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第八話 二人目

 翌朝、ルフトは話し合う声で目覚めた。


 身体を起こして確認してみれば、生存者たちが輪を作って議論している。

 その中には学園長の姿もあった。


(何の話をしているのだろう……)


 内容に耳を傾けたところ、これから少数のグループを作って学園内を探索するらしい。

 物資の確保と、まだどこかにいるかもしれない生存者の救出が主な目的だそうだ。

 当分はこの講堂を拠点に、準備が整った段階で学園内のゾンビを一掃するつもりとのことであった。


 話の流れを理解したルフトは、立ち上がって遠慮がちに告げる。


「あの……僕も探索に参加したいです。いいでしょうか?」


 彼の一言をきっかけに場は静まり返る。

 生存者たちは皆、微妙な表情をしていた。

 落ちこぼれで有名なルフトが重要な役目を担うことに不安があるようだ。


 ルフトは怯まずに歩み寄って輪の中に入った。

 そして落ち着いた口調で説明をする。


「僕の召喚魔術なら、大量のゾンビに遭遇しても撃退可能です。一度発動すれば数時間は持続しますし、少人数で動くのに最適かと思います」


 ルフトの言葉を受けて、生存者たちは閉口する。

 講堂前に集まったゾンビを殲滅した実績があるため、反論できる者はいなかった。

 A子が同行するとなれば、いくらゾンビが現れようとも窮地には立たされまい。


 結局、ルフトは探索班に参加する運びとなった。

 生存者たちも心情面より安全を優先したかったらしい。


 話がまとまってきたところで、学園長が手を挙げて注目を集める。


「探索班には防御機構を解く鍵も取ってきてほしい。あれがないと学園内に閉じ込められたままだからね。今後のためにも回収しておきたい」


 現在、魔術学園は緊急時の防御機構が作動していた。

 それによって全ての出入り口が魔術で封鎖されており、外界から遮断されている。


 学園長曰く、防御機構を解除するには鍵の魔道具が必要で、制御室に保管されてあるそうだ。

 鍵さえあれば、学園長が自由に出入り口を開閉できるらしい。


 外からゾンビが侵入できない状態は安全だが、かと言っていつまでも学園内に籠っているわけにもいかない。

 物資だっていつかは尽きてしまうだろう。


 パンデミックの原因を探りたいルフトにとっても、学園を脱出できる手段は早急に確保しておきたいものである。

 学園長の提案は素直にありがたかった。


 こうしてルフトは数人の生存者と共に探索班として学園内を巡ることが決定した。

 目的は各種物資と防御機構の鍵の入手だ。

 迅速かつ確実に、最小限の被害に抑えて遂行せねばならない。


 探索班が出発の準備を進める中、ルフトは床に魔法陣を描いていく。

 講堂の外では、いつどこでゾンビに襲われるか分からない。

 それこそ召喚魔術を使う暇がない可能性だって十分に考えられる。

 下手に魔力を温存するより、予めA子を召喚した方が安全だろうという判断であった。


 周りから刺さる視線に居心地の悪さを感じつつ、ルフトは極力気にしないようにして召喚魔術を起動させる。

 光を風が急速な拡散と収束を経て、魔法陣の上に人影を生み出した。

 今回も上手く発現させられたらしい。

 僅かに安堵したルフトは、魔法陣の上の人物に声をかけようとして止まる。


「え……?」


 そこにいたのは、黒髪の少年だった。

 詰襟の学生服を着ており、顔は狐面に隠れて見えない。

 手には血塗れの鉈を持っている。


 少年は辺りを不思議そうに見回した。

 彼はルフトと視線が合うと、小首を傾げてみせる。


「なんだかよく分からないけど、あなたがボクを呼んだみたいだね?」


 狐面の奥で、小麦色の瞳が妖しく光る。

 同時に心臓を掴まれたような悪寒をルフトは知覚した。


 それはA子を召喚してから何度も味わった感覚。

 彼女がゾンビや人間を殺した際に発散する気配に似ている。


(……やっぱり僕の召喚魔術は、負の適性で成り立っているらしい)


 ルフトは、この狐面の少年がA子と同類に近い存在であることを悟った。

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