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異世界・オブ・ザ・デッド ~才能ゼロの魔術師だけど世界を救いたい~  作者: 結城 からく


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第二十六話 開戦の合図

 移動を開始したルフトとA子は、細長い路地裏を歩いていた。


「ひゃっほーい」


 気の抜けた声と共に、A子が腕を振るう。

 横殴りの金槌がゾンビの側頭部を粉砕した。


 血肉と骨片が弾けて散る。

 大きくよろめくゾンビだが、それでも動きを止めなかった。

 生命活動を停止するほどのダメージではなかったようだ。

 ゾンビは食欲のままに掴みかかろうとする。


「あらよい、さっ」


 A子は驚いた風もなくゾンビの腕を避けると、包丁による刺突を繰り出した。

 刃先が無防備な喉頭を抉る。

 鮮血を迸らせながら、あえなくゾンビは倒れた。


 A子は凶器の血を振り払いながら笑う。


「いやー、この世界は最高だね。ずっと居座りたくなるよ。そういう魔術はないの?」


「一応ありますが、古代の秘術のような扱いですね。使える人はいないと思います……」


 ルフトは顎を撫でつつ苦笑する。


 この世界では、そもそも召喚魔術の適性を持っている者が非常に珍しい。

 適性がなければ魔術は発動しない。

 加えて召喚魔術自体が古代の遺産という扱いで、現存する魔法陣や詠唱が少なかった。


 ルフトの場合は例外で、適性がなさすぎるが故に魔術が歪んだ形で発現している。

 それでも霊獣召喚を行使できるルフトは異常なのだ。

 当の本人には自覚はないものの、魔術の難易度としては最高峰と言ってもいい。

 才能がないと知りながらも、日々たゆまぬ努力を続けた彼だからこそ、掴み取れた結果だろう。


 ちなにみにA子の希望する永続的な召喚を可能としたのが勇者召喚の魔術だが、それが異世界からウイルス感染したゾンビを呼び出して此度の災厄を発生させたのは言うまでもない。

 別次元に干渉するという性質上、召喚魔術は常にリスクを伴うのだ。

 どのみち未熟な者が軽々と使ってもいい類ではなかった。


 A子は残念そうな顔をする。


「そうなんだー。まあ、ルフト君がちょくちょく呼んでくれればいいかなぁ」


 肩を落とすA子に、頭上から獣人族のゾンビが跳びかかってきた。

 どうやら建物の窓から下りてきたらしい。


「なっ!?」


 完全なる奇襲に硬直するルフト。

 それとは対照的に、A子は流れるような動作で後ろ回し蹴りで迎える。


「よいしょっ」


 綺麗な弧を描いたスポーツシューズが、大きく開いた顎に炸裂した。

 回転しながら吹っ飛んだゾンビは壁にぶつかって倒れる。

 そこにA子が近付き、瓦礫で頭部を破壊した。


 痙攣するゾンビから目を離し、A子は頬に付いた返り血を拭い取る。

 彼女は何事もなかったかのように瓦礫を捨てると、朗らかな笑みを浮かべた。


「さてさて、雑談は終わるかな。目的地に着いたみたいだねー」


 A子の視線の先には魔道具専門店があった。

 杖のイラストが描かれた看板を掲げている。


 大通りに面した場所で、立派な店構えをしている。

 元は人気店だったのだろう。


 周囲には不自然なほどにゾンビがいなかった。

 魔道具専門店を拠点とする暴徒が定期的に仕留めているのかもしれない。


 店内の様子は窺えず、入口が何枚もの鉄板で塞がれていた。

 ゾンビの侵入を防ぐバリケードだろうか。

 人間の出入りする場所は別に設けてあるらしい。


 路地から観察するルフトは、護身用の杖を強く握り締める。

 今から明確な意志を以て人間を殺しに行くのだ。

 緊張しないはずがない。


 今までにも何度か人間とは戦っているが、こちらから率先して襲撃したことはなかった。

 鼓動が煩わしいほどに激しく、呼吸も自然と早くなる。


 彼は声を潜めてA子に尋ねた。


「見張りはいないみたいですね……どうしますか」


「もちろん堂々と殺しに行くよ。たぶんお店の中にいるだろうからねー」


 いつも通りのテンションのA子は、メイスを腰に吊るしてあったメイスを手に取った。


 それは暴徒から奪ったものだ。

 込められた魔力を蓄え、それを消費することで攻撃の威力を上げる魔術武器である。

 内部に術式が刻まれた高級品で、広義では魔道具の一種に属する。


「あんまりコントロールに自信がないけど、どうなるかなぁ」


 A子はメイスを振り被ると、そこから一気に投擲した。

 真っ直ぐに飛んで行ったメイスは、凄まじい音を立ててバリケードを貫通する。


 ひしゃげた鉄板が次々と外れて落ちる。

 バリケードは衝撃で大きく損傷しており、防衛機能がほとんど失われていた。

 今なら外から侵入することも容易い。


 魔道具専門店の中が、にわかに騒がしくなり始める。

 突然、バリケードが破られたせいで混乱しているようだ。

 まさか真正面から一瞬で突破されるとは思っていなかったらしい。


 騒ぐ声には悶絶に近い悲鳴も混ざっていた。

 室内に飛び込んだメイスで被害を受けた者がいるのだろう。


 見事な先制攻撃を行ったA子は、満足そうに伸びをして包丁を握った。


「そんじゃ、殺りに行こうか。ねっ、ルフト君?」


「……そうですね、行きましょう」


 ウインクをするA子に、ルフトはなんとか首肯を返すのであった。

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