第八十七話 最後の決意
ルフトは物陰から北門を窺う。
開けた場所で、倒壊した家屋は撤去されていた。
そして、夥しい数のゾンビによって埋め尽くされている。
ただの人間もいれば魔物もおり、種類は非常に多岐に渡った。
どれだけ少なく見積もっても五百体はいるだろう。
しかも現在進行形であちこちから寄せ集まってその規模を増大させている。
そんなゾンビたちは整列したまま微動だにせず、不気味なほどの沈黙を保っていた。
「こんなにたくさん……」
ルフトは息を呑んで驚愕する。
想像以上の戦力だ。
遠目にも迫力をひしひしと感じる。
(本当に、勝てるのか……?)
これだけのゾンビを実際に前にすると、さすがのルフトも尻込みしてしまいそうだった。
そのかたわらで博士は冷静に観察する。
「ふむ。見たまえ、ウイルス適合者はあのゾンビの大群の最奥にいるようだ。まるで王のようだな」
ルフトは博士の視線を追う。
崩壊した北門の辺りに廃材や建材の山。
圧縮されて積み上げられている。
その頂点に玉座があった。
目を凝らすと、アルディが頬杖を突いて座っている。
(装備がかなり変わっている……?)
元は布の服に革の軽鎧だったが、今のアルディは鈍い金属光沢を放つ青い金属鎧を纏っている。
同じ色の兜も持っていた。
回転刃の魔剣は、そばの廃材に突き立ててある。
博士は顎の触手を撫でながら目を細める。
「あちらも完全武装で臨むようだな。助手、あれらの武具がどのような効果を及ぼすか、分かるかね」
「身体強化と魔術耐性辺りは当然として、形状と素材を考えると魔力の噴出による急加速や盾の生成が考えられます。ただ、他にも機能はあるかもしれませんが……」
「十分だ。さすがは魔術専門の学徒だな。目と知識が優れている」
ルフトを褒めた博士は何気ない動作で物陰から出る。
「ちょ、ちょっと危ないですよ!」
「既に察知されている。こそこそと隠れても無意味だ」
反論を受けたルフトはもう一度アルディを見る。
獰猛な肉食獣のような紫瞳が、じっと二人を凝視していた。
遠目にもはっきりと伝わる殺意と食欲。
その雰囲気は彼が人外であることを如実に物語っている。
「仕方ない、ですね……」
アルディを倒すためにやって来たのだ。
彼が逃げも隠れもせずに待ち構えていたのは、むしろ好都合なことなのだから。
臆病な気持ちを心の奥底に抑え、ルフトは意を決して物陰から出た。




