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異世界・オブ・ザ・デッド ~才能ゼロの魔術師だけど世界を救いたい~  作者: 結城 からく


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第十五話 炎の禁術師と狐面の怪物

 稲荷とラミルが動き出した瞬間、ルフトは制御室を飛び出した。

 巻き添えを食わないためだ。

 あの場にいても彼にできることはない。


 ルフトは入口の陰から両者の戦いを見守る。


 稲荷はさっそく鉈を掲げて突進した。

 熱線を受けても怯まずに斬りかかっていく。

 化け物じみた生命力に任せて殺すつもりらしい。


 一方、ラミルは僅かに焦りを見せる。

 強引に接近してくる稲荷に戦慄しているのだ。


 当たり前だろう。

 常人ならなるべく魔術を避けようとするのだから。


 さらに性質の悪いことに、稲荷は熱線で穴だらけになろうが死なない。

 出血量や零れ出る臓器から考えるに、既に何度か絶命していてもおかしくないが、元気に殺しにかかってくる。

 その存在はもはや悪夢と表現しても差し支えあるまい。


「このっ、侵入者風情がぁ……!」


 ラミルは熱線では埒が明かないとして別の魔術を使おうとするも、鉈を避けるのに精一杯だった。

 無詠唱で放てるのは熱線の魔術だけらしい。


「あはァッ! 情けないねェ」


 稲荷は嘲笑しながら遠慮なく鉈を振るう。

 豪快に空振りしようがお構いなしだ。

 床や天井、調度品などを切り裂きつつ、遠慮なく攻め立てていく。



 やがて、ラミルは壁際まで追い込まれた。

 逃げ場はない。

 ラミルは悔しげに歯噛みする。


 対する稲荷は、鉈を回して歩み寄っていった。

 狐面の上からでも歓喜しているのが見て取れる。


 ラミルは息も絶え絶えに罵倒した。


「この、化け物が……!」


「なぜだかよく言われるねェ。ただの学生なのにさァ」


 肩をすくめた稲荷は鉈を振り下ろす。

 致死の一撃はしかし、ラミルに触れる寸前、甲高い音が鳴り響いて刃が食い止められた。


「おりょ?」


 不思議そうに首を傾げる稲荷。

 腕に力を込めても、ギリギリと軋む音がするばかりで刃は進まない。


 目を凝らせば、半透明のガラスのような膜がラミルを覆っていた。

 ルフトは瞬時に膜の正体を察する。


(あれは、障壁の魔道具……!)


 魔力を流すことで、すぐさま防御障壁を展開する魔道具。

 防御魔術が専門のラミルが自作したものに違いない。

 それならば稲荷の斬撃を防いだ堅牢さにも納得ができる。

 奥の手として忍ばせていたようだ。


「ハッハ。油断したなぁ? 異様にタフなようだが、こいつを食らっても平気でいられるかな」


 障壁で守られるラミルは素早く詠唱を済ませると、稲荷に向けて手をかざした。

 稲荷の胸元で小さな炎が発生し、渦を巻いて圧縮されていく。


「んー? なんだこれ――」


 障壁を斬り割るのに夢中だった稲荷は、胸元の異変に気付くのに遅れる。


 直後、炎が弾けて巨大な爆発を起こした。

 調度品が吹き飛んで壁や床が焼け焦げて抉れ飛ぶ。


 ほぼ密着した状態で爆破を受けた稲荷は、爆風と高熱に炙られながら床を錐揉みして転がっていった。


 同じ至近距離でも障壁に守られていたラミルは無傷だ。

 白煙が漂う中、ラミルは障壁を解除して息を吐く。


 魔道具使用による魔力消費は相当なものらしい。

 常時発動できるほどではないようだ。


 ラミルは険しい表情ながら微笑む。


「馬鹿め。禁術の呪炎だ。骨の髄まで燃やし尽くすぞ。私の勝ちだ」


 ラミルはぎろりとルフトを睨んだ。

 彼は黒い魔術書を手に、人差し指を立てる。

 指先はルフトを捉えていた。


「ルフト・パーカー。貴様もすぐに死体の仲間入りだ。安心したまえ、苦しみは一瞬で終わる」


「ラミル先生、あなたは……」


 ルフトは後ずさる。

 互いの距離は十メートルもない。

 高速で迫る熱線を避けるのは至難の技――否、ルフトには不可能だろう。


 ルフトは死を予感して目を瞑る。

 ラミルの指から熱線が放たれようとするその時、白煙の中から人影が飛び出してきた。


 それは一見すると黒焦げの死体であった。

 しかし、ひび割れた狐面の奥で輝く狂気の双眸が、彼の生をありありと主張している。

 黒焦げの人影――稲荷はラミルのもとまで一直線に疾走し、血みどろの手刀を振りかぶった。


 ラミルは驚愕に目を見開く。


「き、貴様は……!?」


「クヒヒッ、油断したのはどっちか、なッ」


 熱線が稲荷の額を貫き、手刀がラミルの肩から腰までを斜めに横断する。


 室内に訪れる数瞬の沈黙。

 直後、鮮血を溢れさせながら、ラミルの上半身がずれ落ちた。

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