さる貴族の娘と、その両親について
アミーラは父を知らない。
というか母も知らない。
それについては正規遠征軍についての説明から始める必要がある。正規遠征軍というというのは今から遡る事数百年前人類諸国連合が『わるいまもの』を滅ぼして世界を浄化する。
そんなご立派なお題目が領土拡張や、財宝の獲得。本来王位のない次男三男が跡継ぎに収まる為長男を戦地に送るついでに暗殺者をついで送り付ける。
そういった権力闘争などに利用されはじめるまで数十年もかからなかった。
正規遠征軍の派遣事態もいい加減なもので、今年は洪水で橋が流されたから中止だとか、凶作で兵の食料が用意できないからやめにするとかそういうレベルの寄せ集め軍隊でしかなかった。
ただ、その年は実に二十年ぶり。五十万人の騎士を敵地に送り込むことが可能となった。
この『五十万』という数字には実は帳簿上の数字であり、本当は五十万ではない。
例えば騎士がいる。その女房がいる。自分が正規遠征軍として戦地に赴いている間、留守の間に女房が浮気しないとも限らない。
そこで多くの騎士達は自分の妻を一緒に連れて行くことを常としていた。既に子供がいれば、その子も当然連れて行くことにした。
アミーラの場合、母が既に妊娠中だったため、そのまま屋敷に残された。これは不幸中の幸いだったともいえる。
ともかく、『五十万』の騎士のうち、実際に武器を持って戦えるのは二十万程度で、残りはその家族と考えていい。
正規遠征軍が魔物の住む領土に侵攻すると、一匹の骸骨が現れた。
何の服も鎧も着ていない。単なるスケルトンに、彼らには見えた。
騎士のうち、聖騎士の者が前に進み出た。彼は行掛けの駄賃のつもりで。そして味方の騎士を鼓舞するつもりでその一匹のスケルトンを葬り去るつもりだった。
次の瞬間骸骨は叫ぶ。
「貴様!聖職者だな!ターンアンデッドなどさせものかあああああああああああああ!!!!!」
骸骨は。上級高位魔族トヨヒサルスによって異世界より召喚された。後に魔王マイルズと呼ばれる彼は。
己の弱点である聖属性魔法を喰らう前に闇属性即死魔法を全力で放った。
「す、すごい。まさかお前がこんな力を隠し持っていたなんて・・・」
魔王マイルズを召喚した上級高位魔族トヨヒサルスは喜びに打ち震えていた。
一瞬にして息絶えた一万人ほどの騎士の中に、アミーラの父がいた。
しかしすべての騎士が魔王マイルズによって葬り去られたわけではない。
北部海岸塩田で有名なコルサコフ拍などの活躍により、実に十万人近くの騎士が無事生還を果たしたのだ。
「御無事でなりよりです。御館様」
老執事は主の帰りを喜んだ。
「しかし奥方様は残念でございましたな」
「別に構わん。十年以上かまってやったのに世継ぎの一人も産み落とせない女はな」
「怖れながら。そのような事は屋敷の外では口にせぬ方がよろしいかと」
「ところで、庭の手入れをしていた娘がいるな。良い尻をしている。今晩当たりどうかな?」
「怖れながら。あの者は身分が低うございます。帝都で御館様の御帰還を祝う祝賀の催しが行われるのでその宴席の出席者からお選びになられるが宜しいかと」
「しかたない。もうしばらく我慢するか」
一方アミーラの母であるが。
夫の悲報を受けたためか、病気を患い、早々に亡くなってしまった。
だからアミーラは屋敷に飾られた絵画の中でしか、自分の両親の顔を知らない。




