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残虐な天使の調べ -Dark of Mysteria-  作者: hyukkyyy / 神宮由岐
●第1部 問題編: 慈悲深き悪魔の調べ
8/10

第7話 富樫弁護士との対談Ⅵ

「富樫さん、つまりあなたはそれが言いたいだけなわけですね。つまり、僕は記憶を失っているフリをしているのではないか、と」

「いえいえ、そんなそんな」と手を振った。

「そういった可能性があると、ひとつの仮説を提案をしたに過ぎません。いえいえ、仮説と言うのもおこがましいものだ。そういったお伽噺がこの世にはあるんだよ、と、ちょっとした気分転換で言ったに過ぎません。アフリカの子供に金太郎の昔話を教えてあげるのとまったく同じです」



 と、まったく悪びれずに言うのだから大したもんだ。弁護士というのは口が回らないとできない商売らしい。




「結局のところ私が言いたいところはですね、こういうことです。


 人間の脳というのは結構いい加減なものなんです。いや、当たり前といっちゃ当たり前なのかもしれません。なにせコンピューターなんかよりよっぽど高性能で原理も完璧には解明されてはいないシロモノなんです。だから、人間の脳をいい加減だ、と表現するのはそう、あまり褒められたことではないのかもしれませんね。人間が観測したものが宇宙のすべてだ、っていう人間本位の突飛な考えがありますが、私はあまりそういったアレは好きではないんですな。人間がわからないだけであって、実際は何かとてもつもないことが起きているわけですから、いい加減というよりむしろ、未知なことが起きている、と言うべきですかな。特に脳の機能についてはそういった傾向が強く見られます。



 とまぁ、こんな偉そうなことを言っている私ですが、実際な脳についての確固とした、基礎的な論理とかを知っているわけではありません。いわゆるひとつの知ったかぶりってやつです、いや、お恥ずかしい。大学時代は法律の勉強ばっかりしてたもんですからね、まぁ、そこまで熱心に勉強していたわけではありませんが、何はともあれ、そういうことです。



 正直、こんなこと言ったらいけなのですが、私にとって白銀様が記憶を詐称していようがどうしようがどうでもいいことなんです。私自身、今行っているこれは所詮仕事のひとつでありますし、私のクライアントと違って今回の事件を何としてでも解決したい、と心の底から願っているわけでもないんです。まぁ、所詮弁護士にとって依頼人なんて金ヅルにしかならないということですな。というか今回は弁護士、といより興信所の探偵のような役割を担っているわけですがね。もちろん、私自身、まったく興味を持っていないということではありませんよ。




 そりゃあ今まで人っこ一人死んだことがないような、でもなんとなくホラースポットのひとつ、という認識しかなかったような魅琶社と、橙坂の森で少女が一人死に、そしてさらに善良な青年5人が次々とその森で亡くなった、まさに怪奇現象です。オヤシロ様の祟りというものが1年に1人が死に、1人が行方不明でしたかな。対してこっちはたった1年の間に6人も死んでしまったわけです。いやはや、祟り神に果たしてランク、階級というものが存在するのかどうか私の知る限りでは分かりませんが、もし仮にあるとしたら橙坂の森にいるかもしれない魅琶の神の祟りの方が恐ろしいのかもしれませんな。




 なんてったって、向こうさんは5年で10人ですが、こちらの祟りとやらがもし5年も続いてしまったら、――まぁ、そこまで祟り神さんもバーゲンセールをするとは思いませんが、総計30人も死んじゃうわけですよ。文字通り出血大サービスってわけですな。そりゃあ、そんな事件に、まったく興味がないわけではありませんよ。なんてたって、誰が、何のためにそんな大量殺人をやったのか、もちろん6人が同じ場所で殺されたから、という理由だけで犯人が同じと決めつけてはいませんよ、これももちろん仮定という領域内でのお話です。だからここから先はすべてにおいて、『もし』という単語が頭に付くわけですが、もしその6人を殺した犯人が同じ犯人だとするならば、これはもうアレです。どういった経緯で殺人を犯したのか、その犯人の過去に一体何があったのか、を知りたいですね。




 別に私は犯罪心理学とかに特別これといった興味はありませんが、そうですね、何かと話のタネにはなります。話のタネのために聞くわけではなく、まぁ、なんだ。一種の好奇心ですな。人間である以上これはさすがに仕方のない話です。芸能記者とかいう仕事が未だに成り立っているのもこういう人間の下心があるからでしょうなぁ。AV女優が存在する理由と一緒です。もっと言ってみれば、新聞記者とも変わらない。



 

 まぁそれはともかく、私にとっては好奇心以上のものは今回の件にはまったくないんです。クライアントからお金を頂き、今回の捜査を行っている。ただただ、それだけの話なんです。私には神の力も、手を頭に乗せるだけですべての病を癒すマジック・タッチなるものも持ち合わせておりませんから、あなたの記憶を『ほーい、ほい』と、簡単に、単純に取り戻すことはできないのですよ。それは私のクライアントも重々承知なはずです。……というか、承知していないと困るのですが、ですから私としては神谷様の記憶が戻ろうと戻るまいと、そしてその先を、無礼を承知で言いますが、記憶がないと嘘をおっしゃっていても、真をおっしゃっていようと、本当に、それこそまさに心の底からどうでもいいことなんです。



 おわかりですか、私にとっては、どこぞの宗教団体のトップが死刑判決を受けることぐらいにどうでもいいことなんです。もちろん、白銀様が記憶を取り戻されたら、それはそれは素晴らしいことです。そしてさらに、それを私に話してくださるとお決めになってくださったら、さらに素晴らしことです。クライアントからの情報と、私のとある筋から情報によりますと、白銀様はね、どうもあの事件、橙坂森少女惨殺事件に深く関連いるらしいのです。そして、私のクライアントは、――もうここまで来てしまったので守秘義務を破って言ってしまいますが、その橙坂森少女惨殺事件、及び関連する事件の真実、調査報告をクライアントに耳を揃えてお渡しする、というものなんですよ」



 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 橙坂森少女惨殺事件に深く関連しているらしいのです。


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