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異世界・オブ・ザ・デッド ~才能ゼロの魔術師だけど世界を救いたい~  作者: 結城 からく


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第四十一話 暫しの別れ

 オーガゾンビを倒したルフトと博士は、速やかに宿屋から立ち去る。

 戦いの音に引かれてゾンビが集まり始めていたからだ。


「このっ、邪魔だ!!」


 ルフトは拾った剣と盾でゾンビを蹴散らして道を作っていった。

 オーガゾンビを比べれば容易く倒せる。

 何度も死線を潜り抜けて来たことによって、ルフトの戦闘技術はハイペースで上達しつつあった。


 そうでもしなければあっけなく命を落とす状況なのだ。

 ミュータント・リキッドの効果がなければさすがにここまでの活躍はできないが、それを考慮しても目まぐるしい成長ぶりだろう。


 一方、博士は優雅な足取りでルフトの後を付いてくる。

 彼が戦闘に参加する様子はない。

 両手を白衣のポケットに入れたまま、観光でもしているかのような呑気さで闊歩している。

 やはり必要以上に力を振るうつもりはないらしい。


(もう少し手伝ってくれてもいいんだけどなぁ……)


 迫るゾンビを斬り払いながら、ルフトは密かに嘆息した。


 博士が絶大な力を有していることは既に知っている。

 強力無比なオーガゾンビを片手間に殺せてしまうほどだ。

 未だに能力の底が知れない。


 戦いへの積極性が皆無というのが唯一の難点だろうか。

 とは言え、ルフトが絶体絶命の状況まで追い詰められた際は必ず助けてくれていた。

 彼なりに気遣ってくれているのかもしれない。

 これも”助手の務め”と割り切り、ルフトは奮闘する。



 やがて二人は比較的安全そうな場所まで移動した。

 適当な家屋に入り、室内のゾンビを一掃してから腰を落ち着ける。


「おっ」


 家屋を探索していたルフトは、台所で燻製肉とチーズを見つけた。

 彼は自分の腹を撫でる。


 そういえば随分と食事を取っていない気がした。

 強烈な空腹感を覚えている。

 今にも倒れそうなほどだった。


「…………」


 ルフトは口から垂れた涎を拭う。

 彼は無意識のうちに燻製肉とチーズをスライスして口に運んだ。


 焦って喉に詰まりそうになりながらも咀嚼する。

 何の変哲もない食料のはずなのに、得難い旨みを感じられた。

 一度堰を切ると止まらず、ルフトは次々と食料を腹に収めていく。


 椅子に座ってそれを眺める博士は微笑した。


「再生で消耗したエネルギーを身体が欲しているのだよ。減った分の血肉は自分で摂取しなければいけない。そのままだといずれ動けなくなる。今のうちに補給しておくといい」


 博士の話を半ば聞き流しつつも、ルフトは食べるペースを上げて行った。

 便利な再生能力にもやはり弱点はあったらしい。

 しかし、そのようなことを気にする余裕はなかった。

 食欲を満たすことで必死であった。

 激戦の中で何度も傷付き再生したことで、肉体のエネルギーが枯渇寸前なのである。


 そうして家屋内の食料を粗方胃袋に収めたところで、博士の足元に魔法陣が出現した。

 魔法陣は光を放ちながら渦巻き始める。


 博士は特に顔色を変えずに魔法陣を見つめた。


「名残惜しいが時間切れのようだ」


「博士……何度も助けてくださりありがとうございました」


「いやいや、礼には及ばないよ。私も異世界を楽しませてもらった。困った時はまたいつでも呼びたまえ。率先して力を貸そう。そうだ、君にはこれをプレゼントしよう」


 そう言って博士は三本の注射器をルフトに手渡した。

 すべてに青い液体が入っている。


 ルフトはその正体にすぐに思い至った。


「まさか、これは……」


「手持ちにあるだけのミュータント・リキッドだ。今回、助手として働いてくれた報酬だよ。それを上手く活用して、次に私を呼ぶまで死なないように頑張りたまえ」


 涼やかに微笑しながら、博士は元の世界へと消える。


 残されたルフトはほっと息を吐いた。


「今回もすごい人だったな……」


 白衣を着たタコのような頭部の異世界人。

 彼はルフトが見たこともないような技術を幾度も披露してみせた。

 改めて召喚魔術の効力に恐れ慄く。


「――次はどんな人が来るのだろう」


 体内魔力が回復すればまた召喚魔術を使うことになる。

 少しだけ楽しみにしながら、ルフトは休息を取る準備を始めた。

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