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異世界・オブ・ザ・デッド ~才能ゼロの魔術師だけど世界を救いたい~  作者: 結城 からく


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第二十四話 異世界人の提案

 拷問された男は、あっさりと知っていることを吐いていく。

 それも当然だろう。

 A子によって与えられる苦痛は尋常なものではない。

 忍耐力で口を紡ぐのは不可能に近い。


 加えて彼女が仲間を惨殺するのを目の当たりにしてきたのだ。

 素直に情報提供することで万に一つでも助かる可能性があるのなら、それに賭けたくなるのが人間だろう。


 A子はハサミを開閉して遊んでいる。

 彼女の手には、血塗れの肉のようなものが握られていた。

 よく見れば人間の耳や指だと分かる。


 切り取ってきたそれらを捨てたA子は、椅子に拘束された男の頭を優しく撫でる。


「よしよし、君は賢いねー。ちゃんと喋ってくれて偉いよ」


「うぅ……」


 男は涙を流しながら弱々しく呻く。

 もはや反抗する気力は失われているようだった。

 出血量の関係で、そもそもまともに思考できているかも怪しい。


 そんな男に、A子は温かな口調で語りかける。


「知ってることを全部教えてくれたら逃がしてあげるからねー。ほらチョキンチョキン」


「――――ぐッ!?」


 ハサミが動き、男が目を見開いて歯噛みする。

 ぼたぼたと溢れて垂れる血液。

 椅子の下に赤黒い染みを広げていく。


 少し離れた場所に立つルフトは、咄嗟に目を逸らして顔を顰めた。


(これからは、軽率に情報が欲しいなんて言わないようにしよう……)


 情報収集のたびに拷問が始まると、もれなくルフトの心が持たない。

 相手はこの状況下で悪事を働くような人間だが、それにしても残酷すぎる仕打ちである。


(……ただ、町の現状が知れたのは大きいな)


 ルフトはちらりとメモを見る。

 A子の貢献により、町に関する様々な情報が手に入った。


 なんでも区画によって状況が異なり、場所によって安全さに幅があるらしい。

 たとえば、ルフトたちのいるエリアは、暴徒の集まる地下アジトが点在するそうだ。

 男たちが地上にいたのは、物資の補充のためとのことだった。


 暴徒のエリアは、地上をゾンビが徘徊しているものの、集団行動をする生存者たちが着々と倒しているそうだ。

 他者と結託して動けば比較的安全な場所と言える。


 逆に一番危険なのは町の門付近だ。

 強力なゾンビの魔物が出入りしており、とても近付くことができないのだという。


 これが生存者たちの脱出の妨げとなっていた。

 外へと繋がるエリアをゾンビに占拠されていては、内側にひっそりと籠って生きるしかあるまい。

 故に生存者たちは巧みに身を隠し、魔物の脅威の及ばない場所を生活圏としていた。


 ルフトはメモから視線を上げて考える。


(このエリアは危険だ。暴徒の拠点からは離れた方がいい)


 現在地は常に人間との殺し合いが想定される。

 好んで長居する場所でもないだろう。


 ルフトが手書きの地頭で移動ルートを検討していると、後ろからA子がメモを覗き込んできた。

 彼女は興味深そうに眺めた末、薄い微笑みを見せた。


「あのさ、悪党退治やってみない? 近所のアジトを片っ端から襲撃してさ」


「……言うと思いましたよ」


 ルフトはやや呆れた風に苦笑する。

 悪党対峙などと言っているが、A子は単に人間を殺しまくりたいだけなのだ。

 ルフトを説得するために、都合のいい大義名分を並べただけである。


(とは言え、A子さんのやり方も一理あるんだよな……)


 ルフトはさらに思考を巡らせる。

 暴虐極まりないA子の殺戮計画だが、決して無駄なものではない。


 ゾンビパンデミックという状況下で暴徒の存在は看過できない危険要素だ。

 先ほどのように町中を歩いているだけで略奪してくるような人種である。

 放っておくことで、他の善良な生存者が被害を受ける可能性が多いに考えられた。


(リスクの軽減だ。A子さんの力があれば十分に可能だし、欲求不満で急に暴れ出すことだって少なくなる……はず)


 いくつかのメリットも列挙して、ルフトは心を無理やりに納得させる。

 これから人間を虐殺しに行こうと言われているのだ。

 二つ返事で呑み込むことはできない。


「ねぇねぇ、いいじゃーん。町のヒーローになろうよー」


「わ、分かりましたから……悪党対峙、行きましょう」


「そうこなくっちゃ! さっすがルフト君だねっ」


「うわっ、ちょっと!?」


 満面の笑みのA子に抱き付かれるルフト。

 顔を赤くした彼は、慌てふためき身を硬くする。


 こうして暴徒殺戮は実行される運びとなった。

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