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異世界・オブ・ザ・デッド ~才能ゼロの魔術師だけど世界を救いたい~  作者: 結城 からく


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第三十一話 異質な力

「では、最初の質問をしよう。君が私を呼び出した理由とその手段を教えてほしい」


 博士の疑問に、ルフトは素直に事情を話した。


 この世界は感染するゾンビの脅威に晒されていること。

 いずれ人類が滅亡する危険があること。

 ルフトはそれを阻止するために旅を始めたこと。

 そして召喚魔術のことも話す。


 隠し事はしなかった。

 下手な誤魔化しは信頼を失いかねないからだ。

 とにかく誠実さが大事だ、とルフトは考えていた。


 顎下の触手を動かしながら、博士はスッと目を細める。

 どうやら笑ったらしい。

 頭部がタコ状の異形な上にガスマスクを装着しているせいで、表情がとても読み辛くなっている。


 彼は機嫌よく額を撫でた。


「魔術の概念が一般化している世界とは。なかなかに素晴らしい。研究のし甲斐がありそうだよ」


「では、協力してくださりますか……?」


「いいとも。任せたまえ。その代わり、君には私の手伝いもしてもらうがね」


「……分かりました」


 ルフトは神妙に頷く。


 内容不明の手伝いを安請け合いすることには不安が残るが、博士の協力なしに進むことはできない。

 現在のこの町はゾンビと暴徒の蔓延る危険地帯なのだ。

 一人で備えもなく歩くことは不可能に近い。


(さて、これからどうするか……)


 店内の魔道具の物色を始めた博士をよそに、ルフトはふと考える。


 A子がいない今、直近の目的であった暴徒の殲滅を敢行すべきなのか。

 ただ町から脱出するだけならば、あえてリスクを冒して敵対しに行く必要もない。


 しかし、暴徒を野放しにすると無用なトラブルに巻き込まれる懸念もあった。

 彼らがいつ学園に目を付けて襲撃するかも分からない。


 ルフトが今後の方針に迷っていると、入口から物音がした。

 見れば数体のゾンビがバリケード跡から侵入してくる。

 一連の騒ぎに引き寄せられてきたようだ。


「暴れた上に長居しすぎたか……」


 ルフトは物陰に隠れながら焦る。


 ゾンビがバリケード跡にいるせいで外に出られない。

 なんとか別の出入り口を探してやり過ごす必要があった。


 一方、博士は招かれざる侵入者たちを興味深げに眺めている。


「ほうほう、これが噂のゾンビか。ウイルス兵器の感染者といったところだね。細胞が秒単位で進化している。ただし、肉体がそのスピードに付いて行けずに崩壊しているようだ。確かに殺戮手段としては手頃だが、コントロールが効かない欠陥品と言えるだろう」


 饒舌に語られる博士の評価。


 今のルフトには返事をする余裕もない。

 じりじりと店内のすみへと追い詰められていく。


「くっ……!」


 ルフトは足元の斧を手に取る。

 何か手元にないと不安だったのだ。

 場合によっては、これで戦うことになる。


 その様を見ていた博士は、呑気に話しかける。


「何を怯えているのだね?」


「だって、傷を受けたらゾンビになってしまうんですよ……! それに僕には戦う力がありません」


 戦えないからこそ、ルフトは召喚魔術に頼り切っている。

 自衛できれば苦労しない。


 声を潜めて答える彼に、博士はあっさりと告げた。


「なんだ、そんな下らないことで悩んでいたのか。安心したまえ、今の君なら問題なく戦えるだろう」


「……どういうことですか?」


「訊くよりも先に試してみるといい。百聞は一見に如かず、だよ」


 カウンターに腰かけた博士は悠々と微笑む。

 加勢するつもりはないらしい。

 A子や稲荷と違って、積極的に殺しをしたいわけではないようだ。


(クソッ、やるしかないのか……!)


 戦う意志の無い博士を目にして、ルフトはいよいよ覚悟を決める。


 人間は殺したが、まだゾンビを殺したことはない。

 躊躇いはもちろんある。

 噛まれたり引っ掻かれたりすればゾンビの仲間入りを果たすのだから。


 しかし、そんなことでは今度もやっていけない。

 ルフトは慎重な足取りでゾンビと対峙する。


「怯えるな……ここで倒すんだ」


 震える声でルフトは自分に言い聞かせた。

 やはり恐怖心を感じる。

 それを精神力で抑え込んだ。


 直後、一体のゾンビが掴みかかってくる。

 距離を取ろうとしたルフトは、そこである異変に気付く。


(動きが遅く感じる……?)


 ルフトの視界では、ゾンビの動きがスローモーションのようになっていた。

 集中すればするほどそれが顕著になる。

 欠伸でも出そうなスピードだ。


 ルフトは訝しく思いながらも迫る両手を避け、ゾンビに前蹴りを放つ。

 靴の爪先から伝わってくる衝撃。

 蹴りを食らったゾンビが吹き飛び、床をバウンドしながら壁に激突した。


 ゾンビは半身が千切れた状態で呻いている。

 手足が滅茶苦茶に折れており、とても動けそうにない。


 予想外の事態に、ルフトは困惑する。


「今の、力は……?」


「だから大丈夫だと言ったろう。ほら、さっさと倒したまえ。私は早くサンプルが欲しいのだよ」


 後ろから野次を飛ばす博士。

 この結果を当然として見ていたようだ。


 ルフトは直感的に理解する。


「さっきの注射が原因か……」


 瀕死だったルフトを瞬く間に修復した青い液体。

 傷を治すだけではなく、どうやらとんでもない副次的効果も秘めていたらしい。


「――いける」


 残るゾンビは五体。

 全身に漲るエネルギーをはっきりと感じられる。


 ルフトは斧を握る力を強めた。

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