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何をもって悪役令嬢というのか。これがわからない

「おい。そろそろ祈りの時間だ。礼拝をさせてくれ」


 朝の夜明けの光を感じて、簀巻き(すまき)のアミーラは牛車を走らせるミノタウロスに声をかけた。牛の引く荷車を牛頭の筋肉怪人が操るのはどうかとアミーラは思う。


「ぬ?もうそんな時間か」


 ミノタウロスはビックリするほどあっさりと牛車を止めてくれた。そして相棒のコボルトを起こす。

 コボルトはミノタウロスに比べればかなり小柄な、それでも十歳のアミーラと比べれば多少は体格のよい犬頭の男である。


「おし、じゃあ嬢ちゃん始めるか」


 ミノタウロスはアミーラを縛っていた縄を外すと、彼女を挟むようにして、ミノタウロス、アミーラ、コボルトの順番に座った。そして太陽の方角に向いて祈る。


 ・・・予定が狂った。


 十日ほど前時折盗賊だのゴブリンがうろつく程度の比較的平穏な帝都近郊の街道を歩いていたアミーラは

このミノタウロスに拉致された。


 歩きなれた慣れた田舎道という事もあった。慢心もそこらのゴブリンや盗賊なら五匹十匹程度あしらう自信はあったが、今回は少々分がわるかったようだ。


 そもそも大勢の警備兵や冒険者の後ろについてゴブリンや盗賊退治の見物をしていた時と違い、彼女一人では巨漢の牛男相手に成す術はなかった。


 そして簀巻きにされて荷物と一緒に東の方向に運ばれている。


 その方向にあるのは、十年前にこの世界にあられたという骸骨の姿をした魔術師___当人は魔王マイルズと名乗っているらしい___真偽は定かではないなが、高位のアンデッドが数多くの魔物を従え、国を築き、人間との戦に備えているのは間違いないだろう。


 今現在アミーラがその領土に向かって拉致されているのは疑いようはない。

 で、礼拝するふりして逃亡しようとしたのだが。


 見事に失敗したようだ。


「しかし驚いたな。お前達人間も偉大なる神、ダヌ・セイニーを崇めているとは」


「なに?お前達もダヌ・セイニーに祈っていたのか?」


 アミーラは驚いた。


「偉大なる神ダヌ・セイニーはこの世界が造られてから5億7600万年の後に地上に現れ、すべてを救ってくださると言われている」


「まさかお前ら人間も同じ神に祈ってるとは思わなかったな」


「御祈りが終わったら朝飯にするぞ」


 左右両方の耳に牛男と犬男の声が聞こえてくる。ほどなく祈りの時間は終わり、そして朝食が始まった。


 干した果物を練り込んだ固いパン。水分がほとんどなく、夏でも日持ちするだろう。宴会用に用いられる無駄に香辛料や砂糖を使ったパンと違って甘くなく、普段の食事には向いている。


 そしてチーズ。長方形の厚紙に包まれた物をナイフで人数分に切り分ける。元々チーズは保存食なので取り扱いやすいし、腐りにくい。


 奇妙なのは彼らが瓶に入れて持ち運んでいる黒と白の粉が混じった粉末である。これを道端の湧水。川の水。池の水。それらを鍋に汲み、焚火にかけて湯にして注いで溶かして飲む。若干牛乳の味がする不思議な飲み物が出る。


 同じものをミノタウロス達も飲んでいるし別に毒入りという事もないだろう。むしろこの粉を溶かしたお湯を飲み始めてから健康になった気がする。まぁ砂糖みたいなもんだろう。


「のう。妾をさらってどうするつもりなのだ?」


 思い切ってアミーラは尋ねてみた。


「知らん。俺達は人間共の国へ行って、貴族か金持の娘をさらってこいて命令受けただけだ」


「あ。これ便所紙な。用事が済んだら出立するぞ」


 いつも思うのだが、トイレをするフリして逃げようとしても必ず森の中で見つけられてしまうのはなぜだろう?ふと疑問に思ったが、アミーラは自分にケツを拭く紙を渡した相手の顔を改めて見直した。犬の顔をしている。


「もしかしてお前。鼻が効くのか?」


「ああそうだけど?暗い迷宮の中で明りのつけた冒険者がいるならいいカモだな。臭いで場所がわかるから、こっちは黒い布でも被れば一方的に飛び道具で攻撃できるぞ。で、それがどうかしたのか?」


 結局、アミーラは道中脱出に成功することなく彼らと共に魔王領に運ばれていくことになった。

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