第四十六話 圧倒的蹂躙
(魔法少女……とんでもない存在だな)
ルフトはルナリカの力に恐れ慄く。
暴徒と遭遇した時点で殺戮が始まるのは薄々気付いていたが、まさかここまで圧倒的だとは思わなかったのだ。
博士が使っていたような未知の武器は、離れている敵をあっけなく蹴散らした。
さらに強靭な肉体は如何なる攻撃も弾く。
並大抵の防御力ではない。
魔術強化された矢を額に食らっても無傷なのは明らかに異常だ。
何らかの防御手段を取った雰囲気はなかったので、信じがたいが純粋な身体能力によるものだろう。
「なんかさー、RPGみたいに敵を倒したら経験値とか貰えてレベルアップしないのん? ひょっとしてそういうタイプの異世界じゃない?」
「えっと……よく分からない、です」
意味不明な質問をするルナリカに、ルフトは曖昧な返しをしておく。
文字通り住む世界が異なるのだから、通じない言葉の一つや二つはあるものだろう。
ルナリカも本気で尋ねていたわけではないらしく、それ以上の追及はしてこない。
そんなやり取りをしていると、前方にそびえる暴徒のアジトが騒がしくなる。
先ほどの銃声で異変を察したらしい。
やがてわらわらと暴徒の集団が現れ始めた。
(あ、これはまずいぞ……)
この後の展開を予測したルフトは、そっとルナリカを見る。
機関銃を携えた魔法少女は、据わり切った目で暴徒を眺めていた。
瞳には冷酷な悪意が宿り輝いている。
ピンク色の柔らかな唇が、にんまりと笑みを作った。
「呼んでもないのに追加オーダーが来たよ。いやー、気が利くねー。お姉さん、張り切っちゃう」
ルナリカはぱちんと指を鳴らした。
空いた片手に光が灯って何かを成形していく。
そうして生まれたのは、赤い円柱状の物体。
先端には導火線が付いている。
ダイナマイトだった。
「魔法少女ってホント便利だよねー。とりあえずマジカルって言っときゃ何でもアリみたいなとこあるし」
ルナリカは暴言を嘯きつつ、赤熱したナイフでダイナマイトに着火した。
じりじりと音をさせて導火線が短くなっていく。
「ほれほれ、キャッチボールするよー。私の気持ち、受け取ってねー」
ルナリカは振り被ったダイナマイトを投擲した。
剛速球で放たれたダイナマイトは暴徒の集団に飛び込むと、可愛らしいエフェクトを散らしながら大爆発する。
地響きと紛うばかりの凄まじい衝撃。
ルフトは爆風に吹き飛ばされて地面を転がる。
一方、ルナリカは爆風をものともせずに佇んでいた。
彼女は携帯端末を取り出すと、ダイナマイトの起こした惨状の写真を撮りだす。
暴徒たちは荒れ狂う爆炎に焼かれていた。
炭化した死体は速やかに光の粒子と化する。
生き残っているのはごく僅かな者だけだ。
そんな彼らも甚大なダメージを受けて倒れている。
次々と舞い上がる光の粒子の連鎖に、ルナリカは感心したような声を漏らした。
「おー、これはフォトジェニってやつだわ。なんかよく分からないけど映えてるね、うん」
撮影に満足したところで、ルナリカは機関銃を構える。
彼女はまだ死んでいない暴徒に向けて容赦なく発砲した。
無慈悲な弾丸のシャワーが残る暴徒の命を刈り取る。
「もうちょっとお代わりほしいねー。あと二百人くらい」
外に出てきた暴徒を殲滅したルナリカは、意気揚々とアジトの方へ接近していく。
この勢いで壊滅まで追い込むつもりのようだ。
すると、アジトの窓から暴徒が顔を出して、ルナリカを目がけて一斉に魔術を撃ち込んで来た。
火球や氷の槍、風の刃が襲いかかる。
舞い上がる砂塵。
そこから歩み出てきたルナリカは、まったくの無傷であった。
「いいよいいよー、ナイス反撃。ほんのちょびっとだけ痛かった、気がするかもしれない……ごめんやっぱ嘘。全然痛くなかったわ」
ルナリカは三つの手榴弾を生み出すと、口でピンを引き抜く。
それを魔術師のいる窓に放り込んだ。
数秒後、悲鳴と爆発音が鳴り響く。
何かに引火したのか、アジトが炎上し始めた。
暴徒たちが咳き込みながら外に逃げ出してくる。
ルナリカはそんな彼らを次々と機関銃で撃ち殺していった。
「はいはい、立入禁止だから戻ってねー。不始末で火事を起こしたのなら、ちゃんと消火まで頑張らないと」
アジト前に積み重なっていく死体。
それらは光の塊となって溶けるように消滅していった。
やがて暴徒は一人も出てこなくなり、アジトが全焼する。
どうやらここにいた者たちは殺し尽くしたらしい。
「アンコール、アンコール……駄目だわ、これはガチで出てこないやつだ」
ルナリカが残念そうにしていると、横合いから遠吠えが聞こえてきた。
見れば体長三メートルほどの巨大な狼の魔物がいる。
全身が銀色の硬質な毛で覆われており、パチパチと火花を散らしていた。
目は血走って淀んだ紫色に変色している。
(ゾンビ化したシルバーウルフ! しかも異様な巨躯……もしや群れのリーダー種か!?)
驚くルフトは身構え、収納の鞄からミュータント・リキッドを取り出す。
最終手段に頼ろうと判断する程度の危機を覚えたのである。
シルバーウルフとは雷魔術を操る狼型の魔物だ。
俊敏な身のこなしと獰猛な気性が有名で、歴戦の騎士でも戦闘を避けたいと思うほどに強力な種族として知られている。
そんな魔物がゾンビ化しているのだ。
どれほどの戦闘能力を備えているかなど想像に難くない。
「グルアァッ!」
シルバーウルフは大口を開けてルナリカに跳びかかった。
びっしりと生え揃った鋭い牙。
それがルナリカの肩に食い込み、バチバチと電流を迸らせる。
これがシルバーウルフの得意技だった。
ひとたび牙が触れれば雷魔術が対象を仕留める。
防御されても感電を促し、避けられれば素早さで圧倒できる。
まさに必勝の布陣――そのはずだった。
「かわいいワンちゃんだねー。おー、よしよし」
ルナリカはただの一つも動揺を見せていなかった。
彼女は肩を噛まれたまま、シルバーウルフの腹に機関銃を押し付けて発砲する。
「ギャインッ」
シルバーウルフは悲痛な声を上げて吹き飛んだ。
弾丸を受けた胴体が千切れそうになっている。
鋼鉄の剣や強力な魔術を防ぐ体毛でも防ぎ切れなかったようだ。
「それもういっちょ」
ルナリカは間髪容れずに追加で射撃を行った。
シルバーウルフの頭部が爆散して光の粒子になってしまう。
「あー、ちょっとHP足りないんじゃない? 調整が甘いよね」
機関銃をぶらぶらと揺らしながら、ルナリカは口を尖らせる。
噛まれた肩はやはり無傷だった。
感電によるダメージもなさそうである。
(もう、この人だけで世界を救えるんじゃ……)
ルナリカのあまりの無双ぶりに、そう思わずにはいられないルフトであった。




