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異世界・オブ・ザ・デッド ~才能ゼロの魔術師だけど世界を救いたい~  作者: 結城 からく


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第二十二話 無力な彼

「あっはぁ! お命いただきィッ」


 勢いよく飛び出したA子、剣を持った男に殴りかかる。

 金属バットによる真正面からの振り下ろしだ。

 駆け引きや技術を放棄した力技だが、食らえばただでは済まされない。


「ぐっ!?」


 予想外のスピードで放たれた一撃に、男は咄嗟に剣で受け止める。


 響き渡る甲高い金属音。

 剣先が折れ、勢い余った金属バットが男の鎖骨を叩き折る。

 男は悲鳴を上げて怯む。


 A子は続けざまに金属バットをスイングして男の側頭部を殴った。

 兜が豪快にひしゃげ、中身がはみ出してくる。


 男は糸の切れた人形のように倒れた。


(A子さんの心配……はしなくていいかな。問題はこっちか)


 ルフトはちらりと後方を窺う。


 そこには二人の男がいた。

 A子の殺戮に逃げ腰になっているものの、まだ背中を見せそうにない。

 むしろルフトに攻撃しようという気配すら感じられる。


 どうやら彼を人質にするつもりのようだ。

 随分とリスキーな判断だが彼らなりの結論であり、被害を受ける側のルフトに文句を言う資格はなかった。


(こうなったら自力でなんとかするしかない……)


 覚悟を決めたルフトは杖を構える。


 その途端、二人の男は武器を持って突進してきた。

 魔術行使を警戒しての行動だろう。

 距離を取ったままだと魔術による遠距離攻撃で一方的な苦戦を強いられる。

 詠唱が始まる前に仕留めようという魂胆のようだ。


 男たちの動きに、ルフトは背筋が寒くなるのを感じた。


(やはり戦い慣れている……!)


 初歩的な戦闘知識は魔術学園でも習ったが、所詮ルフトはただの学生に過ぎない。

 こういった人間同士の戦いなどまるで素人である。


 相手はおそらく傭兵か冒険者だろう。

 日頃から自らの腕だけで生き抜いてきたような人種だ。


 ルフトが勝てるわけがない。


(このままだとまずい!)


 焦るルフトは苦し紛れに後退する。


 しかし、男たちはそれ以上のスピードで接近してきた。

 男の一人がメイスで殴りかかってくる。


 ルフトは反射的に障壁の腕輪を起動させた。


 目の前に半透明の壁が展開する。

 メイスが触れた瞬間、衝撃が跳ね返って持ち手の男が大きく仰け反った。


「うおぉ!?」


「今だッ」


 ルフトはこれを絶好のチャンスと見て杖を掲げた。

 そのまま怯んだメイス使いに向けて振り下ろす。


 杖の先端が兜に衝突し、メイス使いが倒れた。

 ルフトは手が痺れて杖を取り落とす。


(効いたか……!?)


 密かに期待を寄せるルフト。


 しかし、メイス使いは平然と身を起こした。

 彼は自身の兜を軽くノックする。


「ああ、驚いた。魔道具持ちだったか。ただ、力が弱すぎるぜ。てっきりそよ風が当たったのかと思っちまった」


「お前は油断しすぎだ。手練れだったら死んでいたぞ」


「まったくだ」


 もう一人の男がメイス使いを引っ張って立ち上がらせる。


 メイス使いは障壁に触れて表面の焦げたメイスを拾い上げた。

 冷徹な視線がルフトを射抜く。


「さて。きっちりとお返しをしないとなぁ?」


「く、くそ……」


 たじろぐルフト。

 彼の力では男二人は倒せない。


 まだ障壁の腕輪は使えるが、それがいつまで持つか。

 相手もそれを見越して対策を打ってくるかもしれない。


 男は嗜虐的な気配でメイスを振り被る。

 ルフトが絶望を感じたその時、彼の真横を何かが掠め飛んだ。


「……ぐぇ」


 メイス使いが奇妙な声を漏らす。

 その喉元に、深々と包丁が突き刺さっていた。


 メイス使いは膝から崩れ落ちて絶命する。


「はい、今のは十点。楽しいねー」


 背後から声がした。

 ルフトは正体を知りながらも振り返る。


 A子が投擲ポーズを解いたところだった。

 彼女が包丁を投げたのである。


 彼女のそばには新たな死体が出来上がっていた。

 ひん曲がった金属バットが口に突っ込まれて死んでいる。


 A子は悠々とメイス使いの死体に近寄って包丁を抜き取った。

 傷口より迸る血飛沫。

 その一部を浴びながら、A子は最後の一人を見て笑う。


 残された男は呆然と座り込む。

 あまりの恐怖に腰が抜けたようだ。

 反撃する気力はないらしい。


 A子が包丁を繰り出す寸前、ルフトが彼女の服を引っ張る。


「そ、その人は殺さないでください! 色々な情報を教えてもらいたいので……」


 ルフトは控えめに提案するのであった。

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