少女
男は耳に装着していたイヤホン型の小型無線機を通して施設の責任者のうちの一人とやり取りをしていた。
「やあ、ミスター・モンスター。調子はどうだい?」
道化を演じるような調子で、それは話しかけてくる。
「いつも通りだ、ヴィクター」
元エリート軍人らしい適当な返答。過不足なく上官の求めるノルマをクリアする。
「いつもながらエクセレントな返事だよ。それが本当だと信じているよ、ジャシュカ」
ヴィクターは口癖のような笑いを一つした。それはこの世の全てが彼の支配下であるような感じがすると、いつもジャシュカは思っていた。
「フフフ。今日は君にひとつお願いしたいことがあるんだ」
「何だ?」
「フフン。それはだね、君の新たなキャリアの始まりになるかも知れないことだよ。それを君に授けようかと思ってね。どうだい?魅力的だろう」
軍に所属していたころの第一のキャリアを失ってから二年。第二のキャリアを手に入れるための階段――薬物中毒からの立ち直り、軍事実験の実験体、兵器との融合。
そのすべてが報われようとするかのような提案。
「何をすればいい」
「フフフ、そうこなくては。さすがジャシュカだ。では、説明をしよう――」
ジャシュカが呼ばれた部屋へ着くと彼はモニターを見るように告げた。そこには1人の少女が横たわっている。
「フフーン。アレを見て君はどう感じる?」
カラフルに染められた髪をきっちりオールバックにセットした、精悍な顔立ちの男が口角をニッと上げ、ピエロを連想させる表情で覗き込んできた。
「特には何も感じないが。あの子がどうかしたのか」
「フフフ。アレは僕が作り上げた最高にして最強の兵器さ!掛けてもいい、僕は今後アレ以上の作品を作り上げることはできないとね!」
ジャシュカは静かに驚いた。なんせ、そこに映っている少女は本当に華奢で何の穢れも知らない人間に見えるからだ。
「フフーン。ジャシュカ、君おどろいてるねぇ」
この男には隠し事など不可能なのだろう。全てを見透かすようなグレーの瞳。そこには、自らも知らない己が映し出されるよう。ジャシュカはその目が苦手だった。
「では君がさらに驚くことを言ってあげよう。その数々の爆音を聞いて狂ってしまったかもしれない耳をよーく澄まして聞いてくれよ」
男は自信に満ちた、芝居ががった口調とオーバーにもとれる身振りでジャシュカに告げた。
「僕はあの兵器を君にプレゼントしようと思っている。否!君にプレゼントしよう!」
とても誇らしげに、鼻を膨らませ胸を張って告げた。
「さぁ!アレのいる部屋はこの廊下の突き当たりのエレベーターを降りたところにある!エレベーターを降りたらあとは道なりに進めば、君は次のキャリアを進めることができるだろう!」
「キャリア」という言葉に、胸の深いところで何かが疼くのを感じた。過去の栄光への未練。過ちへの罪悪感。新たなキャリアへの熱望。
「了解した」
ジャシュカはモニターに映る少女を静かに見つめた。