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異世界・オブ・ザ・デッド ~才能ゼロの魔術師だけど世界を救いたい~  作者: 結城 からく


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第六十四話 奪還

 疾走するルフトは前方を見据える。


 シナヅが大多数を引き付けているものの、こちらに近付いてくる魔物が数体いた。

 それも当然の話で、こちらには後ろの冒険者も含めれば結構な数の人間がいる。

 魔物からすれば大量のご馳走だ。

 嬉々としてやって来るだろう。


 ルフトは走りながら再び武器を大剣に変える。

 大型の魔物が相手だと、通常の剣と盾ではリーチが足りないと判断したのだ。

 一太刀で切断できるので勝手がいい。

 戦い慣れてきたのか、使い心地も良くなってきたのである。


(これで僕にも特殊能力があればいいのだけれど……)


 ルフトはこれまでに召喚した異世界人の面々を思い出して羨む。


 彼らは皆、一騎当千以上の凄まじい能力を有していた。

 収納の鞄に入れてあるミュータント・リキッドは博士から譲り受けたもので、身に纏うマジカルアーマーもルナリカに施された代物である。

 これらがなければ、ルフトはまともに戦うことができない。


 特殊能力という枠組みで言えば、ルフト自身も負の適性による召喚魔術の行使ができるのだが、本人にはそれがどれだけ稀少ですごいことなのかを自覚していなかった。

 異世界人を呼び出すと性質上、基本的に他人任せになってしまうからかもしれない。

 卑屈になるわけではないものの、間近で異世界人を見ていると憧れや羨望を抱いてしまうのも仕方のないことだ。


 とは言え、ないものねだりをしても意味がないのも事実。

 どれだけ羨んだところで、今の自分の力で戦わねばならない。

 いつまでも学園一の落ちこぼれのままではいられないのだから。


「――よし」


 気持ちを切り替えたルフトは、さらにスピードを上げて魔物に突っ込む。


 ぬめる鱗に覆われた半魚人の魔物――サハギンが頑丈な顎で食らい付いてきた。

 ルフトは突進の勢いを乗せて大剣の刺突を繰り出す。

 切っ先がサハギンの喉奥にぶち当たり、そのまま後頭部まで貫通した。

 血霧が脳漿の破片と一緒になって飛び散る。


「ハァッ!」


 ルフトは即死したサハギンの死体を踏み越えて、上段から大剣を閃かせる。

 稲妻のように打ち下ろされた斬撃は、目前まで迫っていた半身半馬の亜人――ケンタウロスを両断した。


 人間部分の上半身が臓腑を零しながらずり落ちる。

 残された馬の下半身は、蹄の音を立てて少し走ってから崩れた。


 大剣の血を振り払いながら、ルフトは後ろを確認する。


 冒険者たちは雄叫びを上げて付いてきていた。

 怒涛の勢いで突貫するルフトの姿に鼓舞されたようだ。

 士気は天を突かんばかりに上がっている。


 その姿に、ルフトは思わず微笑んだ。


(こんな僕でも希望になれるのか……)


 嬉しくなったと同時に、ルフトは気を引き締めて前を向く。

 ここでやるべきことは敵の殲滅だ。

 勝利の喝采を挙げるのは、その後でいい。


 先陣を切って道を作るルフトは、やがてシナヅのもとへ辿り着いた。

 魔物を斬り倒しながら、ルフトは声を上げる。


「シナヅさん! 冒険者の方々を連れてきました! このまま一気に倒し切りましょう」


『……上出来だ。よくやった』


 返答もそこそこに、シナヅさんは次々とゾンビ化した魔物を打ち倒していく。

 見た目が骸骨なので判別は難しいものの、ルフトにはシナヅの機嫌が良いような気がした。


 その後は大きなトラブルもなくルフトたちは戦闘を継続する。

 集団で固まる冒険者たちも奮闘し、ルフトも彼らのサポートに回って怪我人が出ないように尽力した。

 何より陽動となりつつも遊撃役に徹するシナヅの存在が大きい。

 誰一人として欠けることなく、付近の魔物を殲滅する。


 こうしてルフトは、東門の奪還に成功したのであった。

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