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第四話 生存者発見?

 ルフトとA子は移動を再開した。

 他の生存者との合流はあえなく失敗したが、いくら悔やんでも仕方がない。

 ひたすら前に進むしかないのである。


「ほらほら、餌だぞー。たんとお食べよー」


 吹き抜けから階下を見下ろすA子は、ぶつ切りの肉塊を投げ落とす。

 すると匂いに釣られたゾンビが次々と現れ、我先にと肉を食らい始めた。

 呻き声の合唱が室内を反響している。


 A子がゾンビに与えたのは、彼女が斬首した女子生徒たちの死体だ。

 ロングソードでせっせと解体したのである。


 世にも残酷な行為にルフトは再び吐き気が込み上げたが、A子に「これも安全な移動のためだよ」と説明されたので口出しは控えていた。

 実際、移動中に転々と死体をばら撒くことで、ゾンビとの遭遇率は減っている。

 倫理に反しているものの、囮としては上手く機能しているらしい。


 とは言え、心情的に我慢できるかは別の話だ。

 ゾンビに新鮮な肉を配って回るA子の姿に、ルフトは思わず嘆く。


「ああ、本当に悪夢だ……」


「なんでさー。ゾンビパラダイスなんて滅多に味わえないよ? テンション上がらない?」


「生憎と全然上がりませんね」


 ルフトは、A子との価値観の共有を諦める。

 彼女は異世界人なので、諸々の考えや常識が違うのだろう。

 下手にこちらの主張を押し付けても軋轢を生むだけだ。


 A子の機嫌を損ねてはいけない。

 このゾンビだらけの学園を堂々と移動できるのは、彼女がいるおかげなのだから。

 結局、ルフトも自分の命が大事なのだ。


 その後も二人は危なげな場面もなく、生存者のいそうな場所を巡り続ける。

 すると、大扉に押し寄せるゾンビの群れを発見した。

 どう見積もっても数十体はいる。

 後方のルフトたちには見向きもしない。


 ゾンビが集まっているのは講堂だ。

 普段は講演等で使われる。

 広さ的にかなりの人間を収容でき、実技授業で使われることもあるのでいくつかの魔道具が保管されていた。

 そういった用途もあるので、耐久性も申し分ない。


 ここも籠城するのに適した場所だった、とルフトは今更ながらに思い至る。

 講堂にあれだけのゾンビが群がっているということは、中に生存者がいるのだろう。


 ルフトは小声でA子に尋ねる。


「さすがにあの数は倒せませんよね……?」


 A子はあっさりと答えた。


「楽勝でしょー。なんなら殺ってこようか?」


「じゃ、じゃあ、お願いします」


「かしこまりー!」


 嬉々として敬礼をしたA子は、獰猛な笑みを見せながら走りだした。

 そのままゾンビの群れに近付くと、ロングソードを横殴りに振るう。


 暴風のような一撃は、軌道上にいたゾンビの真っ二つにした。

 血と臓物を撒き散らしながら、ゾンビたちの上半身がずれて落ちる。


 A子は身体を回転させてロングソードを制御すると、今度は大上段から斬りかかった。


「ヒューッ、貧弱だねぇッ」


 初撃の勢いを乗せたそれは、あっさりとゾンビを縦半分に切り裂いた。

 勢い余った刃先が床に激突して欠けるも、A子は特に気にする様子もない。

 返り血を浴びる彼女の動きはさらに加速する。


 A子は低い姿勢でゾンビの足元を駆け抜けて行く。

 同時にロングソードを使うのも忘れない。


 ゾンビたちは次々と腰や足首や膝を切断され、為す術もなく転倒した。

 痛がる素振りは見せないが、立ち上がれずに呻いている。

 何体かは腕の力で這いずり始めた。


 そんな彼らを、A子はハイテンションで仕留めていく。


「よいしょ、よいしょ、楽しいなぁ」


 A子はリズムよくゾンビの頭部を踏み潰し、ロングソードでかち割り、首を刎ねる。

 豪快かつ的確な攻撃は、着々とゾンビの数を減らしていく。


 無事なゾンビがA子に襲いかかるも、あえなく斬り殺されてた。

 まるで隙だらけのように見える彼女だが、全身に目があるかの如く反撃する。

 数の利など、A子の前では塵芥と同義であった。


 そうしてものの数分もかからずに講堂前のゾンビは一掃される。

 A子はすっきりとした顔でロングソードの血を振り払った。

 水色のジャージは返り血で元の色が隠れつつある。


「相変わらず滅茶苦茶だ……」


 一連の殺戮を陰から見守っていたルフトは、吐き気を我慢しながらつぶやく。

 このスプラッターな光景にはなかなか慣れない。

 それでもA子のおかげで助かっているのもまた事実。

 ルフトだけでは、ゾンビ一体すら倒せるか怪しいところである。


 戦闘が終了したのを確かめたルフトは、そそくさとA子のもとへ行こうとする。

 しかし、後ろからケープを引っ張られたことで足を止めた。

 彼は怪訝そうに振り返る。


 そこにいたのは、片腕を失った一体のゾンビだった。

 ケープを掴んだゾンビは、その怪力でルフトを押し倒す。


「うわっ……!?」


 驚愕するルフトは、反射的にゾンビの額を押して遠ざけようとする。

 噛まれたり引っ掻かれたりされれば終わりだ。

 これまで見てきた犠牲者と同じ運命を辿ることになる。


「ググゥ……」


 喉を鳴らしてルフトに噛み付こうとするゾンビ。

 濁り切った双眸からは、知性の欠片も見受けられない。

 全身には無数の傷跡が残っていた。

 目の前のゾンビも、悲惨な最期を迎えた末に怪物の仲間入りを果たしたようだ。


(痛かったんだろうな……かわいそうに)


 絶体絶命の状況にも関わらず、ルフトは見当違いのことを考える。

 ある種の現実逃避に近いのかもしれない。

 両者の力の差は決定的で、黄ばんだ歯が徐々にルフトの首筋に迫りつつある。


「も、もう駄目、だ……!!」


 渾身の力も虚しく、ついには諦めかけるルフト。

 噛み付かれるその寸前、鈍い音と共にゾンビの姿が消えた。


 驚いたルフトは顔を上げてゾンビの行方を探す。


「まだ残ってたんだ。こりゃ油断したね」


 苦笑するA子が床に転がるゾンビを踏み付けていた。

 どうやら彼女がゾンビを蹴飛ばしてルフトを助けたらしい。


 ルフトは咄嗟に自分の身体を確かめるも、怪我一つしていなかった。

 掴まれたケープが破れたくらいである。


 A子はそのままロングソードでゾンビの頭を叩き割った。

 彼女は随分と晴れやかな表情でルフトを見ると、ぱちりとウインクをする。


「ギリギリセーフ、ってね。大丈夫?」


「あっ……いや、その……大丈夫です、はい」


 ルフトは目を逸らしながら頷くしかなかった。

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