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異世界・オブ・ザ・デッド ~才能ゼロの魔術師だけど世界を救いたい~  作者: 結城 からく


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第三十二話 落ちこぼれの覚醒

 ルフトはゾンビに向かって駆け出した。

 同時に彼は、身体の軽さに驚く。

 普段ではとても考えられない。

 思った通りの動きが滑らかにできる。

 やはり肉体が強化されているらしい。


(今なら僕でもA子さんや稲荷さんみたいに……!)


 ルフトは、力一杯に斧を振り下ろす。


 無骨な刃がゾンビの頭部を叩き割った。

 弾けた血と脳漿がルフトの頬を濡らす。

 脳を木端微塵にされたゾンビは倒れて動かなくなった。

 明らかな即死である。


 間を置かず、左右から二体のゾンビが襲いかかってきた。


「……遅いッ」


 ルフトは迫る腕を掻い潜り、一体の衣服を掴む。

 そのまま力任せに引っ張ってもう一体に叩きつけた。

 二体のゾンビは抵抗もできずに転がって倒れる。


 そこへルフトは駆け寄り、斧で頭部を破壊した。

 為す術もなく痙攣するゾンビたち。

 数秒もせずに動かなくなる。


 それを目にしても、ルフトは不思議と気分が悪くならなかった。

 むしろ爽快感すらある。


 今まで逃げることしかできなかった無力な自分が、圧倒的な力でゾンビを屠っているのだ。

 嬉しく思うのも当然だろう。


 確かな力を実感しながら、ルフトはさらに一体のゾンビへ接近する。

 そして相手が反応する前に腹を蹴り上げた。


 宙に浮いたゾンビは天井にぶつかる。

 落下してきたところで、ルフトは斧を薙いだ。

 狙い澄ました一撃は、的確にゾンビの首を刎ね飛ばす。

 ルフトはすぐに飛び退いて返り血を避けた。


 A子の動きを真似たものだ。

 斧の扱いに関しては、稲荷の鉈を参考にしていた。

 彼なりに異世界人の立ち回りは観察して学んでいたのである。


 ルフトは残る一体のゾンビに目を向けた。

 理性のないゾンビは、この状況でも遅々とした速度でルフトに歩み寄ってくる。

 純粋な食欲に衝き動かされていた。


 ルフトはゾンビを少し哀れに思いながらも距離を詰める。

 豪快な噛み付きを躱し、壁を蹴って跳び上がった。

 そこから渾身の力で殴る。


 打ち込まれた拳がゾンビの無防備な顔面に炸裂した。

 ゾンビは一直線にバリケード跡を抜けて、外の通りまで吹き飛んで行く。

 拳を受けた顔面は陥没しており、原型を留めていない。

 起き上がる気配もなかった。


「はぁ、はぁ……僕でもやれるんだ……」


 ルフトは、軽く乱れた呼吸を整えて肩の力を抜く。


 何とも言えない充足感に満ちている。

 自分の力で初めてゾンビを倒し切ったのだ。

 ある種の感動すら覚えていた。


 そこに拍手が鳴り、ルフトを我に返らせる。


 博士だ。

 結局、彼は最後まで傍観を貫いていた。

 やはり直接戦うことを好まないのかもしれない。

 涼やかに笑う博士は、両手を広げて語る。


「ミュータント・リキッドの効き目はどうかね? ュブァリド星人の髄液を主原料に、異能力者の血液や大脳、人面鯨の眼球の抽出液等をブレンドした新作だったのだが。体内に注入することで、一時的に強化人間になれる優れものだ。戦闘意欲を掻き立てるための各種精神操作系の薬剤も二百種類ほど混ぜてある。まだ試験段階で、人間に使うのは初めてだったが、上手く作用したようでよかったよ」


「そ、そうですか……」


 博士の説明を聞いて、途端に気分が悪くなるルフト。

 話の大半は理解できなかったが、何やらとんでもない代物を体内に注射されたことだけは察した。


「そうだ、君が望むのならば、他の試薬の効果も確かめさせてほしい。異世界の人間にどれほどの効果があるのか実に興味がある。いや、そもそもこの世界の人間が私の世界の人間と同じ体内構造なのかを先に調べねば。まずは適当な人間を捕獲してから解剖して……」


 ルフトはそっと耳を塞ぎたくなった。

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