って染み付いた気性なのかもしれない。


 二人が会話を挟みながら歩いていると魔術学園が見えてきた。

 しかし、何やら様子がおかしい。


 ルフトはハッと表情を締める。


「あれは……!」


 見ればゾンビの群れが正門に殺到していた。

 彼らは呻きながら守りを突破しようと試みている。

 防御機構が作動しているために安全そうだが、内側からは効果的な攻撃ができていないようだった。

 ゾンビ化した魔物も含まれているせいで、外に出向いて仕留めるという戦法ができないらしい。


「ルナリカさん、行きましょう!」


 刹那の躊躇もなく、ルフトは魔剣を持ってゾンビたちに突撃する。

 道中にてミュータント・リキッドを追加で打ち込んでいた。

 ドミネーションZの効果は切れているものの、通常のゾンビが相手なら十分だろう。


「おい! こっちを向けッ!」


 ルフトは大声でゾンビの意識を集めながら魔剣を振り抜く。

 高熱の斬撃が斬り込んだ端から燃え上がらせていった。

 ゾンビたちは一太刀のもとに沈んでいく。


 まだまだ粗削りな剣筋だが、アルディとの戦いがルフトの戦闘勘を構築しつつあった。

 この程度の戦いでは遅れどころか反撃を許さない。

 身体能力に任せた致命的な攻撃が次々とゾンビを屠る。


「へー、なかなかやるじゃーん。マジカルアーマーもいらないみたいだし」


 感心するルナリカも後に続く。

 魔法でマシンガンを生み出してゾンビに向かって乱射した。


 鉛玉の雨を浴びて即死するゾンビたち。

 彼らは光の粒子となって拡散する。


 当然、近距離戦を挑むルフトにも襲いかかるが、障壁の腕輪で難を逃れた。

 少しでも防御が遅ければ致命傷を食らっていただろう。

 無事を確かめたルフトは冷や汗を流す。


「あの、できれば僕のことも考えてもらえると……」


「射線に立つ方が悪いでしょ。まあ、死なないと思ってからさ。信頼の証ってやつよ」


「信頼ですか……」


 ルフトは思わず言葉の意味を調べたくなる。

 ただ、怪我を負った訳ではないので問題ないかと考え直した。


 今の乱射で残りのゾンビも片付けられている。

 結果的に迅速な討伐ができたと言えよう。


 ルフトは正門の向こう側の生存者に声をかける。


「魔術学園のルフト・パーカーです。ただいま戻りました。学園長を呼んでいただけないでしょう、か……」


 喋りながら、ルフトは生存者たちの様子がおかしいことに気付く。


「な、なんだ今の動きは……!?」


「……本当に、あいつなのか」


「おいおい、まるで一流の冒険者じゃないか! こんな短い間に強くなってやがる!」


 生存者たちは口々に驚嘆の声を上げる。

 そのすべてがルフトを褒め称え、同時に歓迎していた。


(なんだか……慣れないな)


 たくさんの好意的な視線を受けて、居心地悪そうに照れるルフト。

 彼は頬を掻いて苦笑するしかなかった。

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