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異世界・オブ・ザ・デッド ~才能ゼロの魔術師だけど世界を救いたい~  作者: 結城 からく


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第四十話 異世界の科学力

 ルフトはオーガゾンビに接近する機会を慎重に探る。

 構えた大剣の重みを感じた。


 通常時ならまず持ち上げられない代物だ。

 だが、ミュータント・リキッドで強化された今の膂力ではちょうどいいくらいであった。

 むしろオーガゾンビの強靭な皮膚を切り裂くにはこれくらいでなければいけない。


(おそらくゾンビ化の影響で肉体が頑丈になっている……かなりの難敵だ)


 元よりオーガは生命力の高さで広く知られている。

 たとえ心臓を破壊されてもしばらくは動けるほどだ。

 それがゾンビに変異したことでさらに長所が伸ばされている。


 ウイルスは宿主の理性を破壊するが、オーガの理性など最初からあってないようなものだ。

 故にゾンビウイルスとの相性はすこぶる良かった。


「グルオオオアァガガッ!!」


 オーガゾンビはルフトに突進すると、頭上から拳を振り下ろした。

 大振りだが脅威のリーチと速度だ。


 回避は難しいと判断したルフトは障壁の腕輪でガードする。


 数百のガラスが同時に割れるような衝突音。

 半透明の障壁がミシミシと軋んでヒビが走る。

 あまりの破壊力に変形していた。

 悲鳴を上げる障壁をよそに、無骨な拳は無遠慮に押し込まれてくる。


 その光景にルフトは驚愕した。


(防ぎ切れない……ッ!?)


 ルフトの眼前でオーガゾンビの殴打が障壁を突破した。

 止まらない拳が一気に伸び迫る。


「うぁっ……!」


 全力で後退したルフトは、紙一重で攻撃を躱した。

 標的を逃した拳が地面に突き刺さる。

 飛び散る石の礫が身体にぶつかってくるも、直撃を受けるよりは万倍もマシだろう。

 障壁で勢いを僅かにでも弱めていなければ危なかった。


 ルフトはオーガゾンビの腕を駆け上がる。

 横合いからの振り払いは跳んで避け、大剣を肩に担いで構えた。


「この、食らえッ!!」


 渾身の力で振り下ろされた大剣。

 青い炎を伴う斬撃が、醜い大鬼の顔面に食い込む。

 額から斜めに入った刃が、片目を潰して鼻の半ばまで達した。


「グルゥアアガギィイイイッ!!」


 凄まじい絶叫。

 反撃を受けたオーガゾンビが荒れ狂う。


 堪らずルフトは振り飛ばされ、数メートル離れた地点に着地した。

 彼は顔を上げて攻撃の成果を確かめる。


「今のは、どうだ……?」


 オーガゾンビは顔面に大剣が刺さったまま暴走していた。

 滅茶苦茶に腕を振るって宿屋を破壊する。

 怒りによるものか、ルフトのことは見えていないようだった。

 ただし、まだ死ぬ気配はない。


 ルフトは険しい表情をする。


(即死させるほどの攻撃を与えなければ……でも、下手に仕掛ければこちらがやられる)


 生半可な攻撃ではオーガゾンビを倒せない。

 地道に削るようでは駄目だ。

 こうしている間にも他所からゾンビが寄り集まってきているだろう。

 そうなれば殲滅は極めて難しい。


 かと言って、オーガゾンビを放置して逃げるのは危険すぎる。

 ここでなんとか倒さなくてはならない。


 ルフトは口から垂れる血を拭う。

 彼の視線はオーガゾンビの顔面に注目していた。


(あの大剣をさらに押し込むか、傷口から脳を破壊しよう。まずはもう片方の目を潰して視界を奪うしかない……)


 ルフトは冷静に敵を倒す算段を付けた。

 内から湧き上がる殺意の衝動は気力で抑制する。


 どうたらミュータント・リキッドの副作用らしい。

 二度目の投与で効果が強まっているのか。


 気を抜けば何も考えずに突貫しそうだった。

 血の香りがくらくらするほどに脳を刺激する。

 精神が戦いに酔い痴れていた。

 変貌しつつある自身に戸惑いながらも、ルフトはオーガゾンビに立ち向かおうとする。


 その時、半壊した宿屋の屋上にゆらりと人影が現れた。

 人影は眼下で暴れるオーガゾンビを一瞥する。


「やれやれ、騒がしいと思ったらこんな怪物が来ていたのか……ふむ、人間の感染者よりもウイルス濃度が高い。個体特有の頑強さのおかげで急速な変異にも耐えられているのか。なかなかに興味深い」


 冷静な声音で考察を述べるのは博士であった。

 彼の両手と白衣は血まみれになっている。

 メスを握っているので、何らかの実験や検証を行っていたのかもしれない。


「グギアアャアアァァッ」


 新たな獲物を発見したオーガゾンビは、足元の木材を投げ付ける。

 豪速で宙を切る木材はしかし、博士の手前で急に軌道が逸れると、明後日の方向へと飛んで行った。


 明らかに不自然な挙動だ。

 当の博士は欠片の動揺も見せずに微笑する。


「まったく、野蛮な暴力で私を殺せると思わないことだ」


 博士が腕を振ると、オーガゾンビが宙に浮かび上がった。

 突然のことにオーガゾンビはもがく。

 しかし、些かの抵抗にもなっていない。


 やがてオーガゾンビは地上から十メートルほどの高さで静止した。

 博士はそれを見上げながら告げる。


「異世界の科学を存分に味わいたまえ」


 オーガゾンビからメキメキと不気味な音が鳴りだした。

 それは次第に大きくなり、巨体が歪な形に折れ曲がり始める。


 皮膚を突き破って飛び出る骨。

 噴き出した血は落下せず、オーガゾンビの身体に纏わり付いていく。


「グルギャヤヤァアアアッ」


 おぞましい咆哮を放つオーガゾンビ。

 その首がぎゅるりと百八十度回転した。


 刺さったままの大剣は割れて粉々になる。

 手足も捩れて折り畳まれる。

 オーガゾンビの原型がなくなりつつあった。

 巨躯が段々と小さくなっていく。


 そうして謎の現象が進むこと二十秒。

 ついにオーガゾンビは直径数センチの赤黒い球体になってしまった。

 不可視の力によってそこまで圧縮されたのだ。


 糸が切れたかのように落下するオーガゾンビの球体。

 ぺちゃり、と音を立てて地面にぶつかって弾けた。

 小さな血だまりだけが残される。


 屋上から軽々と飛び降りた博士は、ルフトの前で平常通りに説明する。


「見えざる手、と私は呼んでいる。網膜に装着した装置で、視界に映った物質の重力エネルギーの強さと方向を操作できる兵器だ。有効範囲が狭い代わりに出力は高めに設定されている。今のように全方向からプレスすれば、あっという間に肉団子ができるという寸法さ。攻防共に活用できるので便利だよ」


 そう言いながら博士はオーガゾンビの残骸を採取する。

 異世界のサンプルとして持ち帰るつもりなのだろう。


「…………」


 無言で頬をぽりぽりと掻くルフト。

 彼はなんとなく居心地が悪そうに尋ねる。


「あの…………僕が戦う必要ってありませんよね?」


「何を言っているのだ。私の手を煩わせないのが助手の務めだろう。勘違いされては困る」


「す、すみません……」


 結果的に助けてもらったのだからいいだろう、と思考放棄するルフトであった。

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