接触
ジャシュカが告げられた部屋へ向かった。そこには奇々怪々な光景が広がっていた。
大の男が美しい黒髪の少女に殺されようとしている。男の顔には涙の筋がいくつか作られ、少女は無機質な表情のまま淡々と首を絞める。
異様で異常で異質な光景に一瞬思考が停止したが、すぐさま男の救出にかかった。
ジャシュカは大の男を腕力だけで殺しかける少女は、相当強力なのだろうと思い、新たに手に入れた武器の七割程度の力を使った。
左手の掌に移植された人工皮膚が新たな彼の能力。これはただの医療用人工皮膚ではない。軍事開発された兵器である。彼が無意識の中で選択した能力――空気攪拌。幾通りもある中から何故これを選んだのかは、彼自身の意識化では理解できない。しかし、この人工皮膚は、今では肘の下あたりまで成長し、範囲を広げている。そしてその干渉能力、識閾値もこの研究施設でも例に見ない値なのだ。
彼はまず、自分の左手に空気の壁を展開させると、それを彼女に向けて飛ばした。
すると、少女の華奢な体は、思いのほかあっさりと男の上から弾き飛び、床の上に倒れた。
男が運び出されている間、彼女は倒れたままそれを眺めていた。男が連れだされると、ジャシュカは少女と二人きりになってしまった。
ジャシュカは彼女に近づいて行った。彼女はそのままピクリともせずに、近寄ってくる見たことのない大きな男をじっと眺めている。そして、目の前まで来ると、ようやく身体を起こした。
「アナタ……は……誰?」
「ジャシュカ=ドラコニス。お前の名前は何だ?」
「……わか……ら、ない」
すると、ジャシュカにヴィクターから通信が入った。
「いやぁ~すまないねぇ。すっかり忘れていたよ。彼女を作ったときに考えてたんだけど。彼女の名前はブラーシュ=ウェポンだよ。フフフ。どうだい?まさに彼女にピッタリだ」
それだけ言うと、通信は切れてしまった。
「ブラーシュ=ウェポン。お前の名前だ」
「ブ、ラーシュ?」
「そうだ」
こうして、罪深い人間と残虐な武器は出会った。