咽び
「これでよし。それじゃあ今日は何をして遊ぼうか。と言いたいところだが、今日は一緒にあるものを見てもらうよ」
男が合図を仲間に送ると、壁にはめ込まれた巨大なモニターにその映像は流れた。
まずはじめ――狭い空間の映像。恐らく戦闘機の機内。機内カメラにより録画されたものと推測。操縦者は男。彼は恍惚とした表情を浮かべ、涙を流しながら笑っていた。
その次――上空からの映像。恐らく先ほどの戦闘機につけられた機外カメラにより録画されたものと推測。地上に降らせる劣化ウラン弾の雨、雨、雨……。地上には敵も味方も、無関係な一般市民も逃げ惑う。そんな彼らを蒸発させ、引き裂き、吹き飛ばし、貫く。黒に赤はよく映える、夜の深淵の闇に呑まれた地上に真っ赤に光る点の群れ。めくるめく赤と黒の混合世界。
最後――再び機内の映像。男は笑っている。涙を流して笑っている。
少女はその猟奇的な映像に見入っていた。それは彼女にとって、とても新鮮で鮮烈で烈火の如く彼女を包みこんでいくものだった。
映像を見続けている彼女の様子を見て、男は問うた。
「これをどう思う?僕に教えてくれるかな?」
少女は画面から目を放さず、憑かれたようにカタコトな言葉で答えた。
「いたぁ……い、の?」
人形のような作り物のような笑顔で男は小首をかしげる。
「怪我したところが痛いのかな?それなら大丈夫だよ。すぐに痛くなくなるお薬を持ってくるからね」
すると少女は首を横にふるふると降った。長くて真っ黒な艶やかな髪が、果実の香りのするシャンプーの匂いを辺りに振りまく。
「ちがぁ……う、の。この、人……いたぁ……い、の?」
男は驚いた。何故なら、この映像のパイロットには人間から見て痛みを感じるような場面が無かったからである。少女は一体何を見て、そう思ったのだろう。
この様子を別室のモニターで見ていたこの研究所の責任者の一人はにんまりと笑った。
「フフ。新しいデータが取れそうだ。彼女にミスター・モンスターを与えてみようか」
男は内線を使い、誰かを呼んだ。